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red alert 死の宣告




マイハウスでセラと装備の最終点検を行っていると、画面の上の方にポップアップが出現する。


【大規模戦参加エントリーの時刻となりました。参加者は規定のAREAに移動してください。】


「セラ、移動するぞ。AREA500に移動だ。」

セラの手を握り、一緒に転移する。


「いよいよ、初陣かー!がんばるz…」

セラの意気込みは転送の影響でかき消される。



AREA500に着くと初期装備のプレイヤーが沢山いた。

「おー、みんな初心者だねー!」

セラがこくこくと頷く。


「お前も、1時間前までそうだったろ。というか初心者だから。」


「なにさー、招待ボーナスで今、ランク50なんですけどー。」

セラが腕を組みこちらを軽く睨む。

彼女はランカーの弟子として始めたから元からランクが高いことを知らない。というより伝えてない。俺に弟子なんてつけたことがバレたら他からどんな目に合わされるか想像もつかない。


「ランク50だが、プレイ時間見れば1発でわかるぞ。」

「とりあえずエントリーに行くぞ。」


受付前には大量のプレイヤーで溢れており。オンラインゲー特有のキャラ被りが起きている。システム上重ならないようになってるのだが圧倒的人数により機能してないようだ。


「うわぁ、ぐちゃぐちゃじゃん。」

セラが引きつった顔になる。

無理もない。カラフルな迷彩服が合わさり小さな林が誕生しているからである。


「パーティメンバーのリーダーが受けつければいいからそこで待っていてくれ。」

セラをその場で待機させ、群衆に割って入る。

後ろでセラが笑っているが気にしない。

身長230cmの大男が入るのだ。嫌なくらい目立ってしまう。


今回の戦場は廃墟都市でマップの大きさは中。ルールは無限復活戦(アンリミテッド)復活(リス)の数で勝敗が決まる。いかに死なず、敵を倒し続けれるかが重要で、位置取りと引き際が肝心である。制限時間は60分で非常にボリューミー。


