表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/91

妖精結晶《ルーシー side》

 どうもフィリアに魔導師というイメージがなく、勝手に選択肢から排除していた。

よく考えてみれば、校舎裏でも姿を隠すため魔法を使っていたのに。

『ゲームでは、一度も使わなかったからなぁ』と思い返す中、フィリアは────長い爪で、突然手のひらを切った。


「えっ!?ちょっ……何を!?」


「何って、妖精結晶を作ろうとしているだけだけど」


 コテンと首を傾げるフィリアは、不思議そうにこちらを見つめた。

かと思えば、ハッとしたように口元に手を当てる。


「あら、もしかして────妖精結晶の原材料が妖精の血だって、知らなかったの?」


「はっ……!?そうだったの!?」


 『初耳なんだけど!?』と衝撃を受け、私はたじろいだ。

敬語が外れたことにも気づかず動揺する私を前に、フィリアはクスリと笑う。


「驚きすぎよ」


「いや、だって……!血ですよ!?もし、何かあったら……」


「大袈裟ね、全く」


 呆れたように肩を竦め、フィリアは血の滲む手をギュッと握り締めた。

かと思えば、直ぐに開く。


「ほら、完成よ」


 魔法か何かで固めたのか、フィリアの手には妖精結晶……もとい、血の塊が。


 見た目はルビーと変わらないけど、血なんだよね。

貰っても、大丈夫なの?というか────


「────多くないですか!?」


 形や大きさに差はあれど、私の目に狂いがなければ五個あるように見える。

国宝並みに貴重な妖精結晶が。


「そう?これくらい、普通よ」


「いやいや!そんな筈ないでしょう!」


 ゲームでは、どんなに頑張っても一個しか貰ってなかったもん!


 とは言わずに、受け取りを断固拒否する。

妖精結晶の原材料を知る前なら喜んで貰ったかもしれないが、知った以上無理だ。

フィリアの身を削って作ったと言っても過言ではないソレを、ホイホイ貰う訳にはいかない。

『いや、一個は欲しいけど!』と苦悩する中、フィリアはズイッとこちらに妖精結晶を差し出す。


「いいから、貰って」


「で、でも……」


「今日は本当に楽しかったの。人間の文化や価値観に触れられたのもそうだけど、貴方とたくさん話せて凄く幸せだったわ。こんなに充実した時間を過ごすのは、久しぶり。だから、そのお礼がしたいのよ」


 両手を挙げて仰け反る私に、フィリアは尚も食い下がってきた。

どこか必死さを感じる表情でこちらに詰め寄り、私の手を取る。

あまりにも強引なフィリアに目を剥いていると、彼女は少し顔色を曇らせた。


「何より────魔王に……ハデス(・・・)に立ち向かうなら、これくらい備えておかないと」


「!?」


 今、魔王のこと『ハデス』って呼んだ……!?

もしかして、顔見知り!?


 『てか、魔王にも名前あったんだ!』と衝撃を受ける中、フィリアは穏やかに微笑む。

でも、ちょっと寂しそう……というか、不安そうだった。


「ルーシー、私は貴方のことが大好きなの。だから────死んでほしくない。少しでも、生存率を上げたいのよ」


 そう言うが早いか、フィリアは私の手に妖精結晶をねじ込んできた。

『いや、まさかの力技!?』と驚いていると、彼女はそっと眉尻を下げる。


「許されるのであれば私もハデスの討伐に加わりたいけど、妖精の掟でそれは禁じられている。私達の力は大きすぎるから、たとえ世界のためだろうと……友人のためだろうと、他種族の諍いに介入出来ない」


 力になれない現状を憂いながら、フィリアは強引に妖精結晶を握らせてきた。

かと思えば、私の手を上から包み込む。

まるで、『手放さないで』とでも言うように。


「これが私の出来る精一杯なの。せめてもの手向けだと思って、受け取ってちょうだい」


「フィリア……」


 懇願にも近い声色で頼み込まれ、私は迷いを抱いた。


 正直、妖精結晶を五個も貰えるのは有り難い。

リディアも含めて全員に行き渡るから。

魔王戦で活躍すること、間違いなしだろう。

だから、ここは受け取るべきなんだけど……打算だらけで近づいた分、申し訳ないというか。

しかも、これフィリアの血だし。


 様々な要素を並べ立て、悶々とする私はじっと手を見つめる。

『どう考えても貰いすぎだよなぁ』と考える中、ふとフィリアの手が目に入った。

その瞬間、あることを思いつく。


「────フィリアの手の怪我、治療してもいいですか?」


「えっ?」


「元はと言えば、妖精結晶を欲した私のせいだし……それくらい、させてください。そしたら、気兼ねなく妖精結晶を受け取れます」


 『ちゃんとアフターケアはした、と考えられるので』と言い、ギフトの力を解放した。

まずは凝血した患部を浄化で綺麗にし、続いて治癒を施す。

見る見るうちに塞がっていく傷口を前に、フィリアは『まあ……』と声を漏らした。


「『光の乙女』の能力って、本当に凄いわね」


 微かに光る患部へ顔を近づけ、フィリアはゆるりと口角を上げる。

『興味深い』と言わんばかりの反応を示す彼女の前で、私はスッと目を細めた。


「はい、完了です」


「ありがとう」


「いえ、こちらこそ。頂いた妖精結晶は、全て大事に使わせてもらいます」


 妖精結晶は消耗系アイテムのため、無闇矢鱈に使うと直ぐになくなる。

なので、きちんと使いどころを見極めなければならなかった。

いそいそと妖精結晶をポケットに仕舞い、私は『大切に保管しなきゃ』と考える。

万が一、盗まれでもしたら大惨事だ。

『一旦、レーヴェンに預けておこうかな?』と悩んでいると、フィリアは満足そうに微笑む。

きっと、無事報酬を受け取ってもらえて安心しているのだろう。


「さて────そろそろ、本当にお別れね」


 すっかり真っ暗になった辺りを見回し、フィリアは『残念』と肩を竦めた。

かと思えば、名残惜しそうに手を離す。


「今日は本当にありがとう、ルーシー」


 寂しげな笑みを浮かべ、フィリアは一歩後ろへ下がった。

それを合図に、彼女の体は足元からサーッと消えていく。

まるで、砂の城のように。

多分、転移魔法の類いなんだろうが……何の痕跡も残さず、行ってしまうのかと思うと切ない。

『妖精の魔法って、進歩しているなぁ』と感心する余裕もなく、私は悲しみを募らせた。

そうこうしている間にも、フィリアの体は消えていき……やがて、顔だけになる。


「ねぇ、ルーシー────必ず生きて、帰ってきてね」


 最後の最後まで魔王戦のことを……私の身を案じ、フィリアは完全にこの場から姿を消した。

と同時に、結界も解除される。


 ありがとう、フィリア。

自分の命も、この世界も必ず守ってみせるよ。

だから、安心して。


「私には、頼もしい友人達が居るんだから」


 フィリアの居た場所に向かって呟き、私は空を見上げた。

輝く星や月を眺めながら、『フィリアもこの景色を見ているといいな』と考える。


 さてと!黄昏れるのはこの辺にして、リディア達のところへ行こう!

妖精結晶の事とか、魔王の事とか報告しなきゃ!


 『休んでいる暇なんて、ないぞ!』と自分に言い聞かせ、私は踵を返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