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同時連載。『異世界ファンタジーはハッピーエンドを求めている。』もよろしく。
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「あったあった」僕たちはキシュナの弔いを終えると、そこから歩いて1分弱くらいの場所に置き去りになっていたララの荷物を取りに行った。ララが僕を救ってくれた時、『バレット』を放つ際に放り投げそのままになっていたようだ。「ああ、ちょっと汚れちゃったぁ」
ララは草の中に蹲っていた荷物を持ち上げ、軽易に汚れをはたいた。指で摘まんだほどの砂埃が、さらさらと地に帰っていった。ララの荷物はアイボリー色をした無地で簡素なナップサックのようなもので、必要最低限のものしか入っていない印象だった。その膨らみは、まだ軟らかさを残す蛹みたいだ。総ての女の子は、自身の収納用具にきちきちと音が鳴りそうなくらいにいろんなものを詰めこんでいるものだと思っていた。化粧品や嗜好品、柄のあるポーチ、etc.。まさに村上春樹の『アフターダーク』に登場するマリみたいに。彼女のバッグの状態を『いろんなものが短時間のうちに、思いつきのまま次々に放り込まれたみたい』とするなら、ララのはまるで、客観的に無駄と思われるものをバッグ自体が悉く消化してしまったような具合だ。本当にそれだけの荷物で、少女1人が旅をしているのかと不思議に、というよりかは不安に思った。
僕はそのナップサックに似たものをじっと見つめる。まるで小さなミスを責め立てるように。するとそのアイボリーのかたまりは裂けて、足が延びて触角が延びて、生き物として蠢き始めそうな形象に襲われた。その光景に思わず眉が持ち上がる。
「あっ、そう言えば、カエデの荷物はどうしたの?」ララの質問を受け止めると、形象は煙のように霧散した。眉も正常の位置に戻っている。「どうしたの?」
「いや、何でもない。――僕に荷物はないよ。手ぶらなんだ」
いつものことだ。普段から可能な限り、荷物を持たないように努めている。よく言えば身軽なのだ。
しかしララは、まるで道端に落ちている花束を見ているような、どこかもの悲しい表情を浮かべた。何故そのような表情を浮かべるのか、僕はなんとなく理解できた。
「……じゃあ、おうちはどこ?」ララが続けて質問する。声が些か暗くなっている。まるで親を呼ぶ迷子の子犬の鳴き声のような響きだ。
「おうち?」
「うん、カエデも旅の準備をする必要があるでしょ? 一旦家に帰らないと」
「……家もないかな」
誤魔化すことももちろんできたが、ララに対して嘘をつくようなことはあまりしたくなかった。偽りの言葉はむしろ能動的に、漆黒の巨大な魚のように僕に近付き、時折それを掬いあげてしまう。大体は骨身に響くほど冷ややかだ。
ララは僕の中で激しく浮き沈みするものたちを必死に捕らえていく。そのような感触が僕の中で起こっている。いや、ある意味ではそれは当然の事象じゃないか。
「ねぇ、カエデはどこから来たの?」ララの質問に僕は押し黙る。真や偽などの選別をせず、言葉総てを一先ず僕の周りから追いやった。「……カエデてさぁ。私たちと匂いが違うよね。そう、まるで嗅いだことがない匂い。まるで違う国、いや、星から来たみたい。夜空の星の内の1つから落っこちて来たのかな。――今日はよく見えないや。いや、今でもまだ本体は星にいて。ここにいるのはただの幻影なのかも。まるで湖面に映る月のように。光や形を捉えても本体は全く別のところ。私は、うんうん、人はね、幻影とは一緒に旅は出来ないの。カエデもそうでしょ? だから話して。カエデは何者で、どこから来たの?」