受付を終えた俺は彼女の元に戻る。


「ねぇ、不知火が入ってった後、どうなったと思う?みんな押し出されて横に滑ってったの!」

腹を抱えて笑っている彼女はほかのプレイヤーの目に止まったらしく、注目を浴びた。


「セラ……ガチ勢が多いゲームだから気をつけてね。」


「えっ。嘘。すごい見られてるじゃん。」

トラッキングを使ってるのでリアルの体力が必要であり女性プレイヤーは足でまといと思っているプレイヤーも少なくない。


「今回のルール内容は確認したか?」


セラが電子端末を開き内容を確認する。

「へー、アンリミテッド。名前からして初心者用ルールっぽいね。」


「うーん。復活戦って簡単に聞こえるけど案外難しいよ。今日は屋内かと思ってたけど野外だからなー。セラのハンドガンが相手に当たるかどうか……」


「それじゃあ、射程内まで移動したらいいじゃん。」


「簡単に言うけどなー。周りのプレイヤーを見たらいいよ。ARとSRもってる方が多いから近づくのでも難しいかな。」


「え?なんでそんなの持ってるの?」

セラが驚く。初心者プレイヤーは最初に支給物資として一通りの装備とARかSRか。どちらかを選ぶことが出来る。

ランカーに招待された者は初めからランク50だが支給物資は無い。


「せ、セラには俺があげた装備あるし、そっちの方が高性能だから大丈夫。」

苦し紛れの言い訳をする。


「そっか。なら大丈夫と信じよう。ブランだってある訳だし簡単に負けることないよ。」

彼女はすんなりと納得してくれた。


大規模戦の参加人数が一気に増え、ルーム1は満員になる。

開始人数が揃えば戦場内のセーフティゾーンに入ることが出来、10分後に試合開始となる。


「それじゃあ、行こうか。」

戦闘演習転送ゲートに走って向かう。


ゲートを通った先には廃墟都市内のレジスタンスキャンプに到着する。既に80人くらいは集まっている。


「すご……」

セラはあまりの凄さに言葉を失った。

4Kを超える画質で表示される映像はゲームだということを忘れさせる。BGMにSE、全てが世界観にマッチしていて全身が震えるような感覚を覚える。


「セラ、これがAREA0だ。」

セラの返答はない。ほかのプレイヤーも棒立ちの状態で辺りを見回すだけとなっている。俺も初めは同じ状態で開始から10分は景色を見ていた。


セラはそのまま、へたり込んでしまった。

「ど、どうした!?画面酔いでもしたか?」

俺は焦って彼女に駆け寄る。


「ご、ごめん。腰が抜けちゃって……あはは…」

顔は笑っているが体は震えていた。

無理もない。急に現実感MAXの廃墟を見せられ、今から戦おうって状態。これがゲームだと割り切れない人間は慣れるまでが長い。


「まだ、8分ある。慣れるまでそばにいる。」

セラの横に座り、体を支える。


「ごめん。不知火……」

彼女は何度も立ち上がろうとするが恐怖で足腰が弱る。

同じように座っているプレイヤー。感情がハイになって可笑しくなっているプレイヤー。すでに順応し武器の最終チェックをするプレイヤー。


セーフティゾーンの端に行かないと危ないと判断した俺はセラを担ぎ、瓦礫に座らせる。そうすることでゲーム機のリクライニングが作動し彼女を椅子に座らせることが出来る。一瞬機械の動作に驚いたセラだが座ることで多少、落ち着いたようだ。


「どうだ?行けそうか?」


「そ、そうやね…だ、大丈夫。」

セラはよろめきつつ立つことに成功した。

戦闘開始まであと1分と言ったところだ。


「そろそろ、始まるぞ。最初は俺がセラをおんぶして前線まで運ぶ。おすすめのポイントまで移動した後、攻撃するぞ。」

セラの前でかがみ、おんぶの姿勢をとる。


「あはははは、なにそれ。おっかしいなもー。」

その動作を見たセラが笑う。


「スタミナがなかったら前線に行ってる間にSRにやられるからな。仕方ない。」

戦闘開始まで10秒を切った。

スタートダッシュを決めるためにセラに乗れとハンドサインをくる。


「乗っていいんだよね?、の、乗るよ!」

セラが飛び乗ったあと、しっかりと両腕で固定し走り出す。

セーフティゾーンの進行不可バリアが消えるまであと2秒、それまでに先頭集団を超える。

「はっやーーーー!!!」

セラが悲鳴のような声を出す。


【定時となりました。戦闘を開始します。】


そのアナウンスと同時にプレイヤーがいっせいに走り出す。開始前から走り出した俺たちはフルスピードで飛び出していく。筋力値MAXの俺はスピード補正がかかり普通よりはるかに早い。

後ろからは驚愕の声をあげている者がいたがランク80を超えたらこれが当たり前になる。


そのままフィールドの真ん中まで来た俺たちは近くの路地に隠れる。そこは袋小路となっており、後方からの奇襲が起こらない場所だ。フィールドの中心は開けており離れた場所にスナイパー地点として4つの建物が存在している。

