過去編4
「ちくしょう、誰かクリッパー持ってないか」
「探してこい」
救助隊の道具や手すら足りない。
必死に駆け回る大河の目に、担架を担いで荷物を持って通り過ぎようとする一団が映った。
「おい、あっちで人が埋もれているんだ。手を貸してくれ」
男は視線を大河のほうに向けて
「すまないーこの人を運ばなければ」
「そんなに人数いらないだろ。少しでいい、手を貸してくれ」
「ーすまない」
担架は男を置いて進んでいった。
「ーならせめて、その道具だけでも」
後ろから、救助隊も駆け寄ってくる。
「おい、どこの部隊か知らないが少し手をー」
男の腕章を目にして、救助隊員は口をつぐんだ。
「あんたたち、、」
それを察し、男は
「ーすまない、そういうことだ」
そう言って立ち去っていく。
「なに、どういうことだよ」
「ーあいつら、公安部隊だ。一般人は助けない」
「はぁ?」
大河は男を追いかけた。
「おい、頼む、道具だけでも」
男は大河の手を振り払い力を込めて突き飛ばした。
「悪いが、無理だ」
「なんだよ、目の前でたくさんの人が苦しんでいるじゃないかよ。」
「ーすまない」
男は立ち去っていく。
「他をあたろう」
救急隊員が大河を起こし、声をかけた。
「…ちくしょう」
数時間後百合を助けだしたときにはすでに彼女は息絶えていた。
美歌は百合叔母さんを抱きかかえたまま動かない。
「-俺が後で二人を避難所まで連れていく」「ああ」
人がいなくなっても美歌はそのまま動かない。
粉塵舞う赤黒い空の下、生暖かい風が吹いていた。