Opening day
俺は、AREA 235 にあるガンショップの前で人を待っている。
待っている間、電子端末を起動し、可愛らしいうさぎ達を飼育するゲームを嗜んでいた。
「おっす〜。またそのゲームしてんだ。」
ゲームに夢中になっていた俺の電子端末を覗き込むように見てくる彼女が待ち合わせていた人だ。
彼女はセラ。ブラックカモフラージュの迷彩服に黒色のスキニーフィットジーンズを着ていて、黒と白のシャチの模様に見える靴を履き、大きな歯が並んでプリントされたフェルトの黒いキャスケットを被っている。
「ごめんねー、不知火。10分くらい遅れちゃった……」
彼女がこちらを見上げ、謝る。
可愛い…その言葉が脳裏によぎる。
俺は小さいもの程可愛いと感じるのだ。
彼女の頭に手を軽く乗せ言う。
「それくらい、どうってことない。」
返事をした当の本人は全身サイボーグの身長230cmの大男である。人工筋肉の部分はシルバーで装甲とのつなぎ目はオレンジのパッキンが付いている。全体的には黒で部分的に差し色の水色が映える。顔はフルフェイスで覆われ、真ん中には深紅の単眼が光る。
「今日の天気は雨だってさ〜、不知火は雨好きだもんね。ちなみに私は嫌い。」
「降る前に中、入ろっ?」
空を見上げた後、彼女が俺の手を掴み店内に誘導される。
店内には屈強な男達や、小柄な少年や少女。様々なスキンを纏ったプレイヤーたちがいる。談笑しながら装備を選ぶ者、繰り返し商品を見比べ吟味する者など色々だ。
本日、俺たちはセラに合う銃を買いに来たのだ。
以前の戦闘で、アサルトライフルを貸したのだが彼女の筋力では長時間構えられず、後方でずっと待機していた。
俺たちがプレイしているこの【AREA0】と言うVRFPSゲームはVRを頭に装着し、全身にトラッキング装置をつけて行う。ゲーム開発で行われるモーションキャプチャの技術を応用した、バーチャルアイドル達と同じようにトラッキング装置を付けた人間を複数のカメラで動きを認識し、ゲームのキャラに反映する。
銃器は専用のコントローラーをプレイヤーが実際に持ち、ハンドガン(HG)、サブマシンガン(SMG)、アサルト(AR)、マシンガン(MG)、スナイパー(SR)、ランチャー(RA)、その他特殊銃器トランセンデンスウェポン(TW)、近接武器(CW)と複数のコントローラーを使って遊ぶ。
重量はそれぞれ違い。その他と近接武器を除き、HG、SMG、AR、SR、MG、RAの順で重くなる。
ARは4kgあり、ここ最近始めた彼女はこのゲームをプレイするのに銃器コントローラーを持っておらず。俺が貸した際、半日でギブアップした。
まぁ、俺がこればっかりプレイしてたので躍起になったセラがやりたいと急に言い出したせいでもある。
今日はHGとCW、俺が貸したTWのコントローラーを持ってる。
ハンドガンのショーケースを見ていたセラが問いかける。
「ねぇ、コントローラーの重量って変わらないからさ。おっきいハンドガンでもいいでしょ?大きい方が威力あると思うし。」
「それがこのゲームを始めた初心者の大きなミスなんだよ。コントローラーの重量は変わらなくても画面上のキャラがハンドガンを構える速度は自キャラの筋力にも左右される。」
「それって、入力が早くてもダメってことか。」
「それもあるし、弾丸を撃った反動も違うからリコイル制御も厳しくなる。」
「あー、悩むなー」
セラが腕を組みつつ言う
「セラは正確に弾を相手に当てるのもまだ難しいと思うから。おすすめはこの、G9かな。」
俺は装弾数が比較的多く、連射可能のハンドガンを指す。
「なんじゃこりゃ?銃の下に筒がついてる」
「これはドラムマガジンっていって80発くらい弾が入る。」
「AR以上入るじゃん!」
「うん。でもARにもドラムマガジンあるし、ハンドガンの中では多いって感じかな。」
そう話していると、後ろからSWAT装備を付けたプレイヤーに声をかけられる。
