11.ギルドと決断
美味しい食事と可愛いローエン、幸せな気持ちとは裏腹に、雄介は大変、落ち着かない思いをしていた。
イアンの顔を覆っていた髭が綺麗さっぱり取り払われているのだ。
雄介はただどぎまぎと視線を外すしかない。
のっそりと現れた時にあれ、と違和感は感じたがローエンが側にいた事もあってそっちにばかり気がとられていたのだ。
これがいざ座って正面から見てみたら、
イケメンだろうとは思ってたよ、正直
でも、ここまでだったとは!
髭で覆われていたスッキリとした輪郭、高いすっとした鼻線、少し厚みのある唇がばくりとローストされたチキンにかぶりついたのを見て、雄介はさっと視線をローエンに向けた。
みちゃだめ、みちゃだめ、みちゃだめ、みちゃだめ、
そんな事に気づかないイアンは特になんの反応もしてこない雄介に少し気落ちしている。
朝からなんどか鏡をチェックしたので、おかしくはないはずだ。
何より、ローエンも雄介も大分見た目が変わったにも関わらず、直ぐにイアンだと解ってくれた。
まぁ、それだけでもいいか、とイアンは食事を再開する。
「なんだありゃ、」
そう呟いたのはカロンだ。
ふと、幼い頃から自慢の兄だったが、思春期の女の子達の反応が軒並み残念だったことを思い出した。
なんか、鈍いよね。
そう言ったのは誰だったか。
確かにありゃ鈍い。
当時は自慢の兄にそんな反応をされて大変にショックだったが、今なら解る。
あの時も言えなかったが、これからも言えないなぁとカロンは苦笑いをこぼした。
楽しい時間と言うのは過ぎるのが早い。
ローエンとイアンがあっという間に朝食を食べ終えたのを見て雄介も慌てて最後のスープに取りかかる。
野菜のスープはカボチャのような味がする。
ちょっと欲しそうに雄介を見るローエンにも飲ませながら、なかなかの量だったのをどうにか食べ終える。
直ぐに席を立とうとしたイアンをいつの間にか背後に立っていたサマンサが椅子に座り直させる。
「義兄さんみたいに食べてすぐ動くもんじゃないよ。はい、お茶でも飲んで少しゆっくりしていきな」
「ありがとうございます」
ちょっとすぐには動けなさそうだった雄介は素直にお礼を言ってお茶を受け取った。
フルーツのような香りのするお茶にローエンが興味津々で手を伸ばす。
「熱いからね、気をつけて」
「あーい」
「リエタの花の茶だ。ここらの名産なんだ。」
「そうなんですね、とても良い香りがします。」
だろう、と嬉しそうな雰囲気のイアンに雄介も少し緊張がほぐれてくる。
「そういえば、お代はどのタイミングで支払えばいいんでしょう?」
するとイアンは困った顔をする。
「多分受け取らないと思うが、まぁ、またここに戻ってくるからその時にでもサマンサに聞くといい。」
「ただで泊めて貰うなんてとんでもない!こんな素敵な宿、初めてです」
「そうか、」
イアンが目を細めた。
少しだけ口角が上がる。
それは雄介がはっきりわかる初めての笑顔だった。
「はい、とても素敵な宿です」
雄介の顔にゆっくりと花が咲くような笑顔が浮かぶ。
傷の手当ての後お礼を言うといつもこんな風に笑っていたな、とイアンは思いあたる。
あぁ、この人は今、俺にきちんと心を開いてくれている
それがこんなに嬉しいのか。
イアンはどうしようもなく浮かれる自分に戸惑いながら、雄介の笑顔を見詰める。
ローエンが、自分も混ぜろとばかりに両手を上げて雄介にだっこをねだる。
雄介は笑いながら、ローエンを抱き上げた。
「なーにー、ローエン、良く一人で座ってちゃんと食べたね~、えらい!」
でれでれに誉める雄介に、ローエンも満更でもないのか胸を張っている。
小さい、幼いと思っていたが、ローエンは出来る事が多い気がする。
「ローエンていくつ位なんでしょう、写真には書いてなくて」
「3つかそこらだとは思うがな、俺達獣人は人の子より発達は早い。獅子族で人形の子供は生後20時間程で立ち上がって歩きだす。言葉を覚えるのも人の子より早いと聞いた事がある。だから、教育機関などでは幼い時分程獣人とは別けて教育を受けるだろう?」
「そう、何ですね、そう言うのは良く知らなくて」
「?そうか、国が違えば色々と違うだろう。そういえば、ギルドの登録用機器で解るかも知れない。」
「あ!そうか、あれは年齢や性別もちゃんと出ますもんね!」
「取り敢えず、聞いてみるか」
立ち上がったイアンにならって、雄介も立ち上がる。
「あら、もう行くのかい?」
「あ、あの、これ、良かったら。えーとこっちは荒れた所に塗るのと、こっちはお顔にも使える保湿用のローションです。」
「あら、やだ、あんた遅くまで起きてると思ったらこんなの作ってたの?」
もう、やだよ、仕事ばかねぇ、と言いながらサマンサは嬉しそうだ。
「良く効きますよ、」
「薬師殿のうでは俺が保証しよう」
「あら、あら、そんじゃありがたく!」
いってらしゃい、と元気に見送られて雄介達は宿を後にする。
イアンの少し後ろを歩いていた雄介をイアンの太い腕が横に引き寄せた。
「薬師殿、ちゃんと横に居てくれ。ここは森じゃない。」
雄介はなんだか嬉しくなってはいっとうなずく。
イアンは町を案内しながら迷いなく進んで行く。
時々、人通りを避けてひょいと細い脇道を通ったりしながら、ギルドにはあっという間にたどり着いてしまった。
無骨で大きな建物には威圧感がある。




