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四~五振り目 漁師 スイ

ワーウルフ・ガルル(牙魂)

先代の獣王で純血の狼の獣人だ。

百牙獣国は、獣王を頂点として王を守りし【十干十二支】の十二匹の〖帝〗を名乗ることを許された強者が存在する。

その強者は一騎当千、一人で準厄災級と同等の力を持つとも云われている。

その帝達は四年に一度、十二匹の獣たちが武を捧げる〖獣神祭〗がありその勝者が次代の獣王として、獣王に武を捧げる(決闘)の権利が与えられる。

その帝の中に、獣王の子である三匹の狼がいた。


氷帝ヒノエ、炎帝ヒノト、水帝ゼオ

百牙獣国で当時この三兄弟は、三獣士として皆からの期待を浴びた。だが、この獣王に近いと云われた獣達は…獣王にはなれなかった。


東の彼の地、厄災に見舞われしウェンリーゼ

彼らは獣王の王命により、逃げるように隠れるようにこの地へたどり着いた。




グルドニア王国歴470年頃


「兄者まだ着かないのか海の都には?」

外套の【フード】を深く被る三匹の狼獣人のうち、ゼオ(スイ)がヒノト(レツ)にいう。

「さっきから、そればっかりだな。大きい兄者を見てみろ、文句の一つも言わずに黙々と歩いているだろう」

「………」

ヒノエ(ヒョウ)はただ歩く。彼は常に何かを考えているようだ。

「大きい兄者が無口なのは今に始まったことじゃあ無いだろう。あー、ダメだ。俺は半分が〖魚人〗だから水が近くにないと調子が出ないんだよ」

ゼオ(スイ)はもう叶わんと末っ子全開でヒノト(レツ)を困らせる。

「お前、大きい兄者になにを…海に行けば水など腐るほどある。大きな、大きな誰もその終わりにたどり着いたことがない湖だと聞いている」

「故郷の〖神々の湿地〗よりもか!」

ゼオは目を輝かせている。

「大きさなら比べものにもならん。百を百回足しても足らんと聞いている」

いつものように、 弟を宥める兄の口は上手い。

「………」

ヒノエ(ヒョウ)はずっと考えていた、獣神祭典でのあの最後の一撃のことを…


「あっ…何だか潮の匂いがする」

ヒノト(レツ)の鼻が潮風を拾う。

「おっ!兄者達大変だ。空の下に青空が見える」

ゼオ(スイ)は駆け出した。二足歩行だったのがいつの間にか、嬉しさのあまり四足歩行となった。

「おぉい!ゼオ(スイ)待て!誰かに見られたらどうするんだ」

ゼオ(スイ)は尻尾を振りながら青空(海)に飛び込んだ。

「やれやれ、大きい兄者。我々も行きますか」

「………ヒノト(レツ)」

「はい、兄者」

「ここは、美しい土地だな」

ヒノエ(ヒョウ)が口を開く。

「ええ…世界は広いものですね。大きい兄者」


ヒノエ(ヒョウ)は、旅の間ずっと自身に自問自答し答えを求めてきた。だが、初めて目にした空の下にある青空は心の【キャンパス】を美しく染め直してくれた。

戦いに明け暮れた獣たちは、きっとこの時に、この広大な母なる海に恋をしたのだろう。







2

「なっ!おやっさんでもダメとは…」

レツがシーランドを睨みながらいう。

ベンはどんな困難でも、何処吹く風でいつものようにガハハハハと笑っていた。

「おかげで、やつの槍はボロボロだ。流石はベンだ」

幼い頃に父キーリを亡くしたギンにとってベンは父に近いものがあったのだろう。ベンの最後の仕事を誇るように讃える。

「………」

ヒョウが前に出る。

「兄者、ここは私が」

レツがヒョウを止める。

その隙に一つの影が海(死地)へ飛び出す。


チャンポン

「兄者、大きい兄者二人ともここは俺に任せてくれ!ギンいいよなぁ」

スイが船の上にいる皆にいう。

「待て、スイ!お前が行く必要はない、ここは私に任せておけ。私ならば七回(死)は耐えられる」

「ダメだぜ、兄者!美味しいところは弟に譲ってくれよ。それに元々、海は漁師の縄張りだぜ。あの蛇だかなんだかよく分からん生き物に、本当の海の王者は誰なのか教えないと気が済まん」

漁師のスイの目が光る。

「スイ、お前のおかげで大勢の…ウェンリーゼの迷える魂が救われた。遺族の心を癒してくれた。私もだ、礼をいう」

ギンがスイに別れを告げる。男達は分かっているのだ。この漁師の決意を…

「出来ることをしたまでだ。ギン、ここの皆は俺の身体を見ても誰も笑わなかった。蔑んだり、石を投げることもなかった。ここに来て俺は〖ありがとう〗という言葉の意味を知った」

「………」

皆は、海の男の言葉一語一句逃さずに聞く。

「ここは、この海は俺の故郷だ」


バシャン、バシャン


ヒョウとレツは海に飛び込み立派な海の男を抱き締めた。

「大きい兄者、おかげで俺は居場所を見付けることができた、ありがとう。兄者、最後までご心配をお掛けします」

スイは感じる。兄弟の想いを、そして決意する。この〖ならずもの〗は自分が必ず仕留めると、例えこの身が母なる海へ還ることになろうとも…


「そうだ!ギン、ボールと王子様アーモンドに伝言だ」

「なんだ?」

スイは満面の笑みを浮かべた。




3


チャンポン

水面が揺れる。優しい揺れだ。

シーランドの周りで魚が跳ねる。随分と素早い魚だ。

魚が銛でシーランドのベンにより引き千切られた背鰭の傷口を刺す。


「ガァァァァア」

シーランドは激昂し魚をその鋭い爪で引き裂こうとする。


チャンポン

魚は海の中へと逃げていく。逃げた魚が海面から顔を出して《水球》を放つ。シーランドと違い、人種の拳程度の大きさだ。シーランドにとってはお遊戯に等しい。


パシャン

シーランドの顔に《水球》が当たる。

「ガララララァァァァア」

シーランドは神話の時代より初めて顔に唾を吐かれた。海の王者は怒る。海と水の女神を母に持つ気高き神獣である我に、魚風情が唾を吐くだと…

「ガララララァァァァア」

シーランドの青目が深紅に染まる。もはや、先ほどのモブ達による痛みなど感じないほどの怒りだ。

海の中の生き物達は、竜王の雄叫びを聞きウェンリーゼの海より逃げ出した。ただ一匹を除いては…

「バカにされる位の脳ミソはあるみたいだな。海蛇、どっちが速いか競争だ。格の違いを見せてやる」

スイは海へ潜る。

シーランドはその深紅の瞳を光らせ、獲物を【マーキング】した。


死神の鎌が魚を捌きにかかるが…

チャンポン

なかなかに魚がかからない、どうやら死神は神話の時代より釣りをしたことがないようだ。

大神は死神にいった。

気を付けろと、あれはただの魚ではない。

あの魚は、それはそれは鋭い牙を持っていると…

チャンポン

水の中で、狼の顔をした魚が嗤った気がした。


今日も読んで頂きありがとうございます。

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