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真新しい服とローブに身を包んだ雄介にイアンはほっと息をついた。
こんな立派な服はいらないと固辞しようとする雄介とどうしても一番高価な服を着せたいアーブンとの間に一悶着、何とか着せたら今度は馬車には乗れないと一悶着、更に薬代で一悶着。
あまりの欲のなさに護衛たちからも心配される始末だ。
ローエンを出しに何とか服を着替えさせ、馬車に乗せたイアンは疲労困憊だ。
「しかし旦那も大変だなあ、ちっとも目が離せねぇじゃねか」
笑い交じりに護衛にからかわれたイアンは苦笑いしか出てこない。
「ずっと、見ていられるといいんだがな。残念ながらそんな関係じゃない。」
「ありゃま、そうりゃあんた頑張んねえと」
がははと大きく笑いながら背中をばしばしと叩かれてイアンは若干不機嫌そうにしている。
声は届かないが楽しそうなイアンを馬車から覗いていた雄介はほっと息をついた。
膝の上でローエンは向かいに座った少女に手遊びを教えてもらって上機嫌だ。
「素敵な旦那さまですね。」
アーブンの勘違いに慌てて雄介はかぶりを振る。
「ち、違います!イアンさんは助けてくれただけで、あんないい人僕には勿体なさすぎます」
間違われてまんざらでもない自分に雄介は困惑した。
あんな姿見られて、望みなんて、
そこまで考えて雄介は苦笑いをこぼした。
あり得ない、こんなキズもの。
バツ一の友人が再婚の際相手の親に言われたと憤慨していたのを思い出した。
「ほんとに、僕は助けてもらっただけです。なんにも返せない」
「そんなことはないと思いますよ?彼はあなたの事を大変大切にしているように見えます」
そうだといいなと思いながら雄介は目を伏せた。
馬車の旅は早かった。
あっという間に目的地に着いてしまう。
入口で門兵の姿を見て雄介は護衛たちに売りつけた薬の代金を握りしめた。
馬車が近づくと門兵が走り寄ってくる。
「アーブンさんおかえりなさい!お疲れ様です!」
「やあ、クリスタさんただいま。仕入れはうまくいきましたよ!頼まれていたものもばっちりです」
お茶目にウィンクするアーブンさんにクリスタと呼ばれた門兵は嬉しそうに破顔する。
そこで雄介に気がついてぺこりと頭を下げられた。
「こちらは?」
「あぁ実は、薬師様なのですが貴族の片に無体をされそうになりまして・・・、」
「え!?」
と声を上げたクリスタは雄介を見るとなるほどと納得したように頷いた。
「身分証などは気になさらずに!アーブンさんが身分証のようなものです!ようこそリエタの町へ!」
そういってクリスタがもう一人の門兵に手を上げると羽橋が降りてくる。
きょとんとしたままの雄介にアーブンは楽しそうに笑い声を上げた。
町の中はレンガ造りの家が立ち並び、人の通りも多い。
ローエンはきょろきょろと窓から外を眺めて興奮気味だ。
明るい声の方に目をやると子供たちが駆けて行く。
「素敵な町ですね」
「そうでしょう、私はこの町がとても好きなんですよ。きっとあなたも気に入りますよ」
涙ぐんだ雄介はそっと視線を外に外した。
すると馬にまたがったイアンが側に寄ってくるのが見えた。
馬の上から器用にこちらを覗きこんだイアンはちらりと雄介を見るが何も言わずに居てくれた。
「アーブン、悪いが俺たちは木漏れ日亭の前に降ろしてくれ、後日、改めて薬師殿は連れて行く。」
「ええ、もちろん。必ず、後日お願いしますね。」
そういうと雄介たちを乗せた馬車だけ少し細い脇道に入っていく。
そうかからず馬車は大きな宿の前に停まる。
御者をしていた護衛がイアンの馬を受け取ると馬車につなぐ。
開いた扉から差し出された手に雄介はそっと手を重ねた。
ローエンを抱いたままだと高い段差はなかなかに怖い。
イアンの何気ない気遣いが雄介はとても嬉しかった。
「ちょっとー!アーブンさん!さすがに店の前に横づけは邪魔よー!!」
ドアが勢いよく開くと大柄な女性が顔を出した。
「サマンサ、久しぶりだな」
ちょっとご立腹の女性にイアンは気易く手を上げた。
じろりと視線をよこした女性は、目をかっぴらいた。
「あ、あんたー!!!!ちょっと!義兄さんだよ!!」
開け放たれたままのドアに勢いよく怒鳴るとどかどかと寄ってきてイアンの首元をひねり上げた。
その様子にぎょっとした雄介は思わず、その女性にしてはなかなかにたくましい腕に縋りついた。
今度は女性がぎょっと雄介を見ると、ローエンが声を上げた。
「めー!」
見ると女性の腕を小さな手で一生懸命にぺちぺちと叩いてる。
それに背中を押されて雄介も声を上げた。
「はな、離してください!ら、乱暴はいけませんー!」
「おいおいおい!兄さんだって!!」
大きな足音と共にライオンのようなの獣人が飛び出してくる。
イアンを見るなり飛びかかるようにサマンサごと抱きしめた。
もちろん、そこには雄介とローエンも含まれている。
あまりの圧迫感に雄介はローエンをつぶされまいと必死に腕に力を入れる。
「く、くるしいですぅぅぅっ」
「わ!わるい!つい!まさか兄さんがこんな可愛い嫁さんと子供を連れてくるなんて思わなくて!」
「ち、違います!僕は助けてもらっただけで、僕みたいなのとなんて、イアンさんに失礼ですから・・・」
言いながら目を伏せてしまった雄介の上でライオンのようなの獣人はぎょっと兄を見る。
雄介の連れている子供はどう見ても獅子の子だ。
確かに雄介は男のようだが、妊娠する手立ては十分にあるし何より、そっと自分から引き離したあたりイアンが雄介をどう思っているなどわかりやすい。
どういうことだ?と言わんばかりのカロンにイアンはため息をついた。
「とりあえず、中に入れてくれ。ゆっくり話がしたい。このままではアーブンにも悪いしな」
はっとして空気のように存在を消していたアーブンに全員の視線が集まる。
にこにこ笑いながらアーブンは、では。と軽快に馬車に乗り込むと手を上げた。




