氷上の告白
エミリアは吹っ切れたように、アシェルを見上げた。
「ありがとうございます、アシェル様。おかげで、やるべきことが見つかりました」
エミリアはそっとアシェルの手を離すと、屋敷周辺を満たす湖の前に立って、右手を突き出した。
エミリアの輪郭をなぞるように体内のフランメが青く輝き、エミリアを中心として冷気が漂う。その冷気の波に触れた湖面が、音もなく凍りついていく。
泡ひとつない鏡のような湖面は、沈む夕陽を反射して黄金色に輝いていた。
天然のダンスホールの完成である。
エミリアは満足そうにうなずいて、目を丸くするアシェルに向き直り、手を差し出した。
「どうか、私と踊ってくださいませんか?」
エミリアの誘いに、赤い瞳がきらりと輝いた。その端正な顔立ちに一瞬少年らしい歓喜がにじんで、それを抑えるように穏やかな大人の微笑が浮かぶ。
「もちろんだ」
アシェルは差し出されたエミリアの手をとって、藍色の空と黄金の太陽を閉じこめた鏡面におりた。
ふたりは向かい合うと自然と距離をつめた。アシェルの左手がエミリアの右手をにぎって、お互いに離れがたいとばかりに指をからませる。
アシェルの右手が背中に回され、エミリアの体はアシェルと密着した。ぴったりとくっついた肉体や体温を意識するな、というのは難しい。
けれどその感情すら愛おしくて、エミリアは隠すことなくアシェルを見上げてはにかんで笑った。
つられたように、赤い瞳が甘く細められる。
エミリアが左手をアシェルの右腕にそっと添えると、ふたりは鏡合わせのステップを踏んだ。
平原を吹き抜ける風に背中を押されて、すべるように回転しながら、優雅なワルツを踊る。
氷上とあって完璧にとはいかないが、お互いに支え合いながら踊るワルツは楽しかった。その喜びが、エミリアをすこし大胆にさせる。
「アシェル様」
「エミリア?」
エミリアはつないだ右手をそのままに、アシェルの厚い胸に隙間なく密着した。とくとく、と早い鼓動を刻んでいるのはエミリアなのか、それともアシェルなのかわからない。
空は暗闇に包まれていたが、豊富なフランメを含んだ氷は青白く輝いていて、相手の表情を見る分には困らなかった。
気を使ったのか、グレーテルたちの姿は見えなかった。
「好きです、アシェル様」
アシェルの瞳の奥に、ちかちかと光が散った。彼はあまりにもフランメ保有量が多いために、瞳に感情が現れやすい。
だから、誰もがこの赤い瞳に魅入られてしまうのだろう。
そこに喜びの色を見つけた瞬間、エミリアはアシェルの感情に酔ったように顔を火照らせて、目尻に涙が浮かんだ。
「やっと、やっと言えました……アシェル様、私はずっとあなたのことが」
言い終わらないうちに、エミリアの唇は熱く柔らかいものにふさがれていた。
熱はすぐに離れて、今度はエミリアの前髪にそっと押しつけられる。前髪ごしに触れる柔らかさに、きゅっと胸の奥が甘くしめつけられた。
「きみの態度から、俺への好意は知っていた。けれど」
思わずと言った様子で、アシェルは笑みをこぼした。秀麗な顔が朱色に染まって、全身からフランメの赤い粒子が星のように散っている。
「実際に言われると、とてもうれしいものだな」
うるんでさえ見える赤い瞳に、もっと早く言えばよかった、とエミリアは切なく思う。
背中をなでる手が耳に触れて、頭の形をたしかめるように後頭部に添えられる。
その次を期待したエミリアは、ゆっくりとまぶたを閉じた。




