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不撓導舟の独善  作者: 縞田
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6-2 里霧有耶の宣誓

 あれから数日が経った。


 あれとは何かというと、場所は生徒会室。生徒会唯一のメンバー里霧有耶と、その同級生(?)サリとの言い争いを目撃。


 そして、その末に里霧有耶が生徒会を去った――という意味があれには含まれている。


 放課後の生徒会室には、オレ――不撓導舟ただ一人。


 人が減ったとしても、一人だとしても、オレは生徒会を回さなければならない。

 そんなわけで今日も変わらず、やるべきことをやっている。


 行事企画書はもちろん、各部活動の必需品購入申請書の確認、今日は映画研究会の試写会があるので、それに参加。自主制作のショート映画だったので、それほど時間は取られなかった。


 志操学園の映画館に負けず劣らずのシアター設備がある。


 映像とか音響のことに、あまり詳しくないので言及は避けるが、鑑賞した身から言わせてもらうと、映画館と遜色がない。それだけスクリーンとか音響設備がちゃんとしてる証拠なんだと思う。


 ちなみに、この辺りの設備が整っているのは、理事長が映画好きだからだ。


 映画好きだからってそこまでするか? と思うところではあるが、この設備のおかげで映像系の部活は大変助かっているとのことだ。


 映画館のシート? 椅子? ってなんかいいよな。

 なんかいいんだよな、なんか。


 話が大脱線してしまっているので、本線に戻す。


 行事企画書、必需品購入申請書、試写会を終え、オレは例の如く生徒会室に戻ってきている。


「あ~~、ああっ」


 生徒会室備品老朽化に伴い、一斉に買い替えたうちの一つ、ソファに寝そべる。


「久しぶりに横になった気がするな」


 生徒会室のソファに――という意味で、今日に至るまで立って寝ていたわけではない。

 家ではしっかりと横になって寝ているので、心配には及ばない。

 快眠レベルで言ったら、鼻提灯が浮かんでいるくらいには、毎日快眠だ。


「…………」


 見慣れた天井を仰ぎながら、放り出された左腕をおでこの上に置く。


「…………はあ」


 アイツが来るまではしばらくこうしていよう。

 幾つか考えることがある。

 それまでは、天井を眺めているとしよう。


「――――――――」


 振り返って思い出す、今までのことを、その一挙手一投足を、

 本当にあの言葉が本心なのかを、

 表裏があるのかを、

 思い出して、観察して、断じなければならない。


「この無力感も久しぶりだな」


 独り、そう呟いて。


 自分が全知全能で万能の持ち主なんて思い上がってもいないし、かといって、何もできないような人間でもないことは知っている。できないことも知ってるし、できることも知っている。


 不撓導舟の限界は、不撓導舟が知っている。


 しかし、できたことがあるはずだった。

 できないことではなかったはずだ。

 思い返してみても、どこかで気づけたはずなのだ。


 里霧有耶の異変に。


 休み時間に通りかかった教室での空気感。

 目にクマを作って現れた生徒会室で。


「身についたと思っていたが、思い上がりもいいところだ」


 アイツに馬鹿にされても文句は言えんな。


『――馬鹿だねぇ、キミは』


 とか、言われるんだろうか。


 言われるだろうな。

 間違いなく、十中八九。


 そんなノスタルジーに浸っていると、閉ざされていた生徒会室の扉は、ばん、と勢いよく開け放たれた。

「情報収集終わりました!」


 元気よく、いつも通りのテンションで現れたのは厳見春介。


「って、こっちが汗水垂らして、さり気な~く、それとな~く情報収集をしているっていうのに、横になりやがって。お茶の一つでも出さんか」

「そりゃ失礼」


 オレが生徒会のことでてんやわんやしているときに、厳見には里霧の人間関係――もっと言うと、里霧の周りにいる友達、クラスメイトの情報を集めてもらっていた。


 厳見春介を一言で表すなら、『友達百人できるかな♪』を本当に一日で達成してしまうようなそんな男だ。


 学校内はもちろんのこと、同世代の友達は数しれず、同世代でなくても数しれず、交友関係広さで言ったら、世界一ではないかと思う。なんせ、海外にも友達がいるくらいだ。それも一つの国に留まらない。


 究極の八方美人とも言える。


 語りだしたら際限がないので、このあたりでやめておこう。


 そんな人脈大魔神厳見に情報収集をしてもらっていたのだ。

 個人のプライバシーを考えると、あまり褒められた行為でないことはわかっている。


 誰だって知られたくない情報はあるだろう、そのことを踏まえた上で、厳見に情報のフィルターをかけてもらっている。オレだってすべてを知りたいわけじゃない。『あの生徒は毎朝ラジオ体操をしている』みたいな変な情報を流されても反応に困る。


 というか、いらない。知りたくない。知ってどうする。


「それで、なんかありそうだったか?」


 オレはソファに横たわっていた体を起こして、厳見を見遣る。

 厳見は軽い足取りでソファに向かい、オレの対面に座って、背もたれに寄りかかった。

 両手を背もたれにかけて、天を仰いでいる。

 お疲れの様子だった。


「ああ、大アリだった。俺もシュウヤを知っているつもりだったけど、まさかあんなことになってるとは思いもしなかった」


 言って、大きなため息を零す厳見。


「広く浅くが悪い方に出た感じだわ」


 その後もぶつぶつと独り言を呟いていたが、何も聞き取れなかった。


「まあ、いいや。とりあえず、俺が聞いた内容を簡潔にまとめるとだな――――」




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