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15.お礼とマジックバック






「しかし、困りました。ユースケ様は恐らく金銭は受け取ってくださらないだろう。」


「まあ、イアンの旦那が居るんで多少は受け取ってもらえるでしょうが、積み上げると逃げてしまいそうでしたね。」


「でしたら、でしたら!これなんていかがでしょう!」


前夜、アーブンは護衛団の団長を務めるマックと商会長室に詰めていた。

そこに現れたのはお盆を持ったリタだ。

リタは二人の前にお盆を置くと、懐から小さな袋を取り出した。


「なるほど、マジックバックですか」


「はい!先ほど鑑定士から戻ってまいりました。これ、容量もさることながら時間停止の機能も付いているようなんです!」


「ほほう」


アーブンは顎を撫でる。

今回の仕入れの目玉商品である。

掘り出し物と言えるだろう。

マジックバックと言っても性能は様々で、容量が狭い物ならそこそこ出回っているが、容量もあって時間停止機能も併せ持っているとなるとかなりの価値になる。

お盆に乗ったあったかい紅茶が湯気を微かに立てている。

アーブンは頷く。


「リタ、良い考えだありがとう」


「お父様!わたくし、薬師様にお薬を卸していただけないかお伺いするつもりでしたの!」


「それはそれは、お父さんも賛成だよ。」


小さな頭を撫でる。

目を輝かせ、嬉しげに話す娘にアーブンは感極まったように涙を溜めた。

失うとこだった。

商談に明け暮れ、目を離したすきに、また大切なものを無くすところだった。

妻が死に、幼い娘が残った。

自分の不甲斐無さ、あの無力感、奮い立ったのは娘がいたからだ。

何人もの仲間を失い、どこにもぶつけられぬ怒りも絶望も、あの暗闇も、もう二度と味わいたくない。

開いた穴を娘と仕事で埋めて埋めて埋めて、結局埋まり切らない。

いつだって怖いのだ。

アーブンはあの日、光を見た気がした。

娘に降り注ぐ妻が残した優しい光。

生きて行こうと強く思える、娘の為に、個の商会の為に、街の為に。

そう思えた。

あの日、強いまなざしで前を向いていた青年のおかげで。

マックが笑う、何度も死地と呼べるようなところを駆け抜けてきた。

お互いに失ったものは多い。

でも、この手に残ったものもたくさんある。


「そういえばあん時の薬、効きすぎて!古傷まで薄くなってるんですよ!」


「ええ!?そんなことあるんですか?」


「いやいやお嬢さん、初めてですよ!」


「これじゃたりないんじゃ・・・・・」


「お父様、金貨詰めましょう!言わなきゃわかりません!」


「いや、あの人多分入ってましたよって返しに来ますよ?」


「ああ!なんて欲のない!」


マックの言葉に想像できてしまったアーブンは頭を抱えた。

結局この話し合いは夜明けまで続いたのでした。














「これって」


「マジックバックですな」


「うわー!うわー!すごい!」


ぼろぼろの見た目だが、持ってみるとしっかりした作りなのがわかる。

雄介は巾着のようなマジックバックの紐をほどき中を覗きこむ。

中は暗く、そこは見えない。

そっと手を入れて雄介は目を輝かせている。

が、その横、積み上げられた金貨には目もくれない、というより見ないようにしている。

なんなら、いりません!と言って逃げ出しそうな雰囲気もある。


「ユースケ様、こちらもぜひ!」


アーブンが笑みを浮かべて、マジックバックに入れようとするのを雄介は何とか阻止しようと体を動かしている。

ため息をついたのは先ほどから目くばせをされていたイアンだ。


「薬師殿、あなたはもう少し意地汚くなった方がいい。」


「えぇー、なんですかそれ」


「ローエンを家族に迎え入れたんです、小さな子供はいくら獣人とはいえ弱い。病気だってするし、怪我なんて日常茶飯事だ。きちんとこれからの生活の事を考えて行くべきだ。」


それはわかっているがどうも雄介は素直に受け取れない。

確かに高価な薬だったし、命の恩人です、と言われればそうなのだろう。

でも、すべては偶然の産物で、雄介が命を賭して助けたわけではないのだ。

どうしても貰いすぎているのでは?という感覚があるのだ。

小さい頃から雄介は人になにかを貰うと言う行為が苦手だった。

何も返せないのでは?貰いすぎなのでは?と、ついつい考えてしまう。

そういう性分なので損しようが仕方ないと思っていた。

でも、と雄介は思う。

腕に抱いた小さなぬくもりを守ろうと思ったのは、決めたのは自分だ。


「そう、ですね。そうですよね。アーブンさんありがとうございます。」


雄介はしっかりと頭を下げた。

アーブンはほっと顔をほころばせた。


「それでですね、」


商人の顔に戻ったアーブンがのりだすように雄介に話しかける。


「ユースケ様の作るお薬なんですが、どれくらいの効能で、どんな種類が作れるのか、詳しく教えていただけないかと思いまして。」


「えーと、種類は結構なんでも作ります。材料さえそろえば、って感じで。効能については、なんていうか、まちまちというか、ヤギ先生のところにいた時は先生が薬の状態を確認してこれは使える、使えないを見極めてくれてたんですけど、自分じゃイマイチわからなくて、」


「・・・・、そうですか」


何か考え込んだアーブンは目をつむってうーんと唸っている。


「わかりました、一度ヤギ先生に御相談に伺いましょう。当面はそうですな、傷薬や風邪薬など一般的によく出回っているようなものを取り扱わせていただけないかと」


「いいんですか!!」


「もちろんですとも!ユースケ様のお薬がどれほどか存じ上げておりますからね!」


興奮気味の二人に、イアンはため息をつく。

この後の展開が予想できるからだ。

そしてイアンの予想道理、買い取り額でもめる二人にうんざりさせられる羽目になるのだった。


「いやいやそれ高すぎます!」

「あの効能ならこれくらい!」

「だめです!薬は売値が高くなったら意味がないんです!」

「問題ないです!」

「だから!」


腕を組んで目を閉じたイアンの横でヒートアップする二人が停まったのは、それから2時間ほどしてからだった。

ぐずったローエンを連れて現れたリタに二人が我に返る。


「ごめんローエン遅くなっちゃったね」


腕に飛び込んできたローエンに雄介の眉が下がる。

ごめんごめんと言いながら頭を撫でる。

とりあえず、アーブン側で一度薬の鑑定をして、それに見合った額で買い取りという事に落ち着いてイアンもほっと息をついた。

昨日のうちに作成しておいた傷薬を置いて雄介たちはアーブン商会を後にした。









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