二 – 7
その日の放課後、和那が教室から廊下に出ると香が立っていた。
和那は香を見た瞬間、香の兄である聖義とキスをしたことを見透かされた気がした。
和那は香の大きな瞳に見つめられて、怖くなって足を止めた。
「間宮さん」
和那が呟くと同時に、香は突然右手を和那の額にかざした。
一瞬、香の手が光ったように見えて思わず目を閉じた。
再び開けたときには、香の姿はなかった。
和那は不思議に思った。
--なんだろう、今の?
しかし和那は誰に尋ねることもできず、そのまま学校を出た。
その夜、和那の携帯電話に義彦から電話がかかってきた。
義彦とは海のお見舞いの帰りに家まで送ってもらって以来、連絡を取っていなかった。
「先日は、海のお見舞いに来てくれてありがとう」
義彦の声が耳にくすぐったかった。
「いえ・・・」
照れた和那は義彦と上手く会話ができなかった。
「今週、海が退院する。もしよければ、次の土曜日に三人で夕飯を食べないか?」
「はい。大丈夫です」
緊張する和那の雰囲気が義彦に伝わったせいか、義彦は軽く笑いながら言った。
「それじゃあ、土曜日に」
「はい。海ちゃんに・・・よろしくお伝え下さい」
「分かった」
和那は電話を切ってため息をついた。
和那は時々、義彦とつきあう話は夢だったのかと思う時があったが、いきなり現実感が沸いてきた。
「何だか・・・嘘みたい」
すっかり浮かれた和那は、週末に着ていく服を選び始めた。




