過去編3
「ーすっごくきれいだったね!僕、本当にうれしいよ!!」
興奮冷めやらぬ様子で蒼は話している。
「よかったな」
「うん、僕今日のことずっと忘れないよ。美歌ちゃんの歌も今日凄かったよ」
「もー大袈裟!それにそんなにほめても何も出ないわよ」
「えへへ」
「じゃー、またな」
「うん、バイバイ、二人とも」
蒼は家の前で手ををぶんぶん振っている。
二人は美歌の家に向かって足を進めた。
「色々あったけど今が一番楽しいな」
「退屈なんてしてる暇ないもんね」
美歌の家の前で、ちょうどお客さんを見送っている百合がこちらに気が付く
「あら、大河。久しぶり!」
家の前まで二人が足を進めた。
ーその時。
気持ちの悪い揺れがあたりを包む。
思わず身を寄せ合っているが、急激に強くなる揺れ。
あちらこちらからガラス音が聞こえ、警報音が鳴っている。
「ー!」
その瞬間、何かに気が付いた百合が強い力で二人を押した。
転がった衝撃から起き上がり、開けた目の先に広がっていたのは壊れた家だった。
「叔母さん!」
「百合さん!」
いつの間にか揺れは収まっていたが、叔母さんの姿が見えない。
ーやがて、あちこちからサイレンと叫び声が聞こえ始めた。
泣き叫ぶ子供の声、名前を呼ぶ声、助けを求める声ー
「おい、二人とも大丈夫か」
近所の人が声をかけてきてくれた。
が、叔母さんを呼び続けている美歌には声は届かない。
「ここに…」
大河が消え入りそうな声で答えた。
「!」
「よ、よし、あっちで今助けている田中のばあさんを出したら次ここに来る。ちょっと待っていろ」
近所の人たちが集まってくる。
がれきを押しのけていく。細い、手が見えた。
「ここだ!」
「くそっ、これがひっかかって出せねぇ」
「専用の器具でもあればな」
「ー美歌ちゃん、手を握っていてやんな」
「…叔母さん」
美歌は手を握った。幼い頃両親を亡くした美歌を迎えに来てくれた手。悩み事があるときに、美歌をぐいぐい引っ張って散歩に連れ出してくれた、そのままの手だ。
「ーおい、大河。そろそろ消防の応援がつくころだ。探しに行ってこい。」
「わかった」
大河は無我夢中で駆け出した。