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江華大学学生寮

似たものは烏?

作者: 葦乃灯子

このシリーズって起承転結がだいたい同じで、自分の傾向がよく分かる。

ことわざは最初、猿も木から落ちる、でした。

それで良かったような気もする。



 いつもは賑やかなカルミア寮の食堂も、試験期間前になると少しばかり静かになる。

 ぎりぎりまで大学の図書館や教室で勉強する人、自分の部屋やお気に入りのカフェにこもる人など様々になるので、昼下がりの楽しいおしゃべりは身をひそめる。

 だからこそ、逆にそれを利用しようという私みたいな人も中にはいるわけだけど、今日は私一人だ。

 この静けさを独り占めって、少し優越感がある。

 食堂のおねえさま方がこの時期になると用意してくれるコーヒーをすすりながら、カタカタとパソコンに中身の薄いレポートを打ち込んでいく。


「あれ、春日(かすが)?」


 男子寮側のドアが開いて、顔を出したのは伊吹(いぶき)くんだ。

 彼はどちらかというと図書館でがっつり集中するタイプなので、この時期ここにいるのは珍しい。


 片手に愛用のコップを持ってこちらにやって来た伊吹くんは、私のコップと保温用のポットを覗き込んで、少し目を見張る。


「お前がブラックって珍しいな。」

「牛乳なくて。飲む?」

「お前が淹れたんじゃないならもらう。お前の薄いんだもん。」

「淹れたのは私じゃないけど、ポットに入ってるのは薄めちゃった。」

「何してくれてんだよ。」

「あっちにコーヒーメーカーあるよ。あれは原液。」

「原液言うな。」


 呆れてすたすたとコーヒーメーカーの方へ行って濃いコーヒーを手に入れると、彼はこれまた珍しく私が座っている机の反対側に座った。


「何やってんの。」

「レポート。伊吹くんは?」

「図書館で本借りようと思ったら延滞してて借りられなかったから、諦めて帰って来た。」

「それはそれはお疲れさま。」


 嫌味のつもりではなかったのだけれど、彼は嫌味だと受け取ったらしい。

 コーヒーと一緒に差し入れられていたお徳用チョコを投げられる。

 そうやって乱暴だから振られるんだよ。

 むしろもてないんだよ。

 顔は悪くないと思うんだけど。


「このチョコおいしいよねえ。」

「俺はこっちのコーヒーの方がいいわ。」

「私はこの銘柄見ると試験期間だなあって気分になるからちょっと嫌いになりそう。」

「もともとコーヒー好きじゃねえじゃん。」

「カフェインで眠くなくなるならもっと好きになるんだけどなあ。」


 カフェインを摂るとすっきりするとか目が覚めるとかって本当なんだろうかっていうぐらい、私はコーヒーの効果が薄い。

 聞いた話じゃ、紅茶とか緑茶とかの方がカフェインが多いらしい。

 コーヒー業界の陰謀かなあ。

 なんにせよ、紅茶でも緑茶でも眠くなる私には関係ないことだけど。


 ちなみに伊吹くんはカフェイン中毒と言うかコーヒー中毒だ。

 去年の誕生日プレゼントに私があげたボトルには、だいたいコーヒーがいつも入っている。

 授業中も飲めると喜んでいて何よりだけど。

 私とは逆に濃いのが好きなので、お互いにお互いが淹れたコーヒーは飲めない。


 あ、私が薄めちゃうから効果薄いのかな。

 摂取量の問題かな。


「ゼミ決めた?」

「うん、浅海(あさうみ)先生。自由そうだし。授業愉快だし。」

「……知らねえや。」

「学部違うと会わないよねえ。」

「いや、会う会わない以前に会ってても顔が分からん。」


 私は教育系で、伊吹くんは情報系なので、全然知り合いの範囲が違う。

 それは先生たちだけでなくて、友達関係も同じだ。

 共通の友人と言うと、結局このカルミア寮の中になってしまう。

 男女合わせても四十人。

 せまい世界だ。


 せっかく三つ寮があるんだから、なんか寮対抗とかでイベントやったり、交流会みたいなのがあったら面白いと思うんだけどなあ。

 百二十人いれば色々できそうじゃない?

 最寄り駅が違うから、何するかよりもまずどこで集まるかでもめそうだけど。


「伊吹くんはゼミ決めたんだっけ?」

三戸(みと)じいのとこ。」

「ああ、なんかどっかのアニメに出てきそうな名前だよね。」

「懐かしいな。」

「あれ泉ちゃんが好きなんだよね。」

「……初耳。」


 泉ちゃんというのは今の私の同室で、一年生のかわいい子だ。

 ちなみに、伊吹くんは泉ちゃんのことちょっとかわいいなと思ってたときがあったのを私は知っている。

 夏にセミの抜け殻を集めていたのを知って以来、ちょっと距離を置いているのも。

 伊吹くんって、すごいやんちゃな感じの見た目なのに、虫が嫌いなのかわいいよねえ。

 去年カンパニュラ寮で流行ったっていう某家庭内害虫のおもちゃが最近うちの寮でも出現して、ブチ切れていたのは記憶に新しい。

 部屋にもマイ殺虫剤あるもんね。


 ていうか、泉ちゃんがあの映画を好きな理由って虫好きだからじゃないだろうか。

 ありえる。


「三戸じい先生って、おじいちゃんなのに情報系なのすごいよねえ。」

「そこかあ?」

「私なんかこのパソコンすら使いこなせてないもん。」

「春日けっこうアナログ好きだよな。」

「さすがに手書きレポートはしないけどね。」


 とりとめのない話をして笑い合うと、じゃあな、と言って伊吹くんは立ち上がる。


 同時に、また男子寮のドアが開いた。

 今度は結城(ゆうき)くんだった。

 結城くんは私と学部が一緒で、一年生のとき伊吹くんと同室だったことがあるので、比較的私たち二人と同じくらい仲が良い部類のお友達だ。


 その結城くんは、私の顔を見て、あっ、って顔をした。


「春日ちゃん! 発達心理ってレポートじゃなくてテストってほんと!?」

「うん、明日だよ。」

「まじで!? レポートがんばって終わらせたのに!?」

「すごーい、私なんかまだ始めてもないのに。」

颯馬(そうま)のそういうところは尊敬に値する。」

「君たちそういうとこそっくりなようで全然違うよね! 嫌味なの!? 優しいの!? とにかく拾ってくれてありがとう!! ちょっとおいしいとは思ってる!」


 そうなんだ、それは良かった。

 あまりにもテンパっているので逆にこっちが冷静になる。 

 どうしよう、どこで間違ったんだろう、とあわあわしている結城くんに、少し首を傾げた私は手帳をめくって確認する。


「児童文学はレポート明日までだよね。」

「そっちかあああああ!」

「どうして間違えるのか分からん……。」

「私も分からない。」

「椎名姉弟冷たい!!!」


 両手で顔を覆って泣きそうな結城くんに、二人してため息をつく。

 こういうところ揃っちゃうのがお互い、あーあ、って思っちゃうところなんだけどね。


「児童文学、徹夜でがんばったらどうにか明日までに終わると思うよ。」

「発達心理、レポートに書いたことがテストでちょっとでも出るといいな。」

「……君たち双子ってほんと、似てるんだか似てないんだか、優しいんだか冷たいんだか分からない……。」


 うん、よく言われる。


ちょっと遅刻していますが試験ネタ。

身内ネタもけっこう好きなんだなと思います。


似たものは烏:

よく似ているさまのたとえ。また、世の中には似たものがたくさんあるということ。

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