「お嬢さん、ドラムマガジンってハンドガンのカッコ良さを損なわせるし、ハンドガンの機動性も殺してるからおすすめしないな」
あとから俺の方を向きながらそう言われた。
電子端末を開き、相手の情報をすぐさま確認する。
「だだのコスプレ勢か。俺たちは戦闘演習しにこのゲームをやってる。他をあたりな。」
相手は戦闘回数0回のプレイヤーだ。
「コスプレ勢だって?リアルの方ではサバゲとかやった経験あるし、君みたいな見た目だけの奴に言われたくないなー」
「不知火!このG9カスタムにするから、ほかの装備も見に行こ!」
セラが近接武器コーナーへ走り、向かう。
俺は、SWAT装備のプレイヤーから離れ、彼女を追う。
後方から、先程のプレイヤーの舌打ちが聞こえた。
彼女の元に駆けつけた俺は怒られる。
「なんですぐ、自分と思考が違う相手に突っかかるかなぁ」
「好きなゲームだといつもそう!」
「すまない……」
俺は彼女と同じ目線になるよう、しゃがみ。頭を下げる。
「不知火がやるゲームは女性の人口が少ないから、珍しさかなんかで声かけられやすいけど。それは承知でやってるの。」
実際、女性キャラは多いが中身も同じってのは中々見ない。人の喧騒や店内の活気などのリアルさを求めている AREA0 はボイスチャットが常に全体で聞こえるのだ。全体チャットを任意性にしろと苦情が来るが、運営は気にしない。ゲーム内の世界を現実と同程度まで近ずけ、それに非現実を加える。プレイヤーはその魅力に引かれこのゲームをする。AREA0 はFPSシューターだけでなく幅広いジャンルに対応している 楽園というソフト内のバトルアクションに属している。まぁ、その中で全体ボイスチャットしかないゲームは AREA0 のみだが。
「あんなの無視したらいいんだよ。ここはあくまで非現実なんだし」
セラが俺の肩を押し上げる。
俺はその意を理解し立ち上がる。
「それで近接武器はどれがいいと思う?」
セラはさっきとうってかわりニマニマとしながらこちらを見る。
「長物、がいいと思う。」
「でしょー?薙刀習ってたし、活かすならそれ。」
彼女は過去12年間薙刀を習っている。
賞も何度か受賞したが、県内で2位止まりだった。
理由は色々あったらしい。
店内に並ぶ長物の種類を見ているが薙刀らしきものは無い。
「やっぱ、近代武器しかないかぁ……」
彼女は落胆した。
「やっぱり、薙刀に近い方が良いのか?」
「そーだねー、思い入れも強かったし、せっかくリアル技能活かせるゲームやるんだからね。」
しばし、俺は考え提案する。
「トランセンデンスウェポン(TW)の類に近いのがあった気がするな。」
「あるとしたら嬉しいけど、それって高額なんじゃ?」
確かに高額だ。けど散財してまで買う価値はある。TWはそれだけの性能を持つ。
「大丈夫。こんな時のために貯金した。」
「ほんとに?へー、やるじゃん。」
近接武器コーナーを後にし、レジに向かう。TWはこの店には売ってない。
G9カスタムを無人レジに通し、俺の手をスキャナーにかざす。
俺のデータから1万5000gが減る。
そのまま店内を出た2人を雨が襲う。
「ひゃー、土砂降りじゃん!服が汚れるー!」
すぐさま、ポーチを開きポンチョを取り出して、セラに着せる。
「用意周到じゃん…。」
俺はサイボーグだから気にしないが、彼女が AREA0 を始めると聞いて生活品はまとめて買っておいた。その額はTWに匹敵する。
「トランセンデンスってどこに売ってるの?見たことないけど。」
「TWはAREA1のガンショップの本店に売ってある。」
「1桁台のAREA?それってランク90~100のプレイヤー専用のとこじゃん!」
このゲームは各AREAで別れており、AREA9~1 は上位ランカーしか入れない仕様だ。他に売ってない武器や装備、マイハウスもあり基本、上位ランカーのたまり場はそこだ。戦闘演習も残酷なルールが多くあり、殺伐としている。
