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色々あって、ちょっとやる気が失せてました(´・c_・`)
話を聞く限りララの世界は、僕らの19世紀後半の時代に類似していた。何故19世紀後半なのかは、おおよその見当はつく。
技術革新として蒸気機関が実用化され約100年、そこに魔法を加わえることで実より生活の向上を図っているようだ。政府や自治体が魔法使いや魔力を蓄える道具――蓄魔具と言うらしい。ちくわぶと同じイントネーション――を運用して、市民生活に役立てている。もちろん社会システムに魔法をかけることなんて不可能で、産業や経済などにおいて、時代に見合った未熟さや野蛮さを有している。軽工業中心だったり、貨幣の全国未統一だったり、著しい男尊女卑、君主主権。無論、それは現代の僕たちから見ての話である。もしさらに未来の人間が僕たちを観察したら、外面は幾らか進歩しても内面はむしろ退化しているように映るその事情に、痰をネットリと絡ませた唾を吐くかも知れない。……話を戻そう。その上、最も僕の興味を引いたのは、身分制度だった。通俗的に思われている日本の江戸時代にあるような、障壁的な身分・階級制度があるのだ。基本的に農民の子は農民、商人の子は商人、貴族の子は貴族になるより他ないのだ。しかし例外はある。魔法使いだ。ララたちにとって魔法使いだけが、そういった柵に捕らわれず自身の才能と努力で獲得できる身分であり職業であり、その地位は貴族をも凌駕するのだ。だがそれは、あまりにも窮屈な世界に感じた。そしてそれは、ララも同様だった。ララもその現状に疑問を持ち、嫌悪しているのだ。それ故、僕があちらの簡単な歴史から、車、飛行機、電車、船、インターネット、スマートフォン、芸術、医療、スポーツ、宗教、政治などの話をしてあげると、とても目を輝かせながら聞いてくれた。ララは時折質問し、僕の答えた一言一句を、しっかりと吸収してくれた。
僕はその瞳の奥に、水平線から昇ってくる太陽を見たような気がした。ずっと眺めていたいと思った。しかし、僕には些か眩しすぎた。僕も、昔はこんな顔を持っていたのだ。
それら作業の最中で、僕の好意的土台の多くが帰ってきてくれた。ララへ向けた陽の気持ちが灯りになって導いてくれたのだろう。そして、先の躊躇いの理由を思い出した。僕は彼らに深く謝罪したい気持ちで一杯になったが、一先ず置いておくことに決めた。ララの側にいればもう彼らを失うことは無いし、
僕は伝えたい総ての事柄を語り終えると、ララから今度は空に目をやった。「……でも、それでも僕は、魔法の方が羨ましいよ」
僕は涙を溢すようにそう呟いた。月がさらに輝きを増しているように見えた。潤んだ瞳に月光が増幅でもしたみたいだ。
「そうかなぁ。魔法よりも科学の方がいいと思うけどなぁ。だって、科学に差別はないもの」ララは僕の呟きに疑問を呈した。
その通りだと、僕も思った。科学は理解さえすれば、誰でも平等に公平に使用できるものだ。人間と共にあるが、不完全な人間とは違い、自然もしくは神によって完成されたものだからだ。
「そうだね。その通りだ。でも、だからこそ僕には耐え難いことなんだ」
僕はララの瞳を見て、その輝く球に直接語りかけるように言った。ララの瞳はあの月よりさらに眩しく、対極して能動的だった。
同時連載。『異世界ファンタジーはハッピーエンドを求めている。』もよろしく。
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