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もう知っている《レーヴェン side》

◇◆◇◆


 おっと、危ない危ない。


 倒れたリディア嬢を咄嗟に抱き止め、私は一つ息を吐く。

傍に立つ三人も同様に、安堵を見せていた。


「レーヴェン殿下、運搬は僕が……」


「いや、俺が……」


「悪いけど、今のニクスとリエートには任せられない。君達は一度、頭を冷やした方がいい。何故、この子が倒れたかは言われなくても分かるだろう?」


 ニクスとリエートの申し出をハッキリ拒絶し、私はリディア嬢をお姫様抱っこする。

『渡さないよ』とでも言うように。


「受け入れる覚悟をしてから、おいで。じゃないと、皆傷つく羽目になる」


「「……はい」」


 誰も幸せにならない結果になるのは薄々気づいているのか、二人は案外素直に頷いた。

普段なら、強硬手段へ出てでもリディア嬢の傍を離れないのに。


「リディアをお願いします」


「俺らも出来るだけ早く、気持ちに整理付けるんで」


「ああ」


 首を縦に振って了承し、私はルーシー嬢に向き直った。


「ルーシー嬢、悪いけど付き添ってくれるかい?さすがに女性と二人きりでは、変な誤解を生みかねないから」


「分かりました」


 心配そうにリディア嬢を見つめながら、ルーシー嬢は二つ返事で了承する。

『一応、治療しておいた方がいいかな?』と迷う彼女を他所に、私はニクスとリエートに再度挨拶した。

そして保健室に行くと、リディア嬢をベッドに寝かせる。


「リディア……」


 彼女の額に手を当て、ルーシー嬢は切なく呟いた。

かと思えば、こちらに厳しい目を向ける。


「レーヴェン様、先程の対応は凄く感謝しています。私では、あんな風に場を収められなかったと思うので……でも────何故、そんなに落ち着いていられるんですか?」


 案の定とでも言うべきか、ルーシー嬢は警戒心を剥き出しにした。

『元々あまり動じない性格とはいえ、さすがに冷静すぎる』と。


 まあ、普通は違和感を抱くよね。

私も同じ立場なら、探りを入れた筈だ。


 『ここまで直球ではないけど』と肩を竦め、傍にあった丸椅子へ腰掛けた。

ルーシー嬢もこの場に残るつもりなのか、壁際から椅子を引っ張ってくる。


「それで、どうなんですか?」


 ベッドを挟んだ向かい側に腰を下ろし、ルーシー嬢は語気を強めた。

『絶対に全部聞き出してやる』と意気込む彼女の前で、私は苦笑する。


「そんなに問い質さなくても、ちゃんと説明するよ。リディア嬢が目を覚ましてからね」


「────あの、私がどうかしましたか?」


 控えめに声を上げ、私とルーシー嬢を交互に見るのは────間違いなく、リディア嬢だった。

どうやら、今しがた目を覚ましたらしい。

困惑気味に視線をさまよわせる彼女に、私とルーシー嬢は経緯を説明した。

すると、リディア嬢の顔色はどんどん悪くなっていく。

恐らく、倒れる前の記憶を思い出したのだろう。


「あぁ……そうでしたね、私……」


 額に手を当て、悲しげに笑うリディア嬢は少しばかり涙ぐむ。

でも、決して泣かなかった。

きっと、自分に泣く権利なんてないと思っているのだろう。


 どうして、君はいつもいつも自分に厳しいのかな。

別に泣いたって、いいのに。

私もルーシー嬢も君を責めることはないよ?


 『もっと甘えてほしいのにな』と思案する中、リディア嬢はそっと身を起こした。

かと思えば、私達に向かって頭を下げる。


「お二人とも、色々とありがとうございました。もう大丈夫ですので、私のことは放って……」


「そんなこと出来る訳ないでしょ、お馬鹿!」


 自分の微妙な立場を理解しているからこその発言に、ルーシー嬢は目を吊り上げた。

勢いよく立ち上がりリディア嬢の肩を掴むと、力任せにブンブン揺さぶる。


「今、一人にしたら絶対悪い方向に考えるじゃん!貴方、自分のことに対してはシビアというか容赦ないんだから!他人にはゲロ甘のくせに!」


「えっ?いや、そんなことは……」


「ある!異論は認めない!」


 『反論したら、このほっぺ引きちぎるよ!』と言い、ルーシー嬢はリディア嬢の頬を引っ張った。

病人が相手でもお構いなしの彼女は、『バカ!あんぽんたん!マヌケ!』と子供のような悪口を吐く。


「いい!?私は何があろうと、貴方の友人!辛い時こそ傍に居るし、支えるから!」


「ルーシーさん……」


 感激したように目を潤ませ、リディア嬢は口元に手を当てた。

感謝と尊敬の籠った眼差しを向ける彼女の前で、ルーシー嬢は少し頬を赤くする。

今更ながら照れ臭くなってきたのか、リディア嬢の頬から手を離し、椅子に座り直した。

かと思えば、わざとらしく咳払いして背筋を伸ばす。


「ま、まあ……とりあえず、私は貴方の傍から離れないってことで。それより、レーヴェン(・・・・・)から話を聞きましょ。こいつ、絶対何か隠して……」


「る、ルーシーさん!口調が……!」


 慌てた様子で話を遮り、リディア嬢はこちらを振り返る。

と同時に、ルーシー嬢が『あっ……』と声を漏らした。

サァーッと青ざめていく彼女を前に、私はゆるりと口角を上げる。

だって、あまりにもおっちょこちょい過ぎて。


「ふふふっ。大丈夫だよ、気にしてないから。というより────君が私を……いや、私達を呼び捨てにしていたのはもう知っている」


「「!?」」


 『話の導入にちょうどいいだろう』と暴露すると、二人は石のように固まった。

視線だけ動かして互いを見遣り、『どういうこと!?』と無言で問い掛け合っている。

実に分かりやすい反応を示す二人の前で、私はまたもや笑みを零した。


 本当に見ていて飽きないな、この二人は。


 『表情がコロコロ変わって面白い』と思いつつ、私はおもむろに足を組む。


「詳しく話すと長くなるから、先に結論だけ言うね────私は校舎裏でのやり取りを盗み聞き……いや、この場合は盗み見かな?していたんだ」


 『口唇を読めばある程度、言葉は分かるからね』と付け足し、ニッコリと微笑んだ。

すると、リディア嬢が間髪容れずに声を上げる。


「それは本当ですか?殿下のお言葉を疑う訳ではありませんが、ここ最近はしっかり対策を立てて密会を隠していたので……いまいちピンと来ないと言いますか」


 『簡単には信じられない』と主張するリディア嬢に、私はスッと目を細めた。


「対策というのは、結界と幻術のことかな?」


「!!」


「悪いけど、それらは私に通用しないよ。だって────『千里眼』を通して、観察していたからね」


 『その程度の対策じゃ、防げない』と説明する私に、リディア嬢はようやく理解を示す。

対策の内容まで言い当てられたため、信じるしかないのだろう。

でも、彼女より警戒心の強いルーシー嬢は納得いかない様子だった。


「確か、『千里眼』って対象をマーキングする必要があるんですよね?」


「ああ、そうだね」


 間髪容れずに肯定すると、ルーシー嬢は僅かに身を乗り出してきた。


「なら、おかしくないですか?だって、私達は何もされていませんよ?体に触れるのはもちろん、私物にだって」

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