無意味な小さな城
城内観光の最後として、ツヴァイク城でもっとも広いバルコニーに案内された。
天井の魔術灯に照らされ、欄干から細い影がのびている。
群青色の空には月がのぼっていた。
エミリアは小走りに欄干に近づいて、すこしだけ身を乗り出した。眼下の城下町には魔術灯の輝きで光の海が広がっていた。目線をあげると、シュタール全体を囲うようにして白い岩の山がつづいているのが見えた。巨大な白い蛇が、首都を守るために横臥しているようにも見える。
エーデルシュタインとちがって乾燥した風が、エミリアの髪を揺らす。
本当にフェルゼンまで来たのだと、ここに来てはじめて実感した。
「ここから見ると、建物の高さがわかりますね。何よりどこも明るい……エーデルシュタインと比べると、ここは夜になっても昼のような活気に満ちていますね」
「技術が発展したことによって娯楽なども増えた。おかげで観光客からは寝不足になる国と苦情が入っている」
エミリアは小さく吹き出した。それにつられたようにアシェルも隣に並んで笑った。
しばらく心地良い沈黙が落ちて、エミリアはフェルゼンの国をぐるりと見渡した。
すると、ツヴァイク城からすこし離れた場所に白い何かが立っているのが見えた。
周囲が緑に囲まれているため、はっきりとは見えなかったが、小さな白い城に見える。
「アシェル様、あそこに小さなお城があるように見えますが、あれはなんでしょう」
「あぁ、おそらくフォリーだと思うが、よく知らないんだ」
「フォリーですか」
フォリーとは庭園などにある装飾用の建物のことで、居住などの用途がないものを意味するという。
エーデルシュタインにも似た建物はあるが、フェルゼンにもあるのか、とエミリアは興味を持った。
「一応王家所有のものらしいが、父上が管理しているらしく、俺やキルシュはここからでしか見たことがない」
「リヒター陛下が? とても大切なものかもしれませんね」
「父上の性格上、フォリーなどというものを建設するとは思えないから、何か意味があるのだろう。意味があるとすれば……」
小さな城を見つめるアシェルの横顔には、切なさがにじんでいた。




