12
重い鉄製の扉は片方だけ開け放たれている。
なかを覗くと人はすでに出払った後なのかまばらでギルド職員がカウンターの中で忙しなく動いている。
「すまない、アルガダからの依頼の一覧を確認したい」
「はい、ギルドカードの提示をお願いします。」
イアンが首から常に下げているカードを見せると職員ははっとしてすぐには一覧を寄越した。
カードにはランクがあるというのを雄介も知っている。
イアンのはおそらくランクが高いカードなのだろう。
雄介は見たことのない色合いをしていた。
「こちらになります。」
イアンは無言で受け取ると紙をめくっていく。
各町や村、または国ごとに依頼の一覧は作成されるらしい。
何処にいても見れるように各ギルドに必ず置いてある。
「少し、借り受ける」
「はい」
雄介はイアンに促されて椅子に座る。
「これを、こっちはオーエンリッヒ先生、こちらは多分彼だろう」
探し人あり、と書かれた文字のしたに雄介に良く似た容姿の青年の似顔絵がある。
オーエンリッヒがだした方だ。
もう一つは雄介の特徴だけを書いたもの。
「イアンさん、オーエン先生にだけ連絡を取る事って出来るんでしょうか?」
「詳しい話をする必要があるが可能だと思うが、いいのか?」
イアンが気遣わしげな視線をよこす。
雄介は吹っ切れたように笑った。
「これ、読んでもこれっぽっちも会いたい気持ちがわかないんです。でも、オーエン先生、ヤギ先生には会いたいし、伝えなきゃいけないこともあります。」
「・・・・わかった。」
イアンは職員のもとに戻ると少し話をする。
すると職員の一人が奥へと駆けていく。
しばらくすると背の高い男性が悠然と歩いてくる。
イアンに、気づくと一言二言話すと気遣わしげな視線が雄介に向けられた。
「失礼、私はこのギルドのマスターをしていますトーマスと申します。別室で少し話をいいですかな?」
「は、はいっ」
慌てて立ち上がると雄介はイアンと共に奥へと案内される。
ギルドの奥、そこがギルドマスターの部屋だというのにはすぐに気付いた。
乱雑に摘まれた書類を雑に除けて開いた椅子を雄介に勧めてくる。
恐縮して座った雄介にトーマスは笑顔を向けてくれる。
よく見るとイアンに並ぶほどに立派な体格をしている。
ローエンは特に物おじする様子もなく伸ばさせた手を受け入れてわしゃわしゃと頭を撫でられている。
逆に雄介の方がドキドキしてしまうほどローエンが体ごと揺れている。
「あの、もうちょっと優しく!」
「あ!す、すまん、つい。泣かれない事が珍しくてつい」
慌てて手を離したトーマスに雄介は苦笑いをこぼす。
ローエンが不満そうに自分の髪を直すのに手を貸しながら雄介はイアンを見上げる。
ぷーと口をとがらせているローエンはトーマスの撫で方はあまりお気に召さなかったらしい。
雄介に見上げられたイアンは一つ頷くと雄介を促した。
「現時点でわかっている事を話せばいい。」
「えーとですね、ほんとによくわかってないんです。家にいたんです、多分。でも、気付いたらその、荷馬車に居て、奴隷になりました、みたいな事を言われて、暴れたり、逃げようとしたはしたんですが、難しくて、なんか、こう、出発までの間は意識が朦朧としてる感じであんまり覚えてなくて、意識がはっきりし出したのって町をだいぶ離れてからだったので、」
「催眠系の魔法の一種でしょうね、術者から離れることで解除されるなどの条件をつけて行使されたのでしょう。」
「あの、その、こう言っては何なんですが、その、信じてもらえるんでしょうか?何にも証明できないですし、」
「実はね、ユースケ君と言ったか、君が消えてかなり騒動になったようだよ。オーエンリッヒが街なかで魔法をぶっ放すわ、冒険者が総出で街や塀の外などの捜索を始めるわ、一時ギルドは収集がつかなくなったらしくてね。」
「・・・・・え?ヤギ先生が街なかで、魔法・・・・・?え?」
「あの人今でこそヤギ先生とか言われてるけど、王宮にいた時は魔王だの破壊神だの散々なあだ名がついていたからなあ。」
頭上にハテナをいくつも浮かべた雄介にイアンは困ったように首を傾げた。
「知らなかったのか、あの人は戦争の英雄だよ。昔は好戦的で国を1人で滅ぼしたなんて言われていたな。」
「魔術の使い手としては超一流だが教えるのは下手でなぁ、あの頃の王宮魔術師団は兵ばかりだったが実践より訓練の方が辛いと溢していたなぁ。あっとすまん話がそれたな。そんな人が取り乱すほど君を大事に思ってたんだろうな。まあそれだけで終わらんのだけどな。」
トーマスは頭を大きい動作で掻くと懐から一枚の紙を取りだした。
「これはオーエンリッヒが調べ上げた事実だ。アルガダから派遣された捜索隊が昨日、君が乗せられたと思われる荷馬車を発見、だが昨日の時点で君がリエタの町に入ったのは確認が取れたのでオーエンリッヒにはその事実を伝えてある。が、ギルドにもケイスケという人物にも知らせてない。」
雄介は紙を見つめる。
なんて簡単で、なんてくだらない、そう思わずにはいられなかった。




