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盗難トラブルにあって、間があいてしまった……orz
「……でも、だとしたら戻る方法を探さないと。カエデも本当は元の世界に帰りたいんでしょ?」ララは眉尻をすっと下げながら、僕に問いかける。
僕はララの顔から目を切って下を見た。ララの下半身を覆う緋色の袴と、その裾からまるで子ウサギのような足袋が見えた。足袋は袴と同じ緋色の鼻緒を持つ草履に収まっている。その組み合わせは、まるでララの心そのもののようだった。朱く猛る意志と純潔の心。僕とはまるで違う。
僕は空を見上げて答える。「僕は……戻りたくないな」
相変わらず月明かりが凄烈で、全く星が見えない。『ここは僕の瞼の裏の世界』僕は心の中で再び呟く。
ララは、何で? と聞き返した。僕の放った言葉の意味がまるで理解出来ないといった様子だ。
僕は視線をララに戻す。「僕は、あそこのことがあまり好きじゃない。僕は……いつも不安定で恐れている。まるで、命綱なしで細い紐の上を渡り続けているような感じだ。1度失敗したらそれでもう終わり。自分自身よりも、自分が何をしているのか、自分がどこに属しているか、どんな人と付き合っているか、そんなことで自分を判断される。自分を殺さないと駄目なんだ。何をするにも他人の目他人の耳。息が詰まるね。何より、それに毎度翻弄される自分が嫌だ」
批判めいた口調で、僕はおずおずと語った。あちらでは絶対口に出来ないことだった。そしてすぐに後悔した。この世界において僕を否定することは、つまりララを否定することではないか。何故口走る前にそれを理解出来なかったのか。僕は目の前にある蝋燭が弱々しく消えてしまったようないやな喪失感を覚えた。すぐに火を灯さねばと思った。しかし、僕は火をつける道具を持っていなければ、その方法も知らないのだ。火が一体どういった状態を表す言葉なのか、何が必要で何を消費している現象なのか、その説明すらまともに出来ないレベルなのだ。僕は誤って親の言いつけを破ってしまった子供のように動揺し、思考や体が硬直した。
同時連載。『異世界ファンタジーはハッピーエンドを求めている。』もよろしく。
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