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暴風雨の落雷





「俺の弟子が世話になったな。No.3。今日で終わるとは思っても見なかったぞ!さすがと言えよう!では弟子をこちらに渡してもらおう。後に報酬は支払うのでな!楽しみにしておれ。」

ゲイルはやけにテンションが高い。それほどソロに飽きてしまったのか?全身真っ黒の軍服で揃え、頭にはフードを被り藤色のスカーフを巻いている。頭部は頭蓋骨のフルフェイスを付けている。目玉のくぼみには紫の炎が怪しく光っていた。



青藍は思い切って師匠に直談判しに行く。

「師匠!私は弟子を卒業したく思います!私は既にランク89。これからは師匠の手から離れ自分の力だけで上位ランカーの地位まで登ります。そして師匠を超える!」



その言葉を聞いたゲイルは大きく拍手した。

「中々な大物に育ってしまったようだな!これもおふた方の影響なのかな?」

ゲイルはその後、俺の目の前までくる。

「弟子が師匠を超えていくそれは素晴らしき事。しかぁし!それは私以外の師弟に当てはまること。元々興味本位で始めたのだ、新たな強者が誕生するのは嬉しいことだが、私より強い存在など認められん。」

ゲイルはそう言いながら俺にガンを飛ばす。


「1回だけ通常マッチで戦って見ても良いんじゃないか?」

ゲイルに少しでもその気になって欲しいため提案を促す。


「上位ランカーからそう言われれば易々と断れんなぁ!だが条件を付けさせて頂くぞ。私はそう安い男ではないからな。」


2,30分前に会ったプレイヤーのためにここまで手を焼かないといけないのかと内心、面倒臭いと感じていたが自分の性格上断りきれなかった。


「先に、貴様らどちらかと相手をしたい。おふた方で相談し決めるといい。その勝負に俺が勝ったら、今回の話は無しだ。」

ゲイルは両手を広げ、一回転した。その後、手を銃の形にして俺と黒羊に向ける。


俺が黒羊に相談をかける前に彼女が手をあげた。

「私が相手をする。もちろんランカー用の1on1なんでしょ?」

黒羊はゲイルが逃げられないようにする。


「ほぉ?通常マッチでなく。ランクを賭けて戦うと。よろしい、では始めようか…」

ゲイルは黒羊にVIPコールを送る。黒羊はそれを即、承認した。

AREA10のロビー内に死神が現れ門を形成する。

中に入ると何も遮蔽物のない平原に出る。

選ばれた者だけがフィールドに入れ、それ以外は外野で見守るだけとなる。2人はその門へ躊躇なく入っていく。


「あわわ、不知火さん!わ、私のせいでこんな……」

青藍は門を潜ろうとした俺を引っ張り、後ろでペコペコと謝り出す。


「遅かれ早かれ、ゲイルと戦うことは決まってるんだ。ランカーたちは常に戦えるよう準備している。これは君の所為ではない。この戦いに勝つも負けるもそれは黒羊次第。」

逆に上位ランカー同士で徒党を組んでいる方が異常なのだ。

俺は青藍を連れて門を潜る。

1on1開始まで1分の準備フェーズがある。ゲイルは座禅を組み瞑想を始める。黒羊はナイフを取り出し準備運動というイメトレを開始する。

青藍はこの張り詰めた空気に圧倒され、口が空いたままになっている。

あとから見物客が入ってくるが誰も声を発しない。

フィールドの頭上には運営のカメラドローンが飛び試合の様子を中継している。多分、AREA0専用チャンネルでは実況解説が行われているのだろう。ランク81未満は門を通れないからである。


青藍は俺のアーマーの裾を握っていた。

俺はゲイルの出方を予想する。ゲイルはデザートイーグルMarkVII 50AEのデュアルがメインウェポンのプレイヤーだ。最大口径の拳銃弾薬を7発装填でき、MarkVIIになると14インチのバレル長を誇る。有効射程は80mだが、14インチならそれ以上伸びるだろう。その分凄まじい反動が来る欠点もあるが…。しかし、その攻撃は上位ランカーから買えるlv10アーマーを貫通することは出来ないが、ワンマガジンもあれば破壊できるだろう。もちろんアーマーの無い部位に当たれば一撃KOは確実である。


