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私の流儀《ルーシー side》

◇◆◇◆


「ヒロイン役を降りてください、ルーシー嬢」


 そう言って、私に詰め寄ってくるのはクラスメイトのアマンダ・エイミー・アボットだった。

取り巻きを使って周囲を固める彼女は、多目的室から出られないよう画策する。

もうすぐ練習の開始時刻だと分かった上で。

つまり、単なる嫌がらせ。


 きっと、レーヴェンのお相手を務めるのが平民の私で不満タラタラなのだろう。

ゲームのアマンダも、同じようなことをしていたから。

一つ違う点を挙げるとすれば、リディアの取り巻きじゃないことくらい。


 『イザベラと同様、改心するかな?と思ったんだけど』と肩を竦め、私は嘆息する。

どうやって、ここから抜け出そうかと思って。

シナリオ通りに行けば、いずれかの攻略対象者に助けられるが……どこまでゲームの知識を信じて、いいのやら。

『最悪、アマンダの思惑通りになるかも……』と危機感を抱いていると、彼女に耳を引っ張られた。


「ちょっと!聞いてらっしゃるの!?」


 耳元で大声を出し、アマンダは『しっかりして下さる!?』と喚く。


「もう……!何で人の話も聞けない貴方が、ヒロイン役なのよ!明らかに不釣り合いではなくて!?」


「……」


 それは私が一番分かっている。ただのモブだった私に、こんな大役務まらないって。


「リディア様の方が、余程ヒロイン役に相応しいわ!ただの平民の貴方なんかより、ずっとね!」


「っ……」


 今までずっと感じていたことを指摘され、私は思わず顔を歪めた。

胸の奥がズシリと重くなり、息をするのも苦しくなる。


 ……時々思うことがある。

本当は私が悪役で、あの子がヒロイン役になる筈だったんじゃないかって。

だって、そうじゃないとおかしいもん。ガチで配役ミスじゃん。

でもさ────


「あら、出しゃばったことをした自覚はおありなのね?良かったわ!」


 黙りこくる私を見て、アマンダは高笑いした。

『分かればいいのよ』とでも言うように。


「さあ、今からでも身の程を弁えてヒロイン役を降りなさい!それが皆のためよ!」


 ここぞとばかりに畳み掛け、アマンダは私の心をへし折りに掛かる。

『愚鈍な平民の分際で!』と罵る彼女を前に、私はフッと笑みを漏らした。

と同時に、アマンダの手を掴み、


「ぜっっったいにお断り!」


 と、断言する。

そして、耳から彼女の手を引き剥がした。


 ────こっちにだって意地はある。

リディア達にここまで色々よくしてもらって……協力してもらって……信じてもらって、無責任にヒロイン役を放り出すことなんて出来ない。

皆の期待に応えないと。


 痛む耳をそのままに、私はアマンダの目を真っ直ぐ見つめ返す。

自分の中にある迷いを捨て去るように。


「たとえ、不釣り合いでも大役を任された以上やり切る!それが私の流儀よ!」


 『こちとら、もう開き直ってんの!』と心の中で叫びながら、私は口角を上げた。

強気な態度を見せる私の前で、アマンダは一瞬たじろぐ。

まさか、こんなに早く立ち直るとは思わなかったらしい。

『あともうちょっとだったのに』と眉を顰め、悔しそうに歯軋りした。

かと思えば────


「聖女候補だかなんだか知らないけど、平民の分際で調子に乗らないで!」


 ────怒りのままに私の頬を叩こうとする。

それも、扇で。

『ちょっ……武器あり!?』と焦る私は、反射的に目を瞑った。

衝撃に備えて、身を固くするものの……何も起きない。

痛みはおろか、頬に何か当たる感触さえなかった。


 あ、あれ……?


 訳が分からず一先ず目を開けると、そこには────リディアの姿が。

こちらに背を向ける形で間に入った彼女は、扇をバッチリ受け止めていた。

『いや、どういう運動神経してんの!?』と驚く私を他所に、リディアは厳しい目でアマンダ達を見る。


「これは一体、どういうことですか?アマンダさん」


「り、リディア様……あの……私は……」


 いつもニコニコ笑っているリディアが無表情だからか、アマンダは顔を青くした。

取り巻き連中に関しては腰を抜いて、後ずさっている。

まあ、かくいう私もちょっとドキドキしているが。恋愛とは別の意味で。


 怒っているリディアを見るのは二回目だけど、相変わらず恐ろしいな。

とはいえ、前回より全然マシだけどね。


 『クラスメイトだから手加減しているみたい』と推測する中、リディアは小さく深呼吸する。

おかげで、少し空気は軽くなった。


「アマンダさん、どうしてルーシーさんに暴力を?」


「そ、それは……えっと……ルーシー嬢にヒロイン役を降りてもらいたくて……」


「何故です?ルーシーさんは誰よりも熱心に練習しているのに」


 『彼女以上に適役は居ないと思いますが』と言い、リディアは怪訝そうに眉を顰める。

『もしや、ヒロイン志望だった?』と頭を捻る彼女の前で、アマンダはフルフルと首を横に振った。


「……り、リディア様にヒロイン役をやってもらいたかったんです」


「私に?」


「はい。だって────」


 そこで一度言葉を切ると、アマンダは僅かに口先を尖らせた。


「────リディア様に悪役は似合いませんもの」


「……えっ?」


 先程までのシリアスな雰囲気から、一変……リディアはショックを受けたような顔で固まる。

『わ、私ってそんなにダメ……?』と落ち込む彼女を他所に、アマンダは


「だって、リディア様はとってもいい方ですもの!誰にでも優しくて、親切で!まさにヒロインにピッタリ!悪役なんて、相応しくありませんわ!世界一、ミスマッチです!」


 と、力説した。

それが更にリディアのHPを削っているとは、露知らず。


「わ、私って……本当に悪役向いてないのね……」


「はい!」


 力いっぱい頷くアマンダに、リディアはトドメを刺される。

胸を押さえて蹲る彼女の前で、私は一つ息を吐いた。

『だから、いつもそう言っていたでしょう』と言う代わりに。


「えっ?えっ?リディア様!?一体、どうしまし……」


「アマンダ、リディアのHPはもう0よ」


 ポンッとアマンダの肩に手を置き、私は小さく首を横に振る。

『もう手遅れだ』と示す私の前で、彼女は目を白黒させた。


「きゅ、急になんですの!?それに呼び捨て……」


「────今回のことは水に流してあげるから、しっかり反省するように!あと、リディアをそんなに慕っているなら、もう少しこの子の趣味に寄り添ってあげて!」


 これ以上の長話は御免なのでアマンダの言葉を遮り、捲し立てた。

そしてリディアを無理やり立たせると、手を引っ張る。

『ほら、歩いて歩いて』と指示を出しながら、私は後ろを振り返った。


「じゃあ、また後でね!」


 アマンダ達に笑顔で挨拶し、私はこの場を後にする。


 根はいい子達みたいで、良かった。

話を聞く限り、リディアのことが好きすぎて暴走しちゃったようだし。

あと、多分シナリオの力も働いていたのかな……?

もし、そうならより一層気を引き締めないと。

アマンダ達の行動すら制御する強い力だとすれば、本番当日もアクシデントに見舞われるだろうから。


 シナリオにあった事故の光景を思い浮かべ、私は警戒心を強める。

『リディアには、後で相談しよう』と思いつつ、とりあえず一階のホールへ急いだ。

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