第8話 「強襲」
私は鷲宮 鳰。
鷲宮家の次女で、現在は天城家に身を寄せている。
理由は、姉で鷲宮家の家長のヒバリお姉ちゃんが天城家の命で任務に参加しているからだ。
姉は強い。
天城家に仕えている姉、鷲宮 雲雀。
鷲宮家始まって以来の天才剣士。
私が5歳になる前に、天城家に仕えるようになった私の憧れの人。
そんな姉は一年の内、何回かは家に帰ってくることがある。
その時に、あらゆることを、いっぱい喋ってくれるのだ。
だけど、ある日を境にお姉ちゃんは話す事が一つのことが多くなった。
天城家の長男、天城 嵐様の事だ。
アラシ様、噂では鬼に母親を殺されたと聞く。
それ以来、強くあろうと強さを求めているらしい。
そんなアラシ様を、お姉ちゃんはよく褒めていた。
やれアラシ様は素晴らしいだの、あの年であの考えはできないだの。
何かにつけて、お姉ちゃんはアラシ様を褒めた。
私だって、お姉ちゃんに追いつこうと頑張っているのに。
そんな私にアラシ様のようになれと、お姉ちゃんは言った。
だからあたしは、あまりアラシ様が好きにはなれなかった。
この2ヶ月前までは。
2ヶ月前、お姉ちゃんや一族のみんなが任務に参加するということで、あたしはその間、天城家にお世話になることになった。
天城家の人達は、親切だった。
そしてそれは、アラシ様の考えということだった。
アラシ様は、姉の言った通りの人物だった。
8歳とは思えないほど賢く、恐ろしく強い。
そして優しいのだ。
よそ者の私達を、嫌な顔一つせずに受け入れてくれた。
素敵なお話をしてくれた。
一緒に宝探しと称して、一族の蔵まで見せてくれた。
そんな彼は、もうすぐ9歳の誕生日らしい。
天城家のお手伝いさん達がそう呟いていた。
誕生日に、家族がいない。
そんな悲しい事はないだろう。
そう思って、私はそのお手伝いさんに相談した。
彼に、プレゼントをあげたいのだと。
そんな私に、彼女達はこう言った。
「鳰ちゃんみたいな女の子に貰ったら、なんでも嬉しいですよ!」
私は、顔から火が出そうになった。
そして、四六時中彼の事を考えるようになった。
剣術の訓練をする彼、直人と勉強をする彼。
私達が眠った後、隠れるように修行する彼、たまに心配そうな顔をする彼。
そして…楽しそうに笑う彼。
多分、私が彼に抱いているのは…。
私は、彼にプレゼントを贈ることにした。
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最近、鳰がよそよそしい。
なんだろう、何か嫌われるような事をしただろうか。
そう思って直人に聞いてみると、直人は白々しい顔で大丈夫ですと言った。
何か知っている顔だった。
どうしようか、誕生日なのに顔すら合わせてもらえない。
最悪の誕生日なんではないだろうか。
落ち込みそうなそんな時、直人に呼ばれた。
なので俺は今、直人が使っている部屋に向かっている。
なんなのだろうか?
また、勉強会でもするのかもしれない。
そう考えいると、彼の部屋についてしまう。
俺は、扉の前で声を掛ける。
「もしもし、直人?」
「あ、入っていいですよー」
「わかりました、失礼しますよ」
そう言って俺は障子を開ける。
その瞬間、二人の嬉しそうな顔が見えた。
「誕生日、おめでとうございます、アラシ様!!」
「え?」
俺は、とても驚いた。
誕生日を、なんで2人が知っているのか?
なんで祝ってくれるのか、そんな事を思いながら俺は固まった。
「あれ、違いました?」
直人が、少し慌てている。
「あ、いえ、違うんです、誕生日で間違いないですよ」
「そうですか、それはよかったです」
「えっと、なぜ俺の誕生日を?」
「それはお手伝いさんが言っていたんですよ、それで、鳰が祝ってあげましょうと言いまして」
「直人!」
そうか、鳰が言ったのか。
それで、最近よそよそしかったのか。
よかった、嫌われていなくて…。
少しほっとする。
「どうしました、天城様」
「いや、なんでもないです、2人ともありがとうございます!」
「ふふ、礼を言うのはまだ早いですよ天城様!」
「えっ」
「僕からはこれです」
そう言って彼は、本を見せてきた。
その本のタイトルは『鬼狩り伝説』と書かれていた。
「この本は、昔の歴史が詳しく載ってますので、天城様の役に立つと思います」
「いいんですか、こんな本を?」
「ええ、僕はもう、内容も話せるくらい読んだので」
おお、本は父さんが脳筋なのもあって、あんまりこの家では見ないからな。
寝る前にさっそく読ませてもらうとしよう。
「サンキュー、直人!」
「いえいえ、鳰さんもあるみたいですよ?」
そう直人はニヤニヤして鳰を見る。
俺もつられて鳰の方を見てしまう。
なぜか鳰は、モジモジしている。
そして、しびれを切らしたかのように、俺の方を見て言った。
「……あたしは、これ」
そう言って、彼女は木で作られた指輪を差し出した。
「魔除けの指輪って言うらしいから、作った。
気に入らなかったら、捨ててもいいよ」
そう言って、彼女は俺に渡してくる。
その時に俺は見逃さなかった。
彼女の指に切り傷があるのを。
手作りというだけで、男というものは嬉しいのだ。
「ありがたく頂きます、鳰さんありがとうございます、大事にしますよ」
「だ、大事にしなくてもいいです!」
そう言って、鳰は顔を背ける。
心なしか、なんかニヤニヤしているように見える。
二人とも大切な友達だ、少なくとも俺はそう思った。
「二人が誕生日の時は、僕からも何か送らせて貰いますね」
「いえ、僕はいいですよ」
「あたしも、気持ちだけでいいです!!」
そう言って三人で笑い合う。
幸せな気持ちだ、これからもこの三人で笑いあえるといいな。
「ちょっと暑いから、障子を開けていいですか?」
「ああ、構わないですよ」
「僕も大丈夫です」
「じゃあ、ちょっと開けますね……」
そう言って、鳰が障子を開けた。
そこには、信じらない光景があった。
従者の服を着た女の姿。
その格好は、別に変なことではない。
ただ、姿がおかしかった。
髪と服には返り血が付着し、口元には牙があり血が流れている。
その眼は赤く染まり、見開かれている。
そこには、『鬼』がいた。