AREA235 のガンショップから離れ、セラが小声で質問する。
「不知火ってランク幾つ?プレイヤーデータの1部、隠してあるから見えないんだけど。」
俺は電子端末をいじり、秘匿データを解除する。
そこには、ランク80+17と変更される。
ランク80までが基本で経験値で上がる。しかし、それ以上あげるには自分よりランクが1つ上のプレイヤーを1v1で勝つ必要がある。もちろん自分より下のランクに負ければ1つ下がる。ランク80になればランク81の挑戦権が貰える。
「ランク97!?えっ、嘘!えぇ…」
「ちなみに、このサイボーグアバターはランク95以上の者が買える。TWだ。」
「てっきり、ただのスキンだと思った…」
「うーん。でもAREA1って私、入れないよ?」
「マイハウスは別。マイハウス所有者は基本10名まで呼ぶことが出来て、マイハウスの外に出ることは出来ないが、中で待つことは出来る。」
「それって幾らしたの?」
セラが恐る恐る聞く
「秘密。」
「はぁ?それだけ高額ってことじゃん。」
値段は好評出来ない、なんせ課金してまで家具を購入したのだ。
「それじゃあ、マイハウス招待を送るから。」
電子端末のフレンドからセラを選び招待する。
先に入室してもらおうか、反応がとても楽しみだ。
セラが転送され目の前から消える。
5分経ってからマイハウスに向かった。
俺が到着した頃には、ソファに寝転ぶセラがいた。
「めっちゃ!快適!このゲーム遊ぶための機械高かくてさー、夏のボーナス吹っ飛んじゃって。んでやけにデカいしトラッキング室の裏に大きい箱付いてあったけど、あれベッドになるって初めて知ったわ!」
「DXエディション買って正解だったでしょ?」
自慢げに俺が言う。
リクライニング付きベッドplusゲーム機andトラッキングシステムこの3点が付属しており、座る。寝る。もたれる。の動作ができる。そのため、若年層が手に届きにくいゲームになっているが……。
「それに、外の風景見てよ!さっきは雨だったのにこっちは夜!しかも眼下に広がるネオン街!いかにもサイバーチック!」
目を輝かせている彼女を見て安心した。この地区を選んで良かった。
「とりあえず、俺はTWを見てくる。店内の情報は公開不可だから。1回みてまた帰ってくるよ。」
「あーい、行ってらっしゃーい。ふぁぁ……」
セラは完全にリラックスした状態になり、あくびをし、手をヒラヒラさせた。
AREA1の店内に転移した俺は受付の検索端末に発言する。
「TWを買いに来た。近接系だ。形状は長物。」
そこでまた声をかけられる。
「よォ、No.3 神速の不知火」
「なんだ、くじら、か。」
そこにはタンカラーの軍服を着て、いかにも米軍のコスチュームをした男がいた。その男はいかにも平凡、ランカーにしては普通すぎる印象だ。
「おいおい、No.10不死身の鯨と呼んでくれ。」
「自分で2つ名付けたやつがよく言う。ランカーの下位争いで忙しいお前が今日は暇そうだな。」
「うるせぇな〜、こっちは挑戦者が多すぎて嫌になるぜ…今日だって、既に10名以上倒してるっての。」
こいつが不死身たる由縁はまさにそれである。ランク89がランク90に入るべく常に挑戦してくる。それを1人で数ヶ月も死守し続けているのだ。
「んで、旦那は何をお探しで?えー、もちろんTWですよねー!そんなポンポン買えるもんなんですかねー?俺は1個しか持ってないですよー!てか、TWって種類によっちゃ1v1で禁止になってるのも多いし、数必要なくないですよね?」
「そーだな、お前に手の内は晒したくない。ほかの端末に移動してくれないか?」
「はいはい、俺じゃあんたに楯突いたところで勝てませんからね。他のとこに行きマース。」
話がわかるやつだ。殺伐としたARIA1で生き抜くには相手を刺激しないように振る舞わないといけない。PVPゾーンで急襲されてもおかしくないからな。
