AREA[不明]act-2
特殊ミッションが始まって、既に10分が経過。
ミッション目標も敵さえ現れていない。プレイヤーの中には帰投する人達もいた。
不可解な点として学生らしきNPCが横切って行ったことである。それも1人ではなく2、30人くらいの大勢でだ。俺たちプレイヤーには目もくれず通り過ぎて行った。
今も隣の民家で住民の声が聞こえる。
カラスや鳥のさえずり、虫の音。
日本を舞台にしたフィールドなのか?
黒羊が住宅街の中央道り先をスコープで索敵している。
俺は中腰でアサルトライフルM4カービンを構える。
「おいおい、お前ら。10分もすぎてまだ敵さえ出てこないんだぞ?今回の特殊ミッションはハズレじゃないか?運営のミスとか。」
「おじさん、黙ってて……。今来てもおかしくないからさ。」
「へー、アバターだけ女かと思ってたけど中身も女性だったか。珍しいねー。俺とフレンド登録しよーぜ。」
「しないから。とりあえず黙って。あんた、ランク80超えてるプレイヤーでしょ。今の状況、よくわかってるよね?」
「あー、そーだな。他のプレイヤーも臨戦態勢だし、俺も何となくは把握してる。敵がすぐ来ないってのは相手が光学迷彩持ちか、巣作り系か。どちらにせよこっちから打って出ない方がいいな。」
「なら、あんたはあの民家に登って屋根で待機してたら?ここじゃそのスナイパーライフルは活かせない。」
「あいあい、わかったよ。君みたいな女の子と話せただけ良かったとするさ。なにか分かったらすぐ連絡する。」
そうして黒羊に声をかけたおじさんは隣の民家に入っていった。
数分後、おじさんが帰ってきた。
「おい!みんな。セーフティ5の辺りでグレネードの光を見た!」
「わかった。戦闘は始まっている。ここで止まっているのは不味いな。」
「そこのゴツイ兄ちゃん!一緒に行こうぜ!」
「よっしゃ、セーフティ5まで行くぞ。」
周囲のプレイヤーが移動していく。
「ねぇ、先輩。どうします?」
「グレネードの光が見えただけで相手がどんなやつか分かってない。」
「対策無しに突撃って、ねぇ?」
黒羊と俺は住宅街で1番高いアパートへ移動する。
移動中、大きな銃声や爆発音が聞こえた。近くで戦闘が起き、対応している部隊はセーフティ1のプレイヤーだろう。
アパート最上階の屋根に登って周囲を索敵していた時、ありえないものを見た。
「プレイヤーが死んでる。」
「せ、先輩…。おかしいですよ。普通、血痕も遺体も残らないでしょ。」
「黒羊、このミッションは辞退だ。長居するのはまずい。」
「そうですね。こんな現象……」
黒羊が言いかけた時、アパートの屋根に黒い手が見えた。
「黒っ!ロビーに早く戻れ!」
対物ライフルを構え、黒い手がかかった所へ乱射する。
屋根の破壊に成功したが黒い手は横へ移動していく。
俺は黒い手が登って来ないように屋根を破壊し尽くす。
アパートの屋根から道路へ飛び降り、黒い手の犯人に狙いを向けた時、俺の心臓がドクンと大きく鼓動した。
その犯人は全身が黒く手足が異常な程に長い。アパートに登っていたのでは無く手をのせていただけだったのだ。わかるのはそれだけ。真っ黒の怪物は周囲を歪ませており、その空間だけ画質が荒いのだ。
銃をしまい、全力疾走で逃げた。
逃走途中で黒羊からメッセージが届き、無事ロビーに来れたようだ。
俺も端末を開きロビーへ行きたいが後ろから金属が高音で削られた甲高い音が聞こえている。その音が離れていく気配がない。
俺はずっと怪物に追われているのだ。
どんどん、恐怖が増していく。ホラーは苦手だ。
後ろを振り返らず、ただただ真っ直ぐに走る。
セーフティエリアがあった地点を何回か通ったがその全てが破壊され、チラホラとプレイヤーの死体も見た。
遠くに見える高層ビルへ走り続ける。
俺は住宅街を抜け、大型の店が並ぶ街へ出た。
見覚えのある風景、街の喧騒。少し安堵し走る速度を緩めた時、大きな拳で殴られた。