俺たちはここから反対側のスナイパー地点に登るものと正面突破してくる相手を返り討ちにする。


前と後ろから大勢の足音が聞こえてくる。

「セラ、準備はいいか……お前はアシストでいい。俺が撃ち漏らした相手に牽制するだけでいい。あとは後続がやってくれる。突撃のタイミングは俺が指示する。」

セラは緊張で硬直し今にも倒れそうだ。


「は……はひ…」

声にならない返事をした彼女のかたを二三回軽く叩く。


「大丈夫だ。セラの前にはランカーがいる。簡単に死にやしない。」

ロングバレルをつけたアサルトライフルを少しだけ覗かせ敵を待つ。

上半身だけを傾け壁際から距離をとる。

セラは俺の足元でしゃがみつつ、壁際から顔を覗かせた。

「セラ、頭を下げろ。」

そのまま、1発撃ち、敵を1名倒す。

セラは驚いてサッと隠れた後、こちらの顔を伺う。

まるでうさぎ、と思いつつ発砲を続ける。相手は初心者でしかも疲れているせいで行動が遅い。

頭上の敵側のカウンターに次々と数字が加算される。


「そろそろ、前には出てこなくなるだろう。」

味方も続々と来ており、こちら側のスナイパー地点に何名かプレイヤーが入っていく。

「初動はこちらが優勢だな。」

味方の敵発見の知らせが何度も聞こえる。各々で楽しんでいるようだ。約1名を除いて……


「不知火、顔出せない……」


「まぁ、そうだろうな。」

うーむ。ARも買っておいた方が良かったかな……HGがメインウェポンだと厳しいよなー。


「あー、まだ50分も残ってるよー。1発も撃たないで終わっちゃうくない?」

セラが何度も顔を覗かせて外を確認する。


「たしかに、ここにいたら安全だし、俺が牽制してたら大丈夫だと思う。けど面白くないよなー。」

といいつつ、武器ボックスからコンバットシールドを取り出す。

それは全長2mの不知火専用と言っていい程の盾だ。


「なにそれ?まさか突っ込む気!?」


「復活戦の楽しみって言ったら突撃だよね。」


「それ構えてる間、攻撃できるの?」


「できない仕様だね。両腕が固定されるから。」


「じゃあ、どうやって戦うのさ?まさか、私ってことじゃないよね?」


「そのまさかだよ。HGの必中距離までエスコートするから。そのあとはその場所で全力戦闘です。」

俺は嬉しそうに言った。


「うぅ、戦いに慣れるには仕方ないよね。それ、やる!」

声は震えているが、気合いはあるようだ。


俺は周囲の味方に大声で知らせる。

「突撃します!牽制射撃をお願いします!」

周りの味方がいけいけーと反応する。優勢なため多少の無茶は許される。

シールドを構えながら、右手をセラの肩に置く。

ゆっくりと2回叩き、3回目で早く叩く。

「行くぞ!遅れるな!」


「りょ、りょうかい!!」

正面から集中砲火を受け、シールドからすごい音がする。

ちくしょう、どこかに銃座がある。


「全周シールドを展開する!俺の背中にひっつけ!」

セラを右手で引っ張り近づける。

「そろそろ、敵のバリケード付近だ!顔出したやつから撃て!」


「当たるか知らないけど〜!」

セラがシールドの端から狙って撃つ。なんどか外すがキルを取っていく。


「いいぞ!続けろ!……くそっ回り込んでる奴がいる!狙えるか?」

左側の建物の間をぬって敵が回り込んでくる。筋力値MAXでもこれだけの射撃をくらえばシールドを回すのも重い。


セラはシールドに当たる銃声で俺の声が届かない。

回り込んだ敵がセラの頭を狙った。


俺は咄嗟にシールドを離し、セラに覆い被さる。弾丸は俺の肩に着弾し装甲の耐久値が減る。

シールドが倒れたことで俺の体が無防備になり背中を滅多撃ちにされる。無駄に耐久値が高いので中々殺られない。


「不知火?不知火!?大丈夫だから。復活戦なんでしょ?私が死んだって!」

セラは俺の肩を叩き、どくように合図する。

その手が敵に撃たれ裂ける。


「え!えっ!?」

セラがその腕を見て驚愕する。

俺は忘れていたのだ。このゲームが破壊表現もリアルであることに。サイボーグアバターは撃たれても中の電装が見えるだけで普通に動かすことが出来る唯一の全身装甲である。しかし、一般プレーヤーはアーマーをつけた部位しか守れない。

何たる迂闊……。

敵側も綺麗にヘッドショットしてくれればその破壊表現を見ることは無い。味方からの損害は俺たちが飛び出してから増えているため彼女がそれを見たのはこれが初めてだった。


150cmの体は250cmの巨体で守れば何とか防ぐ事ができる。しかし、俺の耐久値は少しずつ減っている。TWと言えど無敵では無いのだ。


「不知火、私。怖くないよ…破壊表現がすごいって話はこのゲーム買った時、説明書に書いてあったしさ。今初めて見て驚いただけ。私のHPも減ってるんだ。これって出血してるからなんだよね?」


返す言葉が見つからない。彼女がこのゲームを始めてくれる嬉しさからいいとこ見せようとして失敗した。

味方は俺たちを助けようと前線に躍り出るが各個撃破される。

なんとか機銃さえ倒せば良いんだが……


「でもさ、嬉しいんだ…不知火がさ。身を呈して守ってくれてるじゃん。私もなにか恩返しがしたいの。このまま待ったって結局、私は死んじゃうんだし。」

俺は彼女の顔を凝視する。


「その単眼で見られると、怖いな…なにかできることは無い?」

セラが俺のフルフェイスを触り、単眼がある所を撫でる。


「セラ、今から君を投げ飛ばす。撃たれている箇所から機銃の場所はわかってる。セラはブランでそいつをたたっ斬ってくれ……俺は投げたあと、死ぬまでここで君を援護する。」


