真剣勝負
店主がテーブルに右ひじをつくと、アシェルもそれにならって右ひじをついて、店主の手をにぎった。
「悪いな、アベル。美人なお嬢さんに良いところを見せたいだろうが、こちらも本気でいくぞ」
「あぁ、遠慮するな。本気でこい」
アシェルが店主を見返して、唇に好戦的な笑みを浮かべた。
挑戦者側とは思えない態度と台詞に、店主のほうが圧倒されていたが、頭を振って気をとりなおした。
「よ、よし、真剣勝負だ! スリーカウント後にスタートだぞ」
「承知した」
「スリー、ツー、ワン……」
店主のスリーカウント後、店主は顔を真っ赤にさせて太い右腕に力をこめた。
アシェルの腕を折らんばかりの気迫であったが、次の瞬間、店主の右手の甲がテーブルにめりこみ、巨体が宙を浮いた。
客たちが目と口を大きく開いて、床に転がる店主を見下ろしていた。
当事者である店主も、何が起きたのかと目玉をきょろきょろさせていると、アシェルが健闘を称えるように店主の腕をとって立ちあがらせた。
「さすがだな、つい俺も本気を出してしまった」
「え? いや、うん……すごいな、アベル。一瞬本気で天に召されたかと思ったぞ」
「あいかわらず大袈裟な男だな」
冗談だと思って笑うアシェルに、客たちは「本音だろ」と言いたげに微妙な顔をしていたが、その微妙な空気を吹き飛ばすように店主の笑い声がひびいた。
「よし、よし! 男に二言はねぇさ、ご友人の分も無料でいい!」
「いえ、私も挑戦します」
「へ?」
エミリアが右腕の袖をめくりながら言うと、店主は面食らったように凝視した。
「アベルさんの勇姿に感服いたしました。私も、食事代無料の権利は私自身の手で勝ちとりたいです」
「さすがはマリアだ」
うんうんとうなずくアシェルに、エミリアははにかんで笑う。
客たちは「そこ照れるところか?」と顔を見合わせてとまどう。
店主は困ったようにエミリアを見て言った。
「本当にいいのかい? 怪我をさせるつもりはないが、俺とお嬢さんの筋力じゃ……」
「ご心配無用です。本気できてください」
エミリアは倒れたテーブルを起こすと、右ひじをつけて待ち構えた。
店主はどうしようかと頭をかいたが、アシェルが問題ないと言いたげにうなずくので、深いため息をついた。
「はあ、そこまで言うならしょうがないね! 泣いても知らないぞ、お嬢さん!」
「はい」
エミリアよりもふた回りほど大きな手が、エミリアの右手をにぎった。
自棄になったような店主のスリーカウントがひびいたのと、入口の扉が開いたのは同時だった。
「オーナー、ハンバーグ食べに……うぎゃ!」
扉から顔を出した若い男は、なぜか店内から吹き飛んできた店主を避けてその場にへたりこんだ。
店の外では、店主が大の字になって転がっている。
客たちは呆然として、エミリアはあわてて店主のもとへ駆け寄った。
アシェルだけは当然だ、と言わんばかりに笑っている。
「大丈夫ですか! 怪我などはしていませんか?」
「あっはっは! ふたりとも強すぎやしないか!」
エミリアに支えられながら上体を起こした店主は、負けた悔しさよりもおもしろさが勝ったのか、笑いが止まらないようだ。
「よっしゃ、もういい、二連敗したからにはここにいる客全員無料にしてやる! ちくしょう!」
雄叫びのような歓声が湧きあがり、アシェルとエミリアはその場にいた客たちに感謝された。
もちろん、肉汁とチーズたっぷりのハンバーグはごちそうになった。
次回は9/21に更新します。




