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五 – 1

和那は夏休みのほとんどを自室で寝て過ごした。

その間、義彦は何度か和那の家に来たが、和那には怪我の具合を尋ねるだけで、陽菜や雄大と会話をしている方がむしろ長いくらいだった。

和那は義彦と家族が話をしている姿を見て、疎外感を味わっていた。

自分が知らない義彦と、家族は当然のように話をしていた。

そんな和那の気持ちを察したのか、和那の怪我が治り、夏休みが明けると義彦の足は遠のいていった。

和那は家にあるアルバムを取り出し、海や義彦の子供の頃の写真を見た。

しかし、和那が二人を思い出そうとするたびに激しい頭痛が起こることを知った陽菜は、和那からアルバムを取り上げ、倉庫に入れてカギをかけてしまった。

それ以来、和那は家であまり話をしなくなった。

陽菜は、以前の活発な和那からは予想もしなかった状況を見て、息子に問いかけた。


「和那のこと、義彦さんに言った方がいいのかしら?何だか可愛そうで」


すると雄大は何事でもないように言い返した。


「子供の恋愛に親が口を出すのはどうかと思う。

和那と義彦さんは、過去がなくてもやっていけるよ」


息子の言葉を聞いた陽菜は、久しぶりに雄大がまっすぐに自分を見て話をしたような気がした。

陽菜は息子の成長を嬉しく思いながらも、娘が可愛そうで仕方がなかった。

和那はしかし、落ち込んでいた訳ではなかった。



義彦が日勤を終えて着替えていると、携帯電話に和那からの着信記録があることに気がついた。

和那の怪我が良くなってから、義彦は和那に連絡をとらなくなっていた。

和那が自分の記憶をなくしたのは、香のチカラによるものだと義彦は思っていた。

海を嫌っていた香は、聖義と和那が一緒になることを望んでいた。

そのためには和那から義彦の記憶を消す必要があった。

本来の香ならば和那を操り、聖義を好きにさせることはできたはずだが、すでに香自身の体力と精神力が保たなくなっていた。

和那と海が怪我をした事件以降、香はほぼ寝たきりになっていた。

香の意識はあり、知的レベルも落ちていないが、体が全く動かなくなっていた。

香の意志はチカラを通じて舞に伝えていたが、看護師達の目には舞の妄想だと映っていた。

そして香は義彦が見舞いに行っても、全く反応しなかった。

香の事は、和那と連絡をとらないことと直接は関係なかった。

ただ義彦は、和那が自分と関わることで和那が傷つくことを避けたかった。

階段から落ちて血だらけになった和那を思い出すたびに、自分から連絡をとることが躊躇われた。

しかし義彦は和那からの着信を無視する理由はなかった。

義彦はしばらく悩んだ挙げ句、和那の携帯に電話をした。

和那は携帯のコール音が鳴り始めたと同時に電話に出た。


「義彦さん、お仕事終わりましたか?」


久々に聞く和那の声に、義彦は胸が熱くなった。

しかし表には出さなかった。


「ああ。電話をくれたね。出られなくてすまなかった」

「お忙しいことは分かっているので。

それで・・・明日は、義貴おじさんとひーこおばさんの命日ですよね」


和那の言うことは正しかった。

義彦は和那の言葉を意外に思いながら尋ねた。


「親父のことは覚えているのか?」

「はい。明日は学校が休みだから、お墓参りに行こうと思って。

できれば、義彦さんと一緒に。でも・・・義彦さんは一人で行きたいですか?」


義彦は一瞬沈黙したが、すぐに普段通りの声で返事をした。


「墓参りに来てくれるのか。ありがとう。なら、家まで迎えに行くよ」

「ありがとうございます。でもお花屋さんに寄ってから行きたいので、霊園の入口で待っています。何時頃がいいですか?」

「昼頃でどうかな。11時とか」


二人は一ヶ月も会っていない恋人とは思えないほど、普通に待ち合わせの約束をして電話を切った。

義彦はしばらく携帯を眺めながら思った。


--和那の声が「ひとりで生きたいですか?」に聞こえた。


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