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パーティの意味






俺が一服ついた頃には紗夜は起きていた。

スマホを見るとAREA0、基、楽園から通知が来ていた。

【フレンド申請のお知らせ】


あー、黒羊かと思いそのまま画面を消す。セラはよたよたと歩きトイレへ向かった。その後、用を済ませた紗夜はそのまま寝室へ向かい、まるで死んだかのように寝た。


食器を片付けたあと再度、AREA0の世界へ入る。

黒羊はマイハウスでバッティングのミニゲームを1人で遊んでいてゲームの音が繰り返し聞こえる。


Excellent!!Excellent!!Excellent!!

おいおい、3回連続ホームランだと?お前の動体視力は化け物かと言いたいところだ。

黒羊は後方の俺を発見し、バットを杖代わりにして威張る。


「先輩のベストスコア全部更新しときました。」

いや、今後絶対ミニゲームで俺は遊ばないと思う。


「あぁ、それとお前。フレ申送ってなかったか?」


「あれー先輩に申請?送っては拒否られるんで3週間前くらいから送ってないですよ?およ?まさか今日、許可してくれるんですね!早速、送ります。」

黒羊ではないとするとほかのプレイヤーか。俺のIDがバレることは無いはずだ。いや、既にフレンドの者が他人に紹介すればできないこともないか。黒羊の申請を許可しつつ思考する。


一旦、その申請を保留にしようとしたがそのプレイヤー名を見て驚く。

青藍(せいらん)からのフレンド申請】

〔よろしくお願いします。〕


「黒羊。青藍からフレ申が来た。」

俺はゆっくりと黒羊の方を向きながら言った。


「はぁ!?青藍?それってゲイルの弟子じゃなかった?」

ランク93のプレイヤー・ゲイル。1v1しか遊ばないプレイスタイルで今、1番勢いのある上位ランカーである。また師弟システム実装初日に弟子をとりその弟子、青藍はランク90の座に匹敵するほどの強さと言われている。

なんだか、厄介事に巻き込まれそうな気がする。


「許可、した方がいいかな?」

俺は許可したくないと黒羊に目で訴える。


「じ、自分で考えてくださいよ!ゲイルの考えなんか私分かりませんからね?」

やつは必衰の戦闘狂。AREA0を始めたのは3週間前に関わらず、もうランク93である。しかも同日にランク90,91,92に挑み。全て1回で勝つ。戦闘のリプレイを確認したが無茶苦茶な戦い方をしているのに、着実とHPを減らしていき。最終的には相手の行動全てを読み先手をとるという驚異の柔軟性を持つ。


2人して俺の電子端末の青藍の文字を凝視していると、ダイレクトメッセージが届く。それはゲイル本人からだった。


〔お前がまだログアウトしていないのは知っている。許可を押すのが些か遅いのではないか?私は貴様に我が弟子、青藍にパーティを組んで戦うというのを伝授して頂きたい。〕


そのメッセージを確認した俺たちは余計に恐怖した。


「先輩!!どどどっどうしましょう!」


「なぜ、俺が先生に指名されたんだ!理解できない!」


「だぶん、上位ランカーでまともなのが先輩だけなんだと思います。」

黒羊は苦笑しながら言う。

ダイレクトメッセージはその後も止まらず、〔早〕とだけ書かれた催促が連続で送られてくる。


「これ、止まらないやつですよ!早く許可した方が身のためかとぉ…」

黒羊がそういい許可に指を刺す。

俺はその指を引っ張りボタンを押させた。


「あぁー!先輩、きったねー!!」

黒羊は声を荒らげたあと俺の腹を殴る。


「ぐはぁ!く、黒羊もこれで同罪だァ!」


「め、面倒臭いことになってきたー!」


許可のあと、すぐさまフレンドメッセージが届く。

〔申請許可ありがとうございます。日程は後ほどお送りするのでお待ちください。〕


「日程って、しかもこっちに決定権がない…」

今のとこ暇な時間はいくらでもあるけど毎日とか言われたら…


「先輩、いっその事今日で終わらしたらどうです?セラちゃんは絶賛爆睡中なんでしょ?」


「ナイスアイデアだ黒羊。」

早速その旨を青藍に伝えると、即了承してくれた。そこまで急を要する内容なのか…

待ち合わせはAREA10 3v3ができるところに決める。

黒羊は強制参加だ。

AREA10へ移動したらロビーの正面玄関にそれらしき人物が立っていた。


ランク89 青藍

迷彩効果の一切ない黒いロングコート、それは軍隊服のようなデザインで青藍色の腕章を両腕につけボタンや刺繍、所々に入った線はネイビーブルーである。少し水色の入った綺麗な白髪のロングで背中の中心まで伸びていて、黒の軍帽を被った身長169cmの少女だった。

