春をさがして
木枯らし1号が吹いた日、ニィナは春の女神さまをさがしに行くことにした。ニィナは小さな妖精の女の子だ。
「カトーさん、抜け毛を少し分けて欲しいの」
ウサギのカトーさんの毛はフワフワでいい匂いなの。
「その袋の中にたくさんあるわよ。なんか2号作るんだとか言って集めていたから」
カトーさんは飼い主さんの行動に首を傾げた。
「もらっちゃっていいのかな?」
「あたしの抜け毛だし、いいわよ」
私は必要な分の抜け毛を取出して魔法をかける。
「コートになぁれ」
妖精の魔法がかかったものは人間には見えなくなる。たまに見える人間もいるけれど。特に小さい子どもかな。
「じゃあカトーさん、行ってくるね」
「いってらっしゃい。帰って来る頃にはあたしの名前、ちゃんと呼べるようになってるかしら?」
カトーさんはクスクスと笑った。カトーさんは本当はもっと長い名前なんだけど。イギリスって国の有名なウサギと同じ名前なんだって言っていたわ。「行ってきます。多分ちゃんと発音できるようになっているわ」
ニィナは冷たい北風に乗って旅に出た。
しばらく飛んでいると、南に向うカモの群れ出会った。
「あらあら、小さな妖精のお嬢さん、どこに行くの?」
「春の女神さまをさがして南に行くの」
「それなら私の背中に乗って行きなさいな」
「それがいいな。俺たちは飛べない仲間を置いて来てしまった。仕方ないことだが、春になったら迎えに行ける」
カモのリーダーらしいおじさんが北の方をせつなそうに眺めた。
カモたちが着いた場所には春の女神さまはいなかった。
「もっと南に行かないとなのね」
ニィナはカモたちにお礼を言って、1人で南を目指した。
「よう。チビ。どこに行くんだ?そろそろ寝床に帰らないと夜は冷えるぜ」
そう声をかけてきたのはカラスのお兄さんだ。
「春の女神さまをさがしに南に行くの」
「春かぁ。いいねぇ。桜が咲くと人間が浮かれて美味い飯が食える。ちゃんと片付けない人間、最高だね」
カラスのお兄さんは去年の春を思い出してうっとりしているようだ。
「そうだ。いいことを教えてやろう。もうすぐここを大きな犬が通る。優しいおばさんだから泊めてもらえると思うぞ?俺の巣は散らかっているからな。じゃあな」
カラスのお兄さんが飛んで行ってすぐに、大きな犬が人間の女性とやってきた。
「あらまあ、迷子かしら?」
「春の女神さまをさがしに南に行くところよ。迷子じゃないわ」
「もうすぐ夜になるわ。うちにいらっしゃいな。私はモモ。あなたは?」
「ニィナよ」
モモの家にはモモと散歩していた女性と、男性と、小さな男の子がいた。
「ハルト〜いつまでもゲームしてないで、手を洗ってお箸並べて〜」
暖かい。やっぱり人間の家っていいわね。
「春になったらハルトは小学生になるのよ。注文したランドセルが届くのが楽しみだってはしゃいでいるの」
「モモもハルトも春っぽくていい名前ね」
「ありがとう」
モモはウフフ。と笑った。幸せそうだ。みんな、春を待っているのね。
ニィナはたくさんの動物や鳥たちに出会いながら旅をして、ついに春の女神さまを見つけた。春の女神さまはウトウト微睡んでいた。
「こんにちは。女神さま」
女神さまはゆっくりと目を開けてあくびをした。
この日、春一番が吹いた。