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五 – 11

舞は花瓶にチューリップを活けると、香の見えるところに置いた。

香の世話に気を取られていた舞は、部屋に花がないことに初めて気がついた。

舞は花が好きで、自宅ではよく飾っていたのだが、このところは花を選ぶ気持ちにならずにいた。

雄大から贈られた花は、舞の気持ちも明るくした。

香はいつまでもチューリップから目を離さなかった。

香は雄大を意識していたわけではなかった。

しかし、雄大の何気ない言葉が香の脳裏に焼き付いていた。


--意識はあるけど、身体は動かないって聞いた。身体が疲れてしまったのかな。


香には、身体が動かないことよりも意識があることの方が苦痛だった。


--いっそのこと、心も死ねば良いのに。


香は思っていた。

もう間宮のことも、兄のことも何も考えたくなかった。

悲しそうな母親を見るのも嫌だった。

嫌なことだらけなのに、生きている自分が一番辛かった。

そう考えるたびに、香は目を閉じた。

すると自分が死んでいるような感じがして落ち着けた。

でも今は、目を開けると明るい色が目の中に飛び込んでくる。

香はこれまで植物には関心がなかったが、母が家で花を活けているのを見ていた。

花に触れる母の顔はいつも嬉しそうだった。

最近は見かけない、穏やかな母の表情を香は思い出した。

そして今は、眩しいほどの綺麗で柔らかいピンク色の花が香の心を穏やかにした。

香はふとチューリップの一本の茎が花瓶の水に浸かっていないことに気がついた。

とっさに香は舞に呟いた。


「はな」


香の言葉を聞いて、舞は一瞬身体を硬くした。


「今、花って言った?香?」


舞は香の顔を覗きこんだ。香は花に視線を向けたまま唇を動かした。


「・・・おみず・・・を」


舞は香の言葉に驚いて振り返った。

そして香の意図を察すると、舞は黙って娘の手を強く握った。


「香・・」


舞はそう言うと、微笑みながら涙を流した。


読了おつかれさまでした。

「チカラ」三部作を書いて世に出すまでに10年かかりました。

小説家になりたいわけではなく、文章を書く仕事の息抜きでした。

この文章が掲載される翌日に、私は新しい仕事に就いている予定です。

仕事が順調に進んだら、おまけの小説を載せるかもしれません。

メインキャラは雄大です。


あらためて、小説を読んでいただきましたことを御礼申し上げます。

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