第6話 「白い少女」
何だろう、何かがおかしい。
ああそうか……声が出ないのだ。
そう気づいた時、俺は見回す限り真っ白な世界にいた。
おかしいな、さっきまで俺は直人と鳰の2人と蔵にいたはずだ。
そして蔵の奥にあった変な鞘に触れたんだよな…。
あの刀は呪われてたとかなのか…?
もし呪いだとしたら、どうやってあっちに戻るのだろうか…。
「呪いなんかじゃないよ、失礼だな君は」
突然後ろで声がした。
ハッとなって、俺はその方向を見る。
少女か、少年のような見た目の子どもがそこにいた。
おそらく、女物の白い着物を着た格好だから少女だろうか。
「子どもじゃないよ、残念だけどね」
俺は一言も喋れていない。
なのに、目の前の子どもは俺の考えが分かるらしい。
「ふふ、君は面白いね」
何が面白いんだ、コイツ。
こんな男だか女だか分からん格好しやがって。
「まあ、生まれた時は女だったから少女で構わないよ」
そう目の前の女は笑いながら告げる。
なんとも不気味な笑い方だ。
まるで、生気の篭ってない目をしている。
「おいおい、ケンカ腰だなあ」
当たり前だろ、お前みたいな得体の知れない奴に誰がフランクに話しかけるんだよ。
誰なんだよ、お前は。
「一応、天城の守り神なんだぜ、僕は」
天城の守り神、そんなのは父さんから聞いた事ないぞ。
お前、俺がガキだから俺を馬鹿にしてるのか?
「ふふふ、君は見た目より大人なのかな?
魂が普通の子どもより成熟しているみたいだけど」
コイツ、何か知ってるのか?
もしかしたら、俺が別の世界から来たこともわかるのかも知れない。
「あー君、別の世界から来たのか。
僕、そういうのあんまり分からないんだよね、ゴメンね」
そう言ってばつが悪そうに、シュンとした顔をしている。
そんな格好をしていると、悪い奴じゃないのかという感じがしてくる。
「だから言ったろ?
僕は天城の守り神なんだって」
天城の守り神?
剣とかに宿る神様とかか?
「いや、そう言うのじゃないよ」
少女はそう言っておどけるように笑っている。
じゃあ何の守り神だよ、お前。
「僕はね、天城の一族にたびたび助言を送ってきたんだよね、一族に危機が訪れる度にね」
一族に危機が訪れる度か、ふむそう言う感じか。
「まあ、嘘だけどね」
嘘なのかよ!
コイツ、胡散臭い奴だな…。
俺はそう思い始めていた。
「ちょっとしたジョークじゃないか、そんなに不機嫌になるなよ」
面白がっているのか、少女は笑っている。
最初の笑顔にくらべて、少しは見た目相応の笑い方だ。
「僕は天城家に昔からいるんだ、今はそれくらいしか君には言えないんだよね」
ふむ、昔からいる守り神。
まあ、信じる信じないは俺次第だ。
話半分で聞いておくとしよう。
「君ひっどいなあ、考え筒抜けなのにそんな事言う?」
ああ、そういえば考え筒抜けなのか。
ならいいや、何しにきたんだよそれで。
