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三 – 7

それからしばらくは、和那にとって幸せで平穏な日々が過ぎていった。

和那は義彦と映画やアミューズメントパークに出かけた。

しかし、すぐに定期考査が近くなり、遊んでばかりいられなかった。

その代わり義彦が仕事帰りに自宅に来て、和那と雄大の勉強を見てくれるようになった。

義彦が来ると雄大と和那は客間に集まり、それぞれが解けない問題を、義彦が個別に教えるというシステムをとった。

しかし数学が苦手な和那は聞き出したらきりがないので、和那はひとまず問題集を解き、その間に雄大は義彦に質問をするようになった。

だから家庭教師として義彦が接するのは、和那よりも雄大の方が長かった。

そうしているうちに和那は、雄大が義彦に勉強を教えてもらえることを本当に喜んでいることに気がついた。

雄大は一見すると人当たりが良いのだが、集団行動が苦手で学校を苦痛に感じていた。

和那と陽菜は、もし和那が同じ高校に行かないと、雄大が不登校になる可能性が高いと思っていた。

そんな雄大が義彦を慕うことを、和那は不思議な気持ちで見ていた。

雄大と義彦の仲が良いのは和那にとっても嬉しいことだった。

義彦は教え方が上手かったので、数学が苦手な和那でも少しずつ勉強をするようになった。

ただ、義彦は和那に異性として触れることがほとんどなかった。

義彦の挙動は恋人というよりも、幼いときに遊んでくれたお兄ちゃんそのものだった。

和那は義彦に会っているのに、次第に不安な気持ちになっていった。


--私が高校生だから?幼く見えるからかな?


同級生の数人はすでにセックスを経験していた。

高校生の行為としては早いかもと和那は思ったが、キスすらしようとしない義彦に寂しさを感じていた。

そんな和那の唯一の救いは、義彦は二人でいる時だけ『和那』と呼ぶことだった。

幼い頃にも名前だけを呼ばれた記憶はなかった。

和那は義彦に真意を尋ねなかった。

密かに自分の心の拠り所にしていたからだ。



定期考査が終わった日の昼休み、和那が友人とお弁当を食べていると友人の一人が声を低くして言った。


「Aクラスの間宮さんと伊吹いぶきくんが街で一緒にいたって話、知っている?」


彼女の言葉に和那はどきっとして黙った。

しかし周囲の女子生徒は試験が終わったばかりでテンションの高さも相まって、すさまじい反応を見せた。


「伊吹くんって、有美ゆみの彼氏じゃん。どうして?!」

「有美が伊吹くんに訊いても否定するんだって。

しかも間宮さん、伊吹くんだけじゃなくて、三年生の山本センパイともいるのを見たって人がいて。こっちも彼女持ちよ」


和那は香とは直接の親戚関係ではなかったが、和那は落ちつかなかった。


「一緒って・・・たまたま街で会っただけかもしれないし」


フォローをするつもりで和那は言ったが、友人達に子供扱いされることになった。


「街で偶然会ったからホテルに行きました、なんてありえる?」

「えっ?」


和那は友人の言葉の意味をようやく理解して顔を赤くした。

その様子を見た友人達は、呆れたように言った。


「何、赤くなっているのよ。和那はお子様だからね」

「ただ一緒にいただけでは話題にならないよ。ラブホから出てきたところを見た人がいるのよ」


和那は男女関係なく気さくに話をするので、和那は友人の間でセックスアピールのできない人間だと思われていた。

友人に『年上の、医者の恋人ができた』などと言ったら大騒ぎになるだろうと思った和那は、義彦のことを友人に言わずにいた。

友人達は、噂を好き放題言った。


「間宮さんは小柄だけどスタイルはいいし、綺麗だし、おうちはお金持ちらしいし。言い寄られたら男は落ちるよねぇー。でもさ、人のオトコを取るってありえないよね」

「人のカレシを取るのが趣味の人もいるよね。いつか刺されるかも?」

「でも伊吹くんも山本センパイも、間宮さんに会ったことを否定するんだって」


友人達の会話を聞いていた和那は、香が心配になった。

ただでさえ香は美人だったので、女子生徒の反感を買いやすかった。

しかし香とは個人的に話をしたこともなく、和那にはどうすることもできなかった。

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