AREA1のPVPゾーンは必ず1v1となり自分より上のランクと戦って負ければ自分のランクは下がってしまう。。1つのランクに必ず1人って言う訳では無いからな。だが、ランカー同士で使われている No. と言う2つ名。これを手に入れるにはランク90〜100のいずれかに属し、また1週間そのランクを独占状態でのみ獲得できる。1度取ればランクが更新される度に変化する。同ランクに複数人いればこの2つ名は消える。ただし、ランク100は例外で必ず1人限定のため、現在ランク99は3名存在する。だから基本この2つ名は別に意味はなくなってる。けどカッコ良さ欲しさで狙ってくるのは確かだ。結果ランク99が98を攻撃しているから99と98は入れ替わりが激しい。
端末の検索結果を見ていると、薙刀並に長く、かつ先端に刀身がある武器は2つほどしか無かった。
そりゃ、銃で戦うゲームにおいて格闘戦は主に近距離で、建物内など障害物が多いところで2m近い武器を振り回すなど普通考えない。
その普通を覆してこそ面白いのだがな。
俺は該当した2つの武器を買うことにした。商品はマイハウスに送られる。
マイハウスに戻ると、2つの大きな箱を引きづっているセラがいた。
「何やってる?」
「あー、いやー、開けられないかと思って。1回帰って来なかったからいい武器が見つかったのかなーって。」
「俺が買ったから、他人の所有物はあかないだろ」
俺は肩をおとして言った。
「まぁ、待て。見せてやるから。」
電子端末を開き、アイテムボックスを開くを選択する。
目の前の箱が開き中の武器が宙に浮いて出てくる。
「BlancとNoirだ。」
自信満々で公表した。
「ケーキ屋じゃん!」
セラはそう即答しながら笑った。
「たしかに、ノワールの方は薙刀に見えなくもないけど、どっちもメカメカしい……」
「TWはシークレット武器だからな。俺もどんなのがあるか知らない。この武器も形状からどんな能力があるか予測するしかない。」
「実践あるのみか……」
「今日は100v100の大規模戦が開催される。カジュアルなら俺も参加できるからな。オープンワールドは危険だから今はやめとくぞ。」
「あーい、もちろんこれも持って行って良いよね?」
「今、レギュレーションを確認する。」
ランク90以上のみに公開されるレギュレーション。普通TW武器以外の禁止はない。それによると、ノワールは禁止のようだ。
「ノワールは持っていけない。ブランだけになる。」
他にも俺のサイボーグアバターも禁止対象だ。今回はただのスキンになる。
「えー、ブランってこれ完全に大太刀でしょー?間合いが近いのは苦手かなー。」
セラは武器を二三振りする。
「おぉ、かっこいい。」
「そんな、褒めなくても……」
セラが照れくさそうに笑う。
武道女子は個人的にかっこいいと思う。THE 大和撫子!!
セラが手に持つ、刀は全体的に白で統一され、刀身には金色の筋彫りが入っており光に当たる事に輝く。
マイハウスでは武器の使用が出来ないためこれ以上は分からなかった。
「不知火!ちゃんとお金は返すからね!」
セラは武器を仕舞いつつ言う。
TWの所有はランク90以上じゃないと持てないがランク90を超えた者の権利として1人だけ弟子をとることが出来る。このシステムは上位ランカーを増やすため、運営が追加した物になる。その弟子は師匠となるプレイヤーから許可されたTWのみ使用可能だ。
「へー、お前が返せるのかな。ざっと100万以上だぞ?」
俺はセラに近づいて圧力をかけた。
「不知火、近いって…まぁそのくらい返せる。たぶん。」
セラが困惑した表情になる。
「俺が半ば強制して始めさせたようだからな…返すのは先でいいよ。」
サービス開始からまだ半年しか経っていない AREA0 はゲーム機本体が高額なのにも関わらず、300万本以上売れており、同時接続人数は常時5万人を超える。楽園の中でトップクラスの人気を誇っており、ダイエットのためする者やサバゲプレイヤーが始めたり、多種多様な人口が存在している。