その子は俺たちを見るや駆け寄ってきて2人の手を交互に握り握手してきた。


「ほ、本日はよろしくお願いします!」

軍帽をとり深々と礼をした彼女。

それに対し黒羊が

「白々しい。どうせなにか魂胆があっての申し出でしょ?」

すごく嫌味げに言った。


「そんな滅相もない!No.3だけでなくNo.5にも来ていただけるなんて、どうお礼を申したらいいのか…」

青藍は頬に両手を当て顔を赤らめた。


「あー、一応確認するがゲイルが教えれない理由はなんだ?」


「師匠と一緒にお二人の戦闘を拝見しまして、それで私も師匠と一緒にプレイできないかと聞いたところ。私は協調性が欠けているからできないと注意されました。」


黒羊がすぐさまツッコミを入れる。

「はぁ、あいつの方が欠けてます〜。こないだ会った時なんかすぐに、俺と戦えNo.5!!!とか言い出すからだったらNo.6を10秒以内に落とせたら戦ったげるって言って追い払ったんだから。」


「そうなんです!だから今、師匠はそれを可能とする為に日夜努力しているのです!」

青藍が即答する。


お二人の話を聞いて黒羊も黒羊で酷いし、それに納得するゲイルも脳筋バカであると思った。


「最近、師匠は私に何も教えてくれなくなりました。時には体罰だってしてくる時もあって…」


そりゃ師匠より早くランク89になったんだから…師匠としても自分の地位が危ないわけだしな。こいつもこいつで早く、くじらの阿呆を倒してこいよ…ちなみにくじらって言うのはランク90の不死身野郎だ。

あいつってそんな強かったか?


「はいはい、それでゲイルの脳筋は先輩に押し付けてきた訳か。」

黒羊はロビーの腰掛けに座りつつ言う。


「とりあえず、3on3の申し込みに行ってくる。」

俺は黒羊を残し、受付に行く。





「あなたさ?チーム戦の醍醐味ってわかる?」

黒羊が背もたれに限界までもたれ掛かり仰向け状態で言う。


「チーム戦?要は全員倒したら良いんでしょ?」

青藍が当然と言ったように発言する。


黒羊は思いっきり反動をつけて腰掛けから飛び出し、ギリギリまで青藍に近づき彼女の頬を両手で潰す。

青藍は反撃しようとしたが黒羊の動きの方が早く、そのまま押し倒されてしまう。


「それだと、1on1と変わらないでしょ?ばーか。」

黒羊は青藍の頬をムニムニと握る。黒羊は少しにやけてしまった。


「な!何するんですか!離れてくださいー!」

青藍が黒羊を押すがビクともしない。


「相手があなたより弱かった場合通用するけど、相手が先輩に私、それにあなたの師匠だったら?」

黒羊は青藍の体に体重をかけ圧迫する。


「くっ、ひっ!か、勝てません!」

青藍は声を出すのも厳しくなる。


「ご名答〜。」

黒羊はそう言って青藍から体をどける。

「だからチームワークは必要なのさ。チームワーク良くするには仲間が何ができて何が不得意かを全員が知っておく必要がある。そうしなくちゃ効率が悪いし、チームメイトを信頼することも出来ない。」