対して旧式銃を用いる黒羊のPPsh-41(ペーペーシャ)は7.62弾を毎分最大1000発の連射速度をもち、ドラムマガジンには71発装填できる。ホースから水を撒くように弾をばら撒くことが出来、有効射程は150mと近接戦で強い武器となる。およそ30秒でワンマガジン撃ち切り、lv10アーマーをデザートイーグルのようにすぐ破壊出来ないが十分な威力は持っている。

初速はPPsh-41の方が若干上である。


黒羊のサブのモシン・ナガンがあるが単発のため多分使わないだろう。

ヒットアンドアウェイ戦法をされると厳しいな…。


開始まで10秒を切る。

未だ、座禅を続けるゲイルとPPsh-41を構える黒羊。


3…2…1……0

1on1が今、開始する。





初動を制したのは黒羊だ。PPSH-41を連射しゲイルに弾幕をはる。ゲイルは頭部装備のTWを解放しオーバーブーストで黒羊の周囲を回る。目にも留まらぬ速度で走るゲイルは途中でクイックターンを決め、自身の得意とする距離まで詰める。オーバーブーストから繰り出すナイフの一突きは空気を振動させソニックブラストのような爆発を発生させる。

確実に当たるはずの攻撃は黒羊の完全回避によって空振りに終わる。ゲイルはそのまま超至近距離での戦闘を続けるが攻撃は当たらない。


なぜ当たらないのか、理由はゲイルの速度が絶対回避の発動スピードを超えれていないのだ。

オーバーブーストを使っているだけではいつまで経っても無理だろう。ゲイルは頭部装備のもう片方のTWインフィニティユニットを解放させる。自身の攻撃量を倍増させる物だ。1回の攻撃と射撃に10回の攻撃と射撃を加算する。近接武器一振で合計11回の斬撃が発生するのだ。また当たった攻撃回数分さらに増加していく。

しかも斬撃においては攻撃が重ならず分裂する。

避ける隙間も無いほど黒羊の周囲は斬撃で覆われる。

完全回避は攻撃を通らない様にするのでなく強制的に使用プレイヤーが攻撃を回避したとシステムが認識している。ゲイルはシステムが認識過多で処理落ちするのを狙っているかのようだ。


黒羊はそれを理解しゲイルから距離を取ろうとするがオーバーブーストで即座に詰められる。

だが、先に膝をついたのはゲイルだった。


エリア内のプレイヤー達も、俺も何が起きたのか理解できなかった。

膝をついたゲイルの頭部にはナイフが深々と刺さっている。彼女はモシン・ナガンに銃剣をつけリーチの差を活かしたのだ。

一見、速度を上げるのは強いと思われがちだが、デメリットとして視野が狭くなるのと急には止まれない。距離を離し、相手に加速させる。加えて相手を油断させることで直線的な動作を誘うわけだ。

黒羊、全く侮れんやつだよ。



「貴様が何故、勝っているのだ。確実に頭を捉えたはず……」


「こっちがそう動くように誘ったんだよ。まぁこっちもギリギリだったけどさ。もっと工夫できてたら私に勝てたかもね。」

たしかに黒羊の装備はボロボロでデザートイーグルの弾を何発か、斬撃で左腕は機能していない。


1on1フィールドが解除される。

見物客と俺たちはAREA10のロビーへ戻される。

固まって動かないゲイルから離れ、黒羊が帰ってきた。


「ふい〜。肝が冷えたね〜。あと1秒でも銃剣構えれなかったら首、飛んでた。アハッ」


「とても勉強がいのある戦いだったな。俺もゲイルに見習って攻めの工夫をするか。」


「先輩はそのままでいいよ。勝てないから。」


「黒羊さん!素晴らしい戦闘でした!師匠より格闘戦が強いとは驚きです!」

青藍はぴょんぴょんと跳ねる。


「次は青藍ちゃんの番だからね。しっかり勝ってパーティでもしようか。」


そこへ、ゲイルが立ち上がり会話へ混じってくる。

「私の脳内シミュレータでは貴様が勝つという、結果はでていない。今、現在でもな。しかし、貴様は不可能を可能にした。素晴らしきかな。貴様の活躍を祝して弟子の戯言に付き合ってやろう。」


