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それは遠い、遠い、昔の記憶。
神が地上に存在し、人との婚姻さえも可能であった時代。
美しく、平和な世界。
それを壊したのは、二人の人間だった。
罪深き騎士と、愚かな姫。
騎士は死の呪いを受け、代わりに姫は終わらぬ生を得た。
二人を憐れに思った神は、姫に救いの剣を与えた。
* * *
いくつもの季節が巡る。
かつて地上にいた神は、もういなかった。
去ったのか、消えたのか。
どちらにせよ、今では誰も気にかけることはなかった。
人々が魔術を使えたことも、今では御伽噺のように語られる。
全てはまるで幻だったかのように思えた。
空からひらひらと、冷たい白い花が降る。
もう何度も見たことのある雪。
舞い落ちてくるそれを、そっと手のひらで受け止める。
『一緒に、見に行きましょう』
彼の声が、何処か遠くに聞こえる。
ずっと昔にした約束は、果たされることはなかった。
彼が好きだと言っていた雪を、何度も何度も一人で見る。
幸せだった記憶はいつまでも鮮明だ。
目を閉じれば、いつだって記憶の中の彼に会えた。
その記憶がいつでも心を満たしてくれる。
だから彼がいなくても、一人で生きて行ける。
彼と再び巡り会うときが来るまで、あと何度一人でこの景色を見るのだろうか。
死の呪いを持った彼は、何度生まれ変わっても死ぬ運命だ。
神が与えてくれた剣を手に取る。
剣が放つ美しい光は、彼の命の灯だった。
光が徐々に弱まっていく様を見て、彼がまた死んでしまうのだと悟る。
今度もまた、見つけ出せずに終わってしまった。
降り続ける雪に世界が覆われ、やがて全てが白く染まる。
寂しくはない。
彼から愛された記憶と与えられた愛情、そして自分の中にある彼への愛が、いつも心の中を満たしてくれる。
完全に光を失った剣を力の限り抱きしめる。
そうしたところで、彼が生き返らないことは分かっている。
けれども、少しでも彼を感じたくて、この世につなぎとめたくて、そんな愚かなことをした。
金の首飾りが胸元で揺れる。
彼から贈られた、大切な宝物。
「―――愛しい人、どうか安らかに。いつかきっとまた、会いましょう」
そう言葉にすれば、自然と涙が頬を伝った。
いつか会えるその時まで、生き続けて待っている。
これはあなたが幸せに生きて行くための、私の長い恋物語。