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同時連載。『異世界ファンタジーはハッピーエンドを求めている。』もよろしく。
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「カエデ?」ララが僕の名を呼んだ。ララの像が揺れている。まさに地震に遭遇したように。
「ご、……」
僕は続けるべき言葉を口にすることができなかった。まるでその言葉が酷く尖ったもので、喉の奥に突き刺さってびくともしなくなったかのようだった。鮫の歯のような返し刃があり、唾を飲もうとするだけで肉に食い込み激痛が走る。僕は右手で喉元を押さえ、目を搾って俯いてしまった。いや、その方がいいのかも知れない。そうすればこれ以上、ララに対して否定を突き付けることは無いのだから。これでララも、そして僕も傷つかない。
「大丈夫だよ」ララは僕の右手を取り、自分の胸の前まで引き寄せ、その小さな両手で包み込んだ。涙が出そうになるくらい温かかった。実際に出てしまっているかも知れない。「私もそういう気持ち、すごく分かるよ」
僕は顔をあげてララを見つめ直した。地震もおさまった。
ララはそれを確認すると、にっこりと微笑んで見せて、おもむろに話を続ける。ララは僕のすぐ側に、離れず寄り添ってくれている。「私も、よくそういう気持ちになるよ。カエデは知らないと思うけど、こちらでも魔法を操れる人は滅多にいないの。だから、私は大体、『才能のある特別な子』って色眼鏡で見られてしまうの。でもそれは、私の本質じゃない。分かるでしょ? 本質ってものは、地面を掘っていって、いつか硬い層にあたって、それをさらに砕いていった先にあるものだと、私は思うの。でも、ほとんどの人はちょっと土を掻いただけでやめてしまうの。とても辛くて大変な作業だから。でももし、本当に私についてきてくれるなら。私は、カエデと共に、その硬い層の下まで行ってみたい。ふふ、実は私もまだ行ったことないの。自分のね」
ララのその話し方は、まるで丁寧に壁紙を貼っているようだった。どこにも気泡筋は発生せず、僕の心に親密に張り付いてくれる。それは僕が体表に展開している壁とは対極の性質を持つ防護膜。僕の壁が陰なら、ララの壁紙は陽だ。