黒羊は元の腰掛けに戻る。


「そんな訳ない!師匠は信じれるのは己のみと仰った!」

青藍は立ち上がりざま飛び出し、黒羊の顔面向かって殴る。

それを避けもせず真正面から受ける黒羊。

「当たっ…た?嘘。」

青藍は動揺する。


「よく出来たじゃないか!さすがの私でもその攻撃は予想できなかったよ。」

黒羊はそのままの状態で拍手する。


既に受付が終わり一部始終見ていた俺はあえて止めなかった。

その後、俺が2人に声をかけ戦闘演習入口に向かう。

青藍は俺たちのあとにつき、黒羊に並走する俺は彼女の顔が激怒しているのを確認した。それは無表情であったが明らかな殺意を感じた。




フィールドに入ると、マッチング検索の表示が画面上部に出ており相手が見つかるまで待機していた。


「遅いっすね〜、もう30秒は経ってますよー」

黒羊は悪態をつく。


「おいおい、AREA10のマッチだぞ?ランク80以上はまだ少ないし5分は待ってから遅いと言え…」


青藍は後ろで近接武器のイメトレをしている。常人にはできないようなアクションを見せる彼女はやはりゲイルの弟子だという事を実感させる。

「黒羊、お前とゲイル。格闘戦ならどっちが強い?」

俺は黒羊に耳打ちした。


「わたし。」

黒羊は即答し、ナイフの先を俺の心臓に軽く当てた。


俺は微動だにしなかったが内心焦っていた。

こんな状態になった黒羊を見たのは俺と最後に1on1した時以来だ。

それから少し経った頃マッチングが完了しロードに入る。

ロード中も俺の心臓にナイフを突きつけていた黒羊だったが少しづつナイフが動いてたのに気づく。

ロード明け、やっとナイフが離れ戦闘開始までのカウントダウンが入る。

その間、ナイフの細かな傷を確認しているとそこには極めて小さい文字で“スキ”と掘られていた。


「おまっ!」

黒羊を呼び止めようとしたがカウントダウンがそれと同時に終わり黒羊と青藍が飛び出していく。

黒羊は飛び出しながらさっきまでのナイフを俺に投げる。

それをキャッチした俺はなにかのメッセージかと思いナイフをくまなく見たが何も書いてなかった。


「ばぁか!」

黒羊が元気よく言う。

俺はナイフを腰のダンプポーチにしまい2人を追った。





「No.5あなたがしていた事は分かっています!戦闘前に逢い引きなんてしないでください!」

青藍が中央のヤグラに向かいながら言う。


「あはは!子供には分からないか!これはケジメってやつだよ!私だって負けられないんだ!」

黒羊はPPsh-41(ペーペーシャ)を構え前方を横切った相手プレイヤーを撃つ。

「先輩!コンタクト!前方バリケードの左!」

ヤグラの左側のバリケードに隠れたプレイヤーをすかさず報告する。

不知火は中央ヤグラとその左バリケードを狙える位置につく。

青藍はそのまま相手陣地に突っ込んでいく。


「あのガキ!前に出すぎるな!戻れ!」

黒羊が青藍に追いつき彼女を後方へ投げる。


「敵を見つけたのでしょう?私なら勝てる!」

青藍は受身を取って体制を整え再度前進する。

それを黒羊がフレンドリーファイア覚悟で滅多撃ちにした。

青藍はそれを回避するがそこで前進を止められる。

黒羊はその場から走って逃げるがグレネードランチャーで強襲された。

彼女は半身が血まみれになって俺の所へ帰ってきた。


「ばか!お前が生存することもこっちは考えないといけないんだ!てぇめぇがどれだけ強かろうが!知ったこっちゃねぇ!」

黒羊が叫んだ。実際敵は中央突破を予測しており見えた瞬間、グレネードランチャーを撃ったのだろう。


「No.5!それはあなたが弱いから、避けれなかっただけ。私なら確実にかわせた!」

青藍は自信満々に答えた。

敵は中央ヤグラを占拠し、こちらの出方を完全に待っている。


「黒羊!ロックされたぞ!ここから動けば蜂の巣だ。」


「わかってる。くそ、回復使えないのが。」

3on3では基本的に自動回復となっているから時間経過を待たなければならない。

「クソガキ!前に出るんじゃないぞ!」


「このまま待っても与ダメで負けるな。」

黒羊もわかっているだろうがそう言うしかない。

青藍は大人しく待っているようだ。彼女もそこまで馬鹿じゃない。前に出たら死ぬのは分かったようだ。


「先輩?拮抗状態の対処法は?」

黒羊が俺の胸の傷を触れて言う。


「釘付けにしている間に裏取りか、側面攻撃。相手の見る方向を増やし、極力正面へのヘイトを向かせないことだ。」


「お見事です。じゃあ、ヘイト。お願いできます?」

黒羊は胸の傷をさすり、ニヤニヤ笑う。


「俺はまた、壁役か…」

俺は今回の相棒M4カービンカスタムCobalt(コバルト) kinetics(キネティクス) Evolve(エボルブ)を構えバリケードから体を傾け、相手のロック中に構わず射撃する。相手は元からこちらの覗きを待っていたため、返り討ちに会うがアーマーのある限り射撃する。

