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18.ちゃんとお薬です




「薬は完成で間違えないと思うんですが、如何せん情報の少ない薬なので、鑑定をお願いしたいんです。」


遅めの夕食を取りながら、雄介は呟いた。

そこで必要になるのは薬の鑑定を正確に、そしてより詳しくできる者だ。


「オーエンリッヒ先生か」


「はい、先生なら鑑定できるんじゃないかと思うんです。」


「なんの鑑定じゃい?」


「お薬なんですけど、ヤギ先生はこれ」


薬を片手に振りかえった雄介はオーエンリッヒが豊かに蓄えたひげを撫でながらそこに立っている事に声を詰まらせる。

ふぉふぉふぉと愉快気に声を上げるオーエンリッヒに雄介は顔を青くする。

雄介は知っているこの顔は怒っている時の顔だ。

イアンもなんとなく気付いたのか若干腰が椅子から浮いている。

ひげを撫でていた手が雄介の頭に伸びる。

がっしっと音がしたのは気のせいではないはずだ。


「せ、せんせい!頭から、みしって、変な音がしますぅぅぅ!」


いつもと違う雄介の雰囲気にイアンは椅子に腰を落ち着けた。


「痛かろう、痛かろう、なんせ痛くしとるからなあ」


「ああああ!ごめんなさい!ごめんなさい!」


雄介の悲痛な声にご機嫌で夕食を口に運んでいたローエンの手が止まる。

ローエンは雄介の頭を締めているオーエンリッヒに目をやって、あわあわとしている。

小さき獣ローエンは本能で逆らってはいけない人だと理解したらしく、雄介を心配そうにしながらもそっと持ちあげたパンを口に運んだ。


「まったく、目を離すとすーぐこれじゃ。わしゃ何といったかの?そうほいほい珍しい物をつくるんじゃないと言っとろう?」


「ごめんなさい」


開いている椅子にどっかりと腰を落ち着けたオーエンリッヒは深いため息をつく。

ふと、自分を窺い見ている小さな瞳に気付くと相好を崩した。


「これはこれは可愛くも雄々しき獅子の子じゃ」


「ユーいじめちゃ、めーよ」


小さな声で抗議するローエンにオーエンリッヒはふぉふぉふぉと声を上げる。


「悪い事をしたり、約束を破ったら大人でも怒られるんじゃよ?」


え?そうなの?と言う様にローエンの瞳が雄介に向けられる。

雄介は顔をひきつらせた。


「ぼくの威厳が・・・・」


「威厳より危機管理じゃ」


「はい、すいません」


食べ終わったローエンを膝に抱え、オーエンリッヒに説教をされながらも雄介は嬉しそうだ。

オーエンリッヒに気付いたサマンサが嬉しそうに寄ってきてカロンが顔を若干引きつらせて慌てて挨拶に来たりで、雄介は改めてすごい人だったんだなと思う。

雄介にとっては厳しい師匠で優しい先生だ。

運ばれてきた料理に舌鼓を打ちつつ、雄介とぽつりぽつりと話をするオーエンリッヒにイアンはまるで親子のようだな思った。


「さて、うまい料理も食べた、うちの弟子の無茶も概ね理解した。無事に泊まるところも確保できた、部屋でゆっくり見せてもらおうかの」


オーエンリッヒがゆっくり立ち上がると、雄介も一緒に立ち上がる。


「私もかわまないだろうか」


一緒に立ち上がったイアンに雄介がほっとした顔をする。


「構わんよ、この子を助けてくれた恩人じゃ」


連れだってオーエンリッヒの部屋に移動した4人は緊張した面持ちでテーブルを囲んでいる。

ローエンも顔をきりりと引き締め雄介のまねをして座っている。

思わず破顔しそうなのを雄介は堪える。


「ふむ、不思議な色合いじゃのう」


持ちあげた分をしげしげと眺めながらオーエンリッヒは呟く。

その様子を固唾をのんで雄介は見ている。

ことりとテーブルの上に薬を置くと、オーエンリッヒは手をかざす。

雄介では聞き取れない呪文のようなものをオーエンリッヒが口の中でつぶやくとかざしていた手の周りに光の粒が舞う。

雄介はこの瞬間が好きだ。

使う魔法や、人、魔力の量で色が異なる。

オーエンリッヒの使う魔法はどれも緑がかっていて、暗い魔の森を彷彿させる色や、新芽の柔らかな黄緑のような色の時もある。


「間違いないのう、これはこれは、生きてるうちにお目にかかるとは・・・・」


「出来てます!?ちゃんとお薬ですか!?」


「出来とる出来とる。よう手に入ったの羽蛇の子の鱗など」


「あ、なんかすごく協力的で!」


「・・・・・協力的?」


腕まくりをした良い笑顔の雄介は腕輪のように捲きついた羽蛇をオーエンリッヒに見えるように向けると、幼い子供のように自慢げに笑う。

頭を抱えそうになるオーエンリッヒにイアンは何とも言えない表情でそっと目をそらした。


「しまいなさい。」


首を一瞬だけもたげてあくびをした羽蛇を一瞥すると、オーエンリッヒはやれやれと首を振った。


「何でもかんでも連れてくるんじゃない!」


怒られた。

子供のような理由で怒られる雄介に、どちらかと言うと連れてくる事を積極的に受け入れたイアンは苦笑いだ。

若干唇を尖らせた雄介は、ローエンになでなでと慰められている。


「それでこれをサマンサに呑ませるのかい?」


オーエンリッヒの問いに雄介は浅くうなづいた。


「ふむ、あの子を育てたのはわしの友じゃ。境遇なら知っておる。あの子がどんなに頑張ったかも、どんなに大切にされとるかも。」


しばらく目を伏せ、考えるそぶりを見せたオーエンリッヒは雄介に淡い笑みを浮かべて見せた。


「反対はせぬよ」


雄介の表情が一気に晴れる。

立ちあがって今にも飛び出していきそうな雄介に、オーエンリッヒは苦笑いでそれを止めるとイアンに夫婦で呼ぶようにと声をかける。

イアンは承知したと部屋を出て行くと、ほどなくして2人を連れてもどっと来た。


「どうしたのさ、改まって!」


サマンサがイアンの背中をばしんと勢いよく叩くと、カロンは苦笑いを浮かべる。

















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