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君だから《レーヴェン side》

「なら、おかしくないですか?だって、私達は何もされていませんよ?体に触れるのはもちろん、私物にだって」


 『魔力を込める隙なんてなかった筈だ』と訝しみ、ルーシー嬢は眉を顰める。

虚言の可能性を捨てきれない彼女の前で、私は小さく肩を竦めた。

自分の信用のなさに、少しばかりショックを受けて。


「率直に答えると、マーキングしたのは君達じゃない」


「じゃあ、どこに……?」


「────校舎裏の植物さ」


 自分の魔力属性とも相性がいいため、私は定期的に校舎裏へ魔力をばら撒いていた。

いつでも、『千里眼』を使える状態にするために。


「ピントを調整すれば対象の周囲の様子も確認出来るから、その特性を活かしたんだよ。まあ、視れるのはせいぜい対象の半径二メートル前後だけどね」


 『そこまで広範囲じゃない』と語る私に、ルーシー嬢は複雑な表情を浮かべる。

『問題はそこじゃない』とでも言いたげだが、一先ず不満を呑み込んだ。

と同時に、納得を示す。


「事情は大体、分かりました。疑ってしまい、申し訳ございません」


 潔く頭を下げ、謝罪するルーシー嬢は精一杯の誠意を示した。

かと思えば、厳しい目でこちらを見つめる。


「それはそれとして、具体的にいつ頃から監視を?」


「えっと、野外研修のあとかな?」


 あまりの切り替えの速さに若干たじろぎながらも、私は何とか返答した。

すると、ルーシー嬢はしばらく黙り込み……急に『ん”ん……!』と声を漏らす。


「嗚呼、もう……!アレとか、ソレとか全部聞かれていたのかと思うと、めっちゃ恥ずい!」


「なんか、すまないね」


 ただ謝ることしか出来ない私に対し、ルーシー嬢は真っ赤な顔を向けた。

かと思えば、八つ当たり気味にこう叫ぶ。


「てか、まず何で監視なんてしていたの……ですか!?」


「いや、妙にコソコソしているからつい気になって……でも、私自身ここまで長く監視するつもりはなかったんだよ。だけど、魔王とか世界滅亡とか言われたら放っておけないだろう?」


「なら、せめて言って……くださいよ!何でずっと黙っていたんですか!?」


「いや、前世の話も聞いちゃったからどうも言い出しにくくて……」


 それに魔王のことは私達に相談する流れになっていたから、わざわざ言わなくてもいいかと思ったんだ。


 とはさすがに言えず、ひたすら謝罪を繰り返した。

が、ルーシー嬢の反発は凄まじく……三十分くらい、説教される。

そして、『盗み見はもうしない』という確約を取り付けると、ようやく態度を軟化させた。


「はぁ……今回の件はもういいです。許します」


「ありがとう」


「いえ」


 『過ぎたことはもうしょうがないし』と肩を竦め、ルーシー嬢は嘆息する。

やれやれと言わんばかりの態度を取る彼女の傍で、リディア嬢が不意に顔を上げた。


「あの、私からも一つだけいいですか?」


 おずおずといった様子で片手を挙げ、リディア嬢はこちらの反応を窺う。

どことなく不安そうな彼女を前に、私はニッコリと微笑んだ。


「もちろん、構わないよ。言ってごらん」


 出来るだけ優しく話の先を促すと、リディア嬢はホッとしたように息を吐く。


「えっと、レーヴェン殿下はその……偽物の私をどう思いますか?」


 そっと自身の胸元に手を添え、リディア嬢は曖昧に笑った。

きっと、どんな顔をすればいいのか分からないのだろう。


「『怖い』とか、『不気味』とか思いませんか?だって、もしかしたら……リディアに無理やり、憑依したかもしれないんですよ?」


「いや、それはないね」


 思わず否定の言葉を口走る私は、『おっと……』と心の中で呟いた。

私自身、驚いたから。

まあ、本心だから別に構わないのだが。


「私の知っている君は、他人の体を無理やり奪うような子じゃない。どちらかと言えば、そうだね……巻き込まれた側かな?」


「!!」


 図星だったのか、リディア嬢はピクッと反応を示す。

『何故、それを?』と言わんばかりに目を見張る彼女の前で、私はクスリと笑みを漏らした。

『やっぱりね』と思いながら。


「もちろん、憑依のことを聞いて驚きはしたよ?そんなこと有り得るのかって、何度も疑問に思った。でも、恐怖や不安は特に感じなかったかな。元々の……憑依する前のリディア嬢を知らないからというのもあるけど、私は────」


 そこで一度言葉を切ると、私は彼女の頬に手を滑らせた。

柔らかな感触に目を細めつつ、うんと表情を緩める。


「────君自身を買っているからね」


「!!」


「本物か、偽物かなんて関係ない。私は君だから優しくしたいし、君だから力になりたいし、君だから甘やかしたいと思う」


 親指の腹で優しく優しく頬を撫で、私は少しだけ顔を近づけた。

タンザナイトの瞳を真っ直ぐ見つめ返し、『大丈夫、本心だよ』と示す。

と同時に、コツンッと額同士を合わせた。


「ねぇ、私に君の役に立つチャンスをくれないかい?」


「そ、れはどういう……?」


 困惑気味に眉尻を下げる彼女に、私はクスリと笑みを漏らす。

ようやく、彼女の素に触れられた気がして嬉しかったのだ。

心が満たされていく感覚を覚えながら、私はおもむろに身を起こす。


「恐らく数日以内に皇城から呼び出しを受け、憑依について話すことになると思う。魔王も絡んでくる以上、無視は出来ないからね。でも、君が望むなら─────事実を誤魔化してあげよう」


「「!?」」


「憑依の件がどうであれ、私達のやることは変わらないからね。ちょっとくらい、都合のいいように話したっていい筈だ。ねっ?」


 動揺を示す女性陣に向かって呼び掛け、私は目を細めた。

と同時に、手を伸ばす。


 あと少し……あと少しだけ、彼女の素に触れたい。

もっと弱いところをさらけ出してほしい。

どうせ、私は君を手に入れられないのだから……今だけは私を頼って、縋って、依存してほしい。


 デビュタントパーティーの頃から芽生えていた感情が拗れに拗れ、私の欲を刺激した。

この無垢で愛らしい女の子を歪めたい衝動に駆られる中、彼女は────


「ごめんなさい、レーヴェン殿下。せっかくの申し出ですが、遠慮いたします」


 ────見事、私の期待を裏切った(欲望を打ち砕いた)

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