怪物はまだ、いたのだ。
「お、音はしなかったはずだ…」
ビルの外壁に直撃しガラスを割って建物の中に入った。
中はオフィスで残業中の会社員が驚いた目でこちらを見る。
周りのNPCは大声をあげ外へ出ていった。
俺は霞む視界で外壁の穴を見ていたが怪物が来る気配はない。
「くそ、どういうことだ。ゲームのUIが全部消えた。サイボーグの機能表示しかないぞ。」
立ち上がり周囲を確認。外は見ない方がいい。怪物に見つかったら終わりだ。
会社員が逃げた方向へ行く。
各部屋へ続く廊下と階段。階段の上には非常灯があった。
「よく、訓練されてるんだなぁ。」
リアルでここまで避難が徹底されている企業があったのかと関心した。
この階層にNPCはいないようだ。
外へ出るため、階段を上がる。今、地上に行くのはまずい気がしたからだ。
階段を登るとこのビルには複数の会社が入っていると確認できた。
避難していない会社員もいて俺を見てパニックになっていたが気にせず横を通る。
26階に来た時、異変を感じた。
「おい、嘘だろ?株式会社GEテクニクス。」
俺は会社案内を見ながら営業部を探した。
「営業部、営業部。28階か!」
ダッシュで階段を12段飛びし、営業部の扉を強引に開ける。
中は誰もいないが、数分前まで仕事をしていた痕跡がある。
俺は長谷川と書いてある名札の付いたデスクを見つけた。
「紗夜…。やっぱりか。」
机の上にあるコーヒーはまだ暖かい。
スマホも放置され、カバンも残っている。
「おっちょこちょいめ、まぁ彼女のことだ。取りに帰っては来ないだろう。」
スマホの電源をつける。
「通知がない。家族に連絡とかはしてないんだな。」
俺はカバンにスマホと机にある書類を入れ営業部を出た。
廊下の奥にある非常階段への鉄扉が開いたままだ。そしてスプリンクラーが今になって起動した。
俺が激突しただけで火災は起きてないから報知器が作動してないのか。誰かが防災装置を…まずいな。消防隊か警察がくるかも。
待てよ、外にはあの怪物が!
急いで非常階段へ行く。階段の下を見るとビルから離れたところで人だかりができている。
中には紗夜の姿も確認できる。
怪物は…。
「はぁ、良かった。いないか。」
安心した途端、足元がよろけ非常階段の手すりへもたれる。
しかし2m越えの巨体はするりと手すりを越え、俺は落下した。
「まずい!下には紗夜が!」
非常階段のどこかへ掴めないかと両手を伸ばすが体の触れた金属が俺の重量を支えきれず折れていく。
非常階段を破壊しながら落ちていくが途中で止まることが出来た。
下を見ると俺の壊し落下した鉄パイプが直撃し人間が潰れていた。
人々がぶら下がっている俺を見ている。
俺と潰れた人を交互に見て、元凶を知る。
あぁぁぁぁぁ!!
きゃー!
人殺し!
叫びや罵詈雑言、俺に対して口々に大声をあげる。
大半の人間は逃げていき、残った人々は行動不能だったり気絶していた。
俺の脳はぐちゃぐちゃになって思考がまとまらない。
血の気が引き、どうすればいいか分からない。
下の人々から目が離せないでいる。
ひとりの女性が俺の姿を凝視している。
「し、不知火?」
喉を絞った、かすれたその声を俺は聞き逃さなかった。
非常階段から飛び降り地面に着地する。
衝撃で紗夜はしりもちを着く。
「紗夜…」
「あ…その、声。まことなんだね?」
声は震えており、怯えている。
「あぁ、俺も何が起きているか。わかってないんだ。だけど、今俺はこの場所から、逃げたい。」
俺は紗夜に手を伸ばす。
「そ、そうだよね。こ、これは事故でまことがやった訳じゃない。だっておかしいよね?ゲームのキャラが目の前にいて…」
紗夜はそのまま気を失った。
サイレンの音が聞こえる。
あと、4、5分で警察や消防が来るだろう。騒ぎになる前に移動しよう。
紗夜の荷物は瓦礫に埋もれてしまい、回収はできない。
俺は紗夜を抱えてその場を後にした。




