一 – 4
和那と義彦は食堂を出ると、車椅子を持って海の病室に戻った。
義彦は海が外に出る気があるならば、海を車椅子に乗せてから勤務に戻るつもりだったのだ。
海は目を覚ましていて、二人が近づいてくるのをぼんやりと見ていた。
和那は笑顔で声をかけた。
「海ちゃん。今日は暖かいよ。少し外に出てみない?」
義彦は海の点滴を外し、腕に止血用のテープを貼った。
すると海は和那を見て冷ややかに言った。
「和那ちゃん、嬉しそうだね。お兄ちゃんと食事できて楽しかった?和那ちゃんはお兄ちゃんのこと、好きだから」
「海」
義彦は妹の態度に怒りを覚えて鋭く言った。
しかし和那は動じなかった。
「うん、嬉しかった。すごく久しぶりに義彦さんと会えて話もできたし。
あ、クローゼット開けるね?」
平然と言う和那を、海と義彦は呆然と見ていた。
和那は海の上着を探しながら、海に話しかけた。
「下のレストランでイチゴケーキのフェアをやっていたの。病院って思えないくらいにおいしかった。
いちごを食べると春って感じがするじゃない?海ちゃんもつわりがおさまったら食べるといいよ」
和那は海の上着を見つけると、海の方を見た。
「上着、これでいい?・・・って、二人ともどうしたの?」
海も義彦も微動だにせず和那を見ていた。
そして突然、海が吹き出した。
和那は面食らった。
「え・・・海ちゃん?」
和那はまた海が暴れるのではと身構えたが、海の表情は泣き笑いに変わった。
「何?海ちゃん」
和那は海の態度にとまどっていた。
義彦も照れたように笑った。
「いいな、和那ちゃんは」
義彦はそう言って、和那から海の上着を受け取った。
「海、外に行くだろう?冷やさないように、膝かけも持っていけよ」
海は兄の問いかけに、泣くのをこらえながら応えた。
「うん・・・うん」
海は兄から上着を受け取って着ると、義彦に抱えられて車椅子に移った。
そして義彦は和那に言った。
「妹を頼むね。陽菜さんが和那ちゃんを寄越した理由が分かった気がするよ」
義彦はそう言って病室を出ていった。