俺のフルフェイスが割れまくるが気にせず撃つ、隠れる、位置をずらして再度撃つ。を繰り返す。


青藍はそれを見てなんと美しくない戦い方だと思う。


俺はより注意を引くため、無理やり隣のバリケードまで走ったりしできる限り3人のヘイトをかう。

その間、黒羊は迂回し敵の後ろを取るべく慎重に移動する。このランク帯だと走ったら音で即見つかるのだ。


敵のひとりが痺れを切らして徐々に前へ出てくる。そうだ、前進しろ。こちらに注意を向けろ。

グレネードが俺の元に飛んでくるが構わず走り続け範囲を避ける。

俺はヤグラにいた敵が排除されたのを見逃さなかった。


「うおぉぉぉ!!」

雄叫びをあげバリケードから飛び出しヤグラ周りのバリケードにいた敵の所へ走る。

敵は俺を狙うが撃つ前に倒れる。残り1人が異変に気づき後方を見るがその時にはナイフで絶命していた。



「おつかれさん。」

黒羊とハイタッチを交わしたと同時に戦闘終了のブザーがなる。


「思っていたのと違う。全然スマートじゃない…」

青藍がぼやく。


「傷ついて泥だらけに、どれだけ無様でも貪欲に勝利を勝ち取る。それが最高に楽しい。」

俺が黒羊と拳を合わせて言う。


「同感です。生の実感を味わえますよね。」

黒羊がにっこりと笑う。

「青藍ちゃん。美しく勝つことを悪いとは言わないよ。でも自分だけが美しくなれるなんてチーム戦ではまず出来ない。全員が等しく勝たなければ良いとは言えない。全員の総合が評価になるんだ。では問題です。開始1分で青藍ちゃん以外が死んじゃった。でも青藍ちゃんはその後、敵全員を排除して勝ちました。この時の評価はどうなるかな?」

黒羊は後ろで手を組み上半身を傾けながら言う。


「勝ったから、評価は良いんじゃないの?」


「ぶっぶー!青藍ちゃんざんねーん!それだと良くてB評価だね。そこでヒント、なんで味方は開始1分で殺られたの?」

黒羊がどんどん悪い顔になる。


「それは敵に狙われる位置まで行ったから。」


「そうだねー!あってる。けどまだ足りない。またまたヒントを出そう。それはその人たちが弱かったから?青藍ちゃんが援護しなかったから?青藍ちゃんが凸ったから?」

黒羊の口は裂けるくらいに横に広がっていき、まるで悪魔だ。


「わ、私はそんなヘマをしない!!」

青藍が反論する。


「答えになってないよぉ。正解は今言ったヒント全部が該当する。ってこと。みーんな、弱くてもちゃんとカバーし合えばそう簡単に崩れることはない。誰か1人でも連携が崩れるとその1人を後の2人がカバーしないといけない。青藍ちゃんは良くても周りのふたりは見るとこが多くなってそれはもう手一杯になる。今回は私たち2人だったから良かったけど野良じゃあもっと厳しいよ?」


それに俺が付け加える。

「俺が野良だとしてさっきの行動されたら、助けずに見捨てる。君がどれだけ強くても楽しくプレイすることはできないだろう。この意味がわかるか?」


「私は孤独になってしまうの?」

青藍はやっと理解出来たようで俯く。

ゲイルは自分のようになって欲しくないのだろう。誰しも初めてFPSを触った時、殺し屋になろうなんて考えないだろう。俺は直感的にそう感じた。


「青藍ちゃん、初めてのパーティ戦が私たちとで良かったね。」

黒羊は青藍を優しく撫でる。


上位ランカーの弟子となる。それは良い点もあるが初めのチュートリアル。低ランク帯でのわちゃわちゃ感、フレンドだって自分で見つけて仲良くなる。喧嘩して仲直りして、そういった事を一切体験できない。ただ純粋に上位ランカーを目指し、他を全て敵とみなす。そんなの面白くない。そうやって勝ち取った1位の座に価値なんてあるのか。俺だって最近、よくわからなくなりただ機械のようにこのゲームをプレイしタスクをこなしているだけだった。

俺はセラや黒羊に感謝しなければならないだろう。




青藍は自分が見落としていたことに気がついたようだ。

「私、師匠の弟子を卒業しようと思います。ついていくだけじゃなくて、ちゃんと自分でゲームをプレイしたい。」


「そうだね。気づかせる、これも先駆者の特権だよ。青藍ちゃんも私たちのような高みへ来れるかな?」

黒羊は母のような微笑みを見せる。


「はい!行きます必ず!」

青藍は黒羊をぎゅっと抱きしめる。

黒羊はそれを持ち上げお姫様抱っこをする。

俺たちのパーティは元のAREA10のロビーに転送される。



そこには待ち構えたようにNo.7 紫電のゲイルが仁王立ちで立っていた。








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