「はぁん?さては負け惜しみかなぁ?卒業試験免除っての、お願いしたいんだけど〜。どうかな?」

黒羊は腰に手を当て馬鹿にするように前のめりで挨拶する。


「免除か、ダメだな。上位ランカーを相手にする経験を積んで欲しいと俺は考えている。だから試験内容は俺の猛攻を1分間耐えれたらにする。異論は認めん。」


ゲイルってクズ野郎じゃなかったのか。俺の中で評価が上がった。


「俺がカスタムマッチを開く。TWは使用可。試験内容は1分間、ダメージをくらわないだ。そしてTW、青雷の装を与える。これを使いこなし達成しろ。」


青雷の装かたしか、これも速度系TW。


「師匠!ありがとうございます!必ず達成して見せます!」


「よき、返事だ。では早速、マッチを開く。」

ゲイルは電子端末を操作しカスタムマッチに青藍を招待した。俺たち2人は観戦枠にはいる。

フィールドは先程の1on1で使った場所、遮蔽物のない草原だ。


「開始から2分間、練習時間を与えてやる。電子端末から準備ボタンを押すと戦闘が始まる。良いな?」


「はい、師匠。」


2人が準備ボタンを押すとカウントダウンが始まる。ゲイルは座禅し瞑想を始めた。

カウントダウン終了から2分までが練習タイム。速度系TWを短時間で使えるようになるとは到底思えないが、彼女しだいか。


青藍が装備している青雷の装は見た目が変わるわけで無いが確かに青い雷が体を守るように発生しているのがわかる。

その雷の位置は任意で動かせるようだ。


「ははーん。青雷の装。使い手しだいで攻撃か防御、色んなことに使えそうだねー。」


「黒羊、あれは速度だけでないと?」


「先輩、電導のことしか考えてないのは悪手ッスよ。あの雷にいくらダメージがあるかわかんないですし、弾丸は絶対弾けると思うね。」


「そうか。」


青藍は雷を回転させ、なにやら楽しんでいるようだ。

そうしている内に2分間の練習時間はあっという間に経過する。





ゲイルはインフィニティユニットを初手から解放。2丁のデザートイーグル50AEを抜き射撃。合計22発の弾が青藍を襲う。

青藍は雷を指でなぞるように動かし1発1発受け流していく。

ゲイルは射撃速度をオーバーブーストで加速させる。

青藍は厳しい表情をしながら弾を受け流すが耐えきれないと判断し電導を使って高速移動を開始。摩擦のない雷での移動は上限のない加速を見せる。

ゲイルはその動きに合わせて並走し攻撃。

横に逃げてもダメだと判断した青藍は宙に雷を動かし空を飛んでみせた。


「素晴らしいぞ!我が弟子よ!まだ引き出せるだろう。私は攻撃するなと申していない!さぁ、全力を見せてみろ!」


青藍はハンドガンを取り出す。それは師匠と同じデザートイーグルだ。撃ち出された弾は雷を帯び、バレルの中で加速し大口径にかかわらず異常な速さを見せる。

空を縦横無尽に移動する青藍にゲイルの攻撃は当たらず、ゲイルは避けに徹している。


「師匠!楽しい!さいっこうの卒業プレゼントだよ!」

青藍はにこやかに笑いながら空を舞う。バチバチと鳴る雷を纏いながら。


「ハハハっ、それは良かったぞ!では仕上げだ!」

ゲイルはナイフを取り出す。

「紫電一閃・十一連断!!」


ゲイルの溜めから放った攻撃は黒羊と戦った時よりも高速な斬撃だった。


黒羊は目を見開き斬撃を凝視した。

「あいつ!手加減してやがった!」


青藍はその攻撃に合わせナイフを抜いた。

「青雷一閃・二連断!!」


2つの大きな雷撃の斬撃はゲイルの斬撃を飲み込み打ち砕く。

その余波が青藍を襲うが、そのとき青藍は雷を失い落下していて当たることは無かった。

ゲイルは青藍を受け止める。


その間、60秒。ちょうど1分、試合終了の合図がなった。


カスタムマッチ終了後、黒羊がゲイルをめちゃくちゃに怒鳴っていたがそれよりも青藍の無事卒業が嬉しいのか泣いていた。

スカルフェイスだから表情は分からないが。


加えて青藍がゲイルに感謝の挨拶をしたこともあって余計に泣かせてしまう。

必衰の戦闘狂 紫電のゲイルはどこへいったのか。

もう、訳の分からないゲイルは置いといて俺はパーティをといてマイハウスに帰還した。

青藍のことは黒羊に任せておこう。今日はさすがに疲れた。

さっさとログアウトしてゆっくりしたい。



そろそろ、紗夜も起きている頃かな。新たな仲間の話もあるからなきっと喜んでくれるだろう。






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