「無茶苦茶な作戦だね。いいよやろう。」

セラがブランを取り出し、柄を投げ捨てつつ抜き切る。


「行くぞ!」

俺は起き上がりざまにセラの背中に手を添え、機銃の場所まで投げ飛ばす。

その後すぐにARを取り出し、機銃に向けて全力射撃をする。

スピードリロードを駆使し弾丸が尽きるまで発砲し続ける。


機銃は投げ飛ばされたセラに一瞬向いたがこちらの射撃で顔を出せず、発砲をやめる。

その一瞬でセラの足が撃たれたが気にせず刀を振り下ろす。


刀は機銃を撃っていたプレイヤーの脳天に直撃し、その後、ブランから電撃が走り辺りを破壊した。


セラは雷を身にまとい、そのままG9を取り出し発砲する。

弾丸は電気を帯び、凄まじい速度で発射される。

直撃したプレイヤーは肉片となって飛び散る。HPが無くなれば粒子となって消えるがその変化の一瞬より先に破壊表現が入る。HPがゼロになる前に対象を破壊しきるのだ。

セラはそのまま次のプレイヤーに襲いかかるが、足を撃たれた状態で素早く移動できず、撃たれて消えた。

俺はその光景に圧倒されトリガーから指を離していた。

彼女が消えたあと、頭を撃たれて我に返る。

すぐさま、射撃を再開し前線の敵兵を倒していく。

俺の装甲が余っているうちに元の路地に戻った。

そこで俺は座り込んだ。


味方はまだ戦っている。時間はまだ半分近く残っており、両者のカウンターは拮抗している。


しばらく休んでいると、セラがブランを持ちながら来た。


「待たせたね。次は不知火も一緒に前に出てくれない?」


「セラ、その平気なのか?」


「平気じゃないって言えば嘘になるけど。今はテンションが上がってる。今ならなんだってできそうなんだ。」

彼女はブランを構えてそう発言した。


「よし、ならもう一度するか。次は小さなシールドをセラに持たせる。着地したらそれを捨てて攻撃したらいい。俺はセラの後を追って集合して攻撃する。」


「2人にしかできない作戦。最高。」

相手からしたら恐怖しかないだろうな。


俺たちはもう一度、前線へ躍り出た。セラを敵兵が潜む所へ投げ飛ばし、俺が全力疾走で着地点まで行き攻撃する。

何回も復活してそれを繰り返す。セラもブランの使い方に慣れてきて生存時間が上昇していく。


終了10分前からは1度も死なず、敵陣を襲っている。

隠れて、小休憩を挟み。お互いを鼓舞しながら前へ出る。味方の前線も上がっていき、次第にワンサイドゲームへ変わっていった。


ゲームが終了した時は敵のセーフティを目前に捉えていた。



「セラ、どうだ。これが大規模戦だ……」

息を切らしながら言う。

俺の装甲をなくなっていて、HPは赤色に変化している。画面の周囲は真っ赤っかだ。


「はぁ…はぁ。次からはランク戦でやろ。ここじゃただの初心者狩りだって。」

彼女の装備はボロボロで肌が露出している。

俺はポーチからポンチョを取り出し着せる。

「ありがと……」


「装備は修繕しないとそのままだからな。ショップに戻ろう。」


「わかった。修繕に預けたら1回ログアウトする。さすがに疲れた。」

セラが俺に寄りかかってくる。

そのまま動かなくなってしまった。


「これは寝たな……」

セラをロビーの休憩室に運んで寝かせる。リクライニングが起動すればここに放置していても安心だろう。


俺は自身のサイボーグアバターをマイハウスの修理台に入らせログアウトする。


ゲーム機の電源を落としトラッキング室からでる。

俺は冷蔵庫から麦茶を取り出して一服したのち、着替えてセラの自宅へと足を運んだ。




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