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ヒロイン

「いい?よく聞いて。私はこの世界────『貴方と運命の恋を』のヒロインなの!」


 自身の胸元に手を添え、ルーシーさんは堂々と宣言した。

────が、やはりちょっと恥ずかしいのか頬は赤く染まっている。

『自分でヒロインを呼称するのは照れ臭いものね』と共感を示す中、彼女はビシッとこちらを指さした。


「だから、もう邪魔しないで!悪役令嬢モノの流れを期待しているんでしょうけど、そんなの絶対に許さないから!」


 半ばヤケクソになりながら叫ぶルーシーさんは、『シナリオ改変ダメ絶対!』と主張した。

桜色の瞳に強い意志を宿す彼女に対し、私は困ったような表情を見せる。


「えっと……よく分かりませんが、とりあえず私は何をすれば?」


「悪役になりきってくれれば、それでいい!少なくとも、これまでのような真似はしないで!」


「これまで……?」


 『私、何かしたかしら?』と首を傾げ、ここ最近の記憶を溯る。

でも、全くと言っていいほど心当たりがない。

『普通に過ごしていただけだけど?』と疑問に思う私を前に、ルーシーさんは目を吊り上げた。


「とぼけないでよ!あんなに堂々とフラグを折りまくっていたくせに!」


「フラグ……?と言いますと?具体的にどのような?」


 『フラグ』という言葉自体は知っているものの、シナリオを妨害した覚えはないため、頭を捻る。


 私は攻略対象者達にルーシーさんの悪口を吹き込んだことも、交流を断つよう説得したこともない。

基本的にノータッチ。

だって、私が介入することじゃないと思うし。


 などと考えていると、ルーシーさんがギョッとしたように目を剥く。


「はっ?まさか、無自覚!?シナリオ、知らないの!?」


「すみません……実は『貴方と運命の恋を』をプレイする前に、亡くなってしまったので……パッケージイラストとあらすじしか知らないと言いますか」


「えぇ!?あの神作をプレイしてないの!?それは人生損している!────じゃなくて!」


 前世ヲタクだったのか、ルーシーさんは思わず大きな声を上げてしまうものの、何とか理性を保つ。

そして、雑念を振り払うようにブンブン頭を振ると、私の肩に手を置いた。


「ほら、入学式の日に転倒した時とか!」


「えっ?あれって、普通に転んだだけじゃなかったんですか?」


「違うに決まっているでしょ!本来であれば、攻略対象者のリエートが駆けつけてくれるシーンだったの!それなのに、貴方が……」


「す、すみません……」


 『確かにリエート卿なら、助け起こしてくれそう』と思いつつ、私はシュンと肩を落とす。

言われてみれば、転んだヒロインを助けるという展開は乙女ゲームや少女漫画において王道だから。

ルーシーさんがヒロインだと知らなかったとはいえ、もう少し考えてから行動するべきだった。


 目の前に困っている人がいると思ったら、居ても立ってもいられなかったのよね……。

こういう短絡的というか、単純なところは直した方がいいかもしれない。


 『私の悪い癖ね』と反省し、下を向く。

あまりにも申し訳なくて、ルーシーさんの顔をまともに見れなかった。


「こ、この際だからあの時のことはもういい!別にそこまで重要な展開じゃなかったし!いくらでも取り返しがつくから!」


 落ち込む私を不憫に思ったのか、ルーシーさんは慌ててフォローを入れる。

私の肩を前後に揺さぶりながら、『さっさと元気になりなさいよ!』と叫んだ。


「あ〜〜〜!もう!何でこんなお人好しが、悪役令嬢になってんの……!?完全に人選ミスじゃん!」


 『扱いにくすぎる!』と文句を垂れつつ、ルーシーさんは私の肩から手を離す。

と同時に、コホンッと一回咳払いした。


「とにかく、これからは悪役になりきること!いい!?」


 『断罪についてはある程度便宜を図ってあげるから!』と言い、本題へ戻る。

何か使命感のようなものに取り憑かれているルーシーさんの前で、私はそっと眉尻を下げた。

あまりにも彼女が必死すぎて、『出来ません』と言えるような雰囲気ではない。

何より、私が力を貸すことによって彼女の助けになるなら……協力してあげたかった。


「分かりました。精一杯、頑張ります」


 ────という宣言のもと、私は悪役になりきることを誓った。

のだが……悪役っぽいことが、よく分からない。

いや、一応イメージはつくのだが……やりすぎるとイジメになってしまうし、こちらの気も悪いのであまり酷いことはしたくない。

『目指すはスマートな悪役』と思い立ち、ちょうどいい匙加減を探した。


 まず、怪我を負わせるのは絶対ダメよね。

となると、精神攻撃……?

嫌味な言動でも取れば、いいのかしら?


 昨日の一件からずっと頭を悩ませている私は、教室の隅っこの席に居るルーシーさんを見つめる。

次の授業の準備へ取り掛かる彼女を横目に、ゆっくりと立ち上がった。


 今はちょうど休み時間。仕掛けるなら、このタイミングしかない。


 お互い忙しいこともあり、モタモタしている暇はないため、早々に作戦を開始する。

『悪役になり切ってみせる!』と意気込みながらルーシーさんの席へ近寄り、声を掛けた。

無難に挨拶から入り適当に雑談を繰り広げてから、私は満を持してあるセリフを投げ掛ける。


「ルーシーさんの髪色って、とても華やかですね」


「えっ?あっ、うん……ありがとう」


 唐突な嫌味に驚いたのか、ルーシーさんはパチパチと瞬きを繰り返す。

『何?いきなり……』と言わんばかりの表情を前に、私は踵を返した。


 作戦、大成功ね。まさにスマートな悪役だったわ。

きっと、ルーシーさんも褒めてくれる筈。

まあ、遠回しとはいえ相手に暴言を吐くのは心苦しかったけど。


 自分の席へ戻る私は、ズキリと痛む()を手で押さえる。

と同時に、少し言い過ぎてしまっただろうかと悩んだ。

先程の発言は『華やか=派手=奇抜』という意味合いで、言ったのだが……人様の外見を貶すのはやはり、いけないように思える。

自分の本意ではないにしろ、下品な行いだ。


 次から、容姿関係の嫌味はなしにしよう。

あと、言い方ももっとマイルドにして……ルーシーさんが傷つかないよう、配慮するのよ。


 ────と自分に言い聞かせ、私はスマートな悪役になり切ることを徹底した。

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