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不撓導舟の独善  作者: 縞田
33/35

6-10.5 不撓導舟の我儘

「あ~、しんど」


 教室の内を埋め尽くし、人が溺れてしまうほどにまで至った黒い生物の海――略して、黒海を一人抜け出してきた。オレが泳いできたのは、もちろんゴキブリの海で、ヨーロッパとアジアを股にかけるに内海を泳いできたわけでは断じてない。


 まあ、そんな冗談は置いておくにしても、蠢くゴキブリたちを掻き分けて、出口を探すのには随分と苦労した。


 出口を探している最中、失神中の三人を目撃したものの、担いで出口を探すなんて神業はオレにはできなかったので、敬礼をしてその場を後にした。あとのことは昆虫部と爬虫類部に任せる他なかった。


 そんなわけでオレはいま、図書館棟に向かうべく、三階廊下を歩いている。


 里霧には、図書館棟には行けないと予め断りを入れておいたが、それでも向かうための努力はするべきだろう。


 関わって背中を押した以上、オレには事の顛末を見守る義務がある。


 修復なのか、決別なのか、そのどちらだろうと、見届けなければならない。 


 死に体を押し出して、図書館棟の入り口に到着した。


 厳見の言っていた通り、扉の前には『本日清掃中のため閉館』と書かれている看板が置かれていた。しかも、半紙に筆で書かれている。


 絶対に入れさせないという、染屋の強い意思を感じる。


 オレはその看板を通り抜けて、図書館棟に繋がる分厚い扉を押し開けた。


「いま、どんな感じ?」


 扉を開けると、目の前には、厳見春介と染屋愛歌の二人がいた。


 ふたりとも、一階に視線を落としている。


「終わったか、導しゅ――っ!?」


 オレが二人の横に位置すると、厳見はこちらを向いて固まった。


「間に合ったようでよかったよ、それで、送波はどうだ――えっ!?」


 染屋も同様に凍りつく。


「どうした? ふたりとも黙り込んで」


 忘れていた。


「あっ……」


 オレの顔面はいま、額を切って、顔半分が血だらけということを。


「誰だ、お前はっ!」

「えっ、そこから⁉ オレだよ、不撓導舟だよっ!」


 顔以外の情報で判別してくれよ。


 髪型とか、声とかあるだろ。


「なにその傷、なんで顔の半分なんで血だら!?」

「ちょっと色々あって……」


 ご心配ありがとう。


 心配してくれたお礼というと少し違うが、手伝ってもらった二人には、オレの額の傷と送波がそうするに至った経緯を説明するべきだろう。


 斯々然々、かくかくしかじか。


「立っているのが不思議でならないんだけど……」


 染屋は眉をひそめて、未確認生物を見るかのような視線だった。


「いや、死に体だよ、死に体」


 アドレナリンのお陰で立っていられてるが、もう限界すら超えている。


 気合だけでどうにか立っている状態。


「まあ、オレのことはいいとして、里霧の方はどうなんだ?」

「それは自分の目で観てみればいいよ、ちょうど面白いところだよ」


 したり顔で、言う染屋だった。


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