三 – 1
和那は口腔を義彦の舌で愛撫されながら思った。
--人の舌って、柔らかい。
義彦は和那の唇からゆっくりと離れると、首筋に舌を這わせた。
和那は義彦の重みを身体で受け止めながら、部屋の中をぼんやりと見ていた。暗い部屋の中に、結婚式の写真を見つけた。
古い写真には、若かりし日の伯父と伯母が正装で写っていた。
幸せそうな、笑顔の写真。
それを見ながら和那は理解した。
--ここ、義貴おじさんの部屋だ。
義彦は慣れた手つきで和那の服を脱がせていった。
和那が部屋に視線を向けていたのは、義彦の行為に対するショックを無意識に避けているせいもあった。
それでも、和那は義彦に抵抗しなかった。
和那の両手は空いていたので、その気になれば義彦の動きを抑えようとすることはできた。
しかし和那は目を閉じると、義彦に身を任せていた。
義彦が和那を乱暴に扱ったのは押し倒した時だけで、和那にキスをするときも、服を脱がせる間も、素肌に触れる手も優しかった。
耳年増な和那は性に関する知識は持っていて、自分が何をされているかも判っていた。
不思議なことに、和那は義彦に乳首を優しく吸われても、それが自然のように思えてきていた。
むしろ、マンガでセックスシーンを見ていた時の方が和那は緊張した。
和那も海の自殺未遂で感情が高ぶっていたので、少し体温の低い義彦の身体が心地良かった。
二人は一言も話をせず、時々漏れる和那の吐息だけが部屋に響いた。
和那がショーツ一枚の姿になったところで、義彦はふいに我に返ったように動きを止めた。
和那は目を開けると、押し倒されてから初めて言葉を発した。
「義彦さん?」
義彦は和那に覆い被さったまま、じっと見た。
息がかかるほど間近で見た義彦の黒い瞳が、暗い部屋の中でも鮮やかに和那の目には映った。
義彦は和那の髪を優しく撫でて言った。
「怖くないか?」
義彦に見つめられた和那は、どう返事して良いのか迷った。
「は・・恥ずかしいです」
和那はそれだけ呟くと、義彦の胸に顔を寄せて目を閉じた。
義彦は和那を抱き上げ、掛け布団をめくると、和那をマットレスの上に優しく寝かせた。
そして義彦は、自分で服を脱ぎ始めた。
和那は露わになった自分の胸を両腕で隠しながら、義彦を見上げていた。
義彦の裸体を見た和那は急に緊張し始めた。
義彦は和那に並んで横たわり、二人の身体に掛け布団をかけると、布団の下から再び和那の身体に触れた。
和那は緊張しながらも、義彦に触れられて感じていた。
義彦は和那の耳元で言った。
「無理はしなくていい。嫌ならいやだって言っていいんだ」
義彦はそう言いながらも、和那のショーツを下ろし、ゆっくりと足を開かせた。
和那は何も言わなかったが、義彦の動きに合わせて身体を動かしたので、和那は拒絶していないと義彦は理解していた。
義彦は和那の様子を見ながら、和那の中を指で優しく触れた。
「あっ」
和那は緊張のあまりに止めていた息を、反射的に吐き出した。
その声が大きく聞こえた和那は一人で照れた。
--シャワーを浴びたい。恥ずかしい。
和那はそう思ったが、言葉を出せなかった。
義彦の触れる感覚で、頭がいっぱいだった。
義彦は中指の先をゆっくりと和那の中に入れた。
中指の全てが和那の身体に入ったとき、和那は身体の中がしびれるような感覚に陥った。
「あっ・・・ん・・・っ」
義彦の指が滑るように動くのを感じて、和那は自分が濡れていることを知った。
和那は自分の身体の変化に怯えたように震えながら、義彦の身体にしがみついた。
--身体がどうかなりそう。
和那は赤く火照った顔を、義彦の肩に付けて冷やした。
義彦の指が自分の中で音を立てるのを、和那は照れながら聞いていた。
和那は義彦が和那の身体に入れる指を増やすたびに、反応していった。
その動きは正確に和那を快感へと導いた。
義彦は和那の芯を探るように指を動かし続けながら、和那の耳元で囁いた。
「嫌じゃなければ、したい。いいか?」
義彦の穏やかな言葉と指のゆっくりとした動きに、和那は身体の力が抜けた。
初めて義彦から求められた和那は、義彦が自分を必要としてくれているのだと思った。
和那は嬉しくて、義彦の言葉だけで溶けてしまいそうだった。
和那は自分でも予想外の行動をした。
義彦の唇に自分の唇を押しつけると、小さな声で言った。
「・・・して?」
その声に促されるように、義彦は和那の中に、自身を沈めた。




