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義母と戦姫の誇り2

 開け放たれた扉から入ってきたのはアシェルだ。

 すでに外出用の服に着替えたアシェルは、スカーフを巻いて、膝丈まである質の良いジャケットを着ていた。

 思いがけない人物の登場に、カルロッタは目を見張った。使用人たちは困惑した様子で顔を見合わせている。


「あら、アシェル王子? なぜこのような場所に……」


 カルロッタは手鏡をもどして、困った顔で微笑んだ。

 アシェルはエミリアの室内を見回しながら尋ねた。


「ここにあるドレスなどはすべてエミリア王女の母君の遺品、という認識でまちがいありませんか」

「え、えぇ、そうですよ。エミリアは物を大切にできない困った娘でございますから、私たちが先代の王妃様の遺品を保護してさしあげようと思いましたの」

「そうか。俺は『宝の持ち腐れですから、私たちが使ってさしあげる』と聞いた気がしたが」


 ぐっと言葉につまったカルロッタだが、子供相手に動揺したのを恥じるように微笑みを浮かべた。


「それはアシェル王子の聞きまちがいでございましょう」

「どちらでもいいが、俺はこれから、あなたが戦姫の意思を受け継ぐ者と認識します」

「どういう意味です」

「先代の戦姫はエミリア王女にその意思を託した。その遺品を王妃やその姫君たちが受け継ぐということは、その覚悟も受け継ぐということ。女神から与えられた使命を果たすため、国の盾になることを誓うということだ」


 カルロッタは顔を青ざめさせて、鮮やかな赤に彩られた唇をぶるぶると震わせた。


「そ、そんな馬鹿な話があるわけないでしょう! そもそも戦姫とは奇跡の女神の力を受け継いだ子孫のみが名乗れるものです。私たちには関係のない話ですわ。ドレスやアクセサリーを借りるくらいで、そんな大袈裟な……」

「あなたが何を主張しようが俺には関係ない。戦姫の遺品を手にしたその瞬間から、俺はそう認識するという話だ。つまり有事の際はあなたが国の守護者として責を果たすのだと俺は認識する」


 子供といえども、フェルゼンの英雄の称号を持つ強力な魔術師を前にして、カルロッタは怯えたように後退りした。

 敵対することがあればこのアシェルと戦うのだ、と赤い瞳が告げている。


「くっ……こんなもの、私には必要ありません!」


 カルロッタは悔しげに顔をゆがめると、ドレスやアクセサリーをクローゼットの中へと放り投げて、逃げるように立ち去った。

アシェルはカルロッタのあとを追いかける使用人たちを見送ってから、エミリアに向き直った。


「すまないな。黙ってはいられなかった」


 すこしも悪いと思っていない顔に、エミリアは思わず吹き出してしまった。

 アシェルは美しく愛らしい顔をしているが、カルロッタにはさぞ憎らしい子供に見えたことだろう。


「いえ、ありがとうございます。おかげでお母様の大切なドレスやアクセサリーを奪われずにすみました」


 しかも、エミリアを助けてくれたのはあのフェルゼンの英雄である。聖戦時代に何度も激しく切り結んだ相手に助けられたのは不思議な気分だった。


「戦姫であるきみが王妃に反論できないのには理由があるのだろうな。俺はよその人間だから遠慮なく言ってしまったが、本当にこの国を愛している者ならば、戦姫を継いだエミリア王女に対してあのような無礼な行為はしないものだ」


 アシェルは堂々と力強く言い放った。エミリアはその言葉に胸が震えた。

 アシェルはこのような性格だからこそ敵も多かったが、彼を慕う部下が多いというのは有名な話だった。

 胸がいっぱいになって、何も話せなくなってしまったエミリアに代わって、グレーテルが尋ねた。


「そういえば、アシェル様はどうしてここに?」

「それは……早くエミリア王女に案内してもらいたくて、来てしまったようだ」


 アシェルはわずかに目元を染めて、視線をそらした。

 大人びた話し方をするのに、こういう反応は子供っぽくて、エミリアは顔をほころばせた。アシェルの熱が伝播したように、エミリアの頬もじわりと熱くなる。


「ではアシェル王子、しばらく客室でお待ちくださいませ。とっておきのドレスを着てご案内します、と姫様が申しております」

「え!?」


 エミリアがぎょっと目を見開くと、グレーテルは良い仕事をしました! と言わんばかりに晴れやかな顔をしていた。

 何も知らないアシェルは無邪気に笑った。


「とっておきのドレスか。それはとても楽しみだな!」

「えぇ、そうでしょうとも!」


 グレーテルは上機嫌にアシェルを部屋に案内しながら、こちらにウインクをして見せた。


「難易度をあげてどうするのです!」


 ひとり残されたエミリアは、顔を赤くして抗議の声をあげた。


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