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同時連載。『異世界ファンタジーはハッピーエンドを求めている。』もよろしく。
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ララの瞳はまっすぐ僕を見据えている。僕はその生まれたての恒星のようなエネルギーを拒むこと無く全身で受け、細胞をするりと透過させて精神的な領域にまで浸透していくのを感じる。僕はこの奇妙な夢の世界において、確かにここに存在しているのだ。……いや、どうだろう。本当はララの言う通り全く別の場所、あるいは領域にいるのかも知れない。ここにいる僕は僕の精神を映された影であり、本来の僕はどこかでその様子を観察しながら嘲け笑っているのかも知れない。いや、この精神すら、造られたフィクションなのかも知れない。それこそまさに夢らしく思える。……いや、どれだけ思考を巡らせようが、それは神の存在を証明するのと同じだ。現実の僕ですら、自身がきちんと人間のかたちをして行動しているのか、それともただ情報を受容するだけの培養液の中の脳髄のような存在なのか、分からないのだ。もしかすると、超越的な第三者の操るただの人形なのかも知れない――たとえそうだとして、僕の人生をこのように進行させて、その第三者は一体何を得ているのだろうか? ……そこにはささやかでも何かしらの救済があるのだろうか?――。しかし、それは考えてもしようの無いことだ。人間は観測出来ない事象の解答を科学的に求めることは出来ない。そのどうしようもならない空白は信仰や哲学のような概念で埋めるしかない。それをある人は「我思う故に我あり」といい、またある人は「ゴーストが囁く」と表現したりする。僕は彼らの言葉を借りることにする。
僕は内なる問答を一先ず決着させて、空を仰ぎ見た。力を込めて眉間に皺を集めるように目を瞑り、ぱっと開く。ララの言う通り、あの絶対的な白月の月光が夜空を犯して、そこにあるべき星々の瞬きは悉く掻き消されている。不気味に白んでいる夜空は、先に見つめた僕の瞼の裏によく似ている。
『ここは僕の瞼の裏の世界』心の中で改めて呟いてみる。
僕はララに視線を落とす。ララの質問に向き合うことを覚悟した。ララの言うことは至極もっともだ。ララと一緒にいるためには、僕は自身について語らなければならない。共有という名の絆を結ばなければならないのだ。幻影のままでは、それは敵わない。たとえ、夢という幻影の中にいるとしても。しかしその範囲、領域を見定めなければならない。1つ間違うと箱は開かれ、希望は悲惨な旅客機事故のように悉く外に吸い出されてしまう。
僕は沈黙を続ける中、さらにララから目を伏せた。そして寸秒の後、視線を再びララに戻した。
「――僕自身、不思議でよく分からないんだ。眠ろうと思って目を瞑って、気が付けばこの草原に立っていたんだ」
僕は1度突き放した言葉を選別し、正確な言葉のみを力付くで引き寄せた。そこからさらに言葉を選抜し、事態の本質に関しては伏せることにした。本当はララ達こそが、『機能的幻影』なんだという真実を。それは自身の内に含まれないと、無理矢理に納得させて。
ララは、うぅ、と喉を鳴らしながら考え込んだ。僕が曖昧なもの言いをしたから、それをどう捉えるべきか思慮しているようだ。少し顔を俯かせ、くっと唇を結んでいるのが、また何とも可愛らしかった。




