第7話 「幼い頃の約束」
父さん達が任務に行ってから、1ヶ月半が過ぎようとしていた。
まだ、彼らは帰って来ていない。
その間に、直人や鳰とはさらに仲良くなっていた。
2人はこの1ヶ月ほどで、全く違う分野に秀でているのだと気づいた。
直人は古い歴史などに詳しく、勉学に優れていた。
鳰は勉学によりも、武道系の方が好きらしい。
この前も、鷲宮家の武具について語っていた。
そんなある日、直人と話をしている時の事だった。
彼は、こんなことを言った。
「天城様は、この国のことを知っていますか?」
「いえ、歴史には疎いもので」
この国のこと……これまでこ歴史のことだろうか?
そう思って話を聞いてみると、驚く事実を告げられた。
「いえ、他の地方にいる一団のことです」
「他の地方?
えっと、この国は皇家の手で二つの県……を解放しているんですよね?」
「ええ、ですが他の地方は別の一族が治めているらしいのですよ?」
「ええっ、そうなんですか!?」
皇家以外にも、俺達みたいなのがいるのか?
それだったら、そういうのと協力したらもっと鬼から効率良く国を解放できるんじゃないのか?
ああ、多分皇家と仲が悪いんだろう。
戦国時代みたいなものなんだろうな。
「やっぱり、皇家と仲が悪いんですかね?」
「いや、そんなことはないみたいですよ」
だがどうやら違うらしい。
じゃあ、一体どういうことなんだ?
「どういう事ですか?」
「えっと、父さんが言うには…その地域で育った国を捨てられないみたいですよ、それにかなり遠くにあるみたいですしね」
なるほど、自分の育った故郷を捨てられないのか……。
そいつらの気持ちは分かる、俺も生前は大阪生まれだったからな。
東京にいるという気分は、最初はむず痒かった。
そういえばその大阪は現在、どうなっているんだろうか。
直人なら知っているのだろうか。
そう思って、直人にその事を尋ねてみる。
「なら、大阪って場所……知ってますか?」
「大阪?
えっと、その……」
彼は、暗い顔をしている。
どうやら、かなりやばいことになってそうだ。
それでも俺は知りたい。
「お願いします、教えて下さい直人」
「……分かりました、お答えしましょう」
そう言って、直人は真面目な顔をして俺に向かった。
「大阪は……鬼に支配されているらしいです」
「……そうですか」
鬼に支配されている。
あの俺の故郷、大阪が。
もう、あの活気に溢れたナニワの街と呼ばれた場所は存在しないのだろう。
少し、気分が落ち込む。
「天城様、どうしました?」
そんな俺の顔を、直人が心配そうに覗いてくる。
おっといかん、彼にそんな顔をさせてはいけない。
「いえ、じゃあ他の地方にいるとされる一族を教えて下さいますか?」
「ええ、分かりました」
そう言って彼は話を始めてくれた。
「とは言っても、僕もあんまり知らないんですけどね」
「そうなんですか?」
「はい、僕のは父さんの受け売りなので」
「まあ、それでもいいので教えて下さい」
「はい、僕が知っているのは2つの一族です…福岡という国と、四国という国の2つの一族です」
福岡と、四国。
福岡はともかく、四国は4つで1つにされているのだろうか。
もう少し聞いてみよう。
「えっと、詳しく聞いても?」
「福岡は、修羅と呼ばれる集団が統治しているらしいです」
修羅。
俺のいた世界でも、ネットでは福岡はそう呼ばれていたな。
道端に手榴弾が落ちてるとか、ピストルの弾がそこらへんに転がっているとかな。
「四国は、古くから妖怪退治一家と呼ばれている集団が治めているらしいです」
「ほほう」
妖怪退治一家、寺生まれのTさんとかがいるんだろうか?
叫んだだけで幽霊とかを退治したりするのだ。
「どんな一族なんですか、その集団は」
「なんでも、四国の一族はオチバナと名乗っているらしいですよ」
オチバナ…読み方はどんななのだろうか。
この世界でも言語は日本語だし、漢字だろうか。
落花とでも書くのだろうか。
「福岡の方は?」
「えっと、福岡の方はあまり知らないんです、すみません」
「いえ、気にしないでください」
知らないんなら仕方ないよな。
そう俺は直人に告げる。
「いえ、大変勉強になりましたよ、直人は物知りで頼りになりますね」
「大変恐縮です、天城様に褒められるなら僕も学んだ価値があったというものです」
いや、直人は本当に頼りになる。
賢いだけではない、考えることや学ぶ事を苦にしないのだろう。
そのいう奴は、将来大物になるのだ、おそらく直人もそうなるであろう。
「直人には、そのうちお礼をしないといけませんね」
「いえいえ!
そんな、僕は大した事はしていません!」
直人がすごい勢いで首を振った。
謙遜はしなくてもいいのに。
「僕にできる事ならやりますよ?」
「いやいや、そんな……!」
そう言った時に彼は、ハッとして俺の方を向いた。
「では1つ、よろしいですか?」
「ええ、僕にできる事ならですが」
なんだろうか、でも権力とかは与えられないんだが……。
「僕を将来、天城様に仕えさせて下さい」
将来、俺に仕える。
えっと、配下になるということか?
「えっと、僕の仲間になるという事ですか?」
「はい、従者でも構いません!」
直人が俺の仲間になってくれる。
おそらく、彼は将来優れた人物になるだろう。
こんな俺の右腕になってくれるだろうか。
きっと、彼はなるだろう。
そして、俺の期待に応えるような人物に。
それに、彼は俺の友達だ。
よし、決めた。
「直人、あなたさえよければなんですが、成長してからもその気持ちに変わりがなければ、僕の仲間になってくれますか?」
「はい、天城様!」
こうして、俺と直人は約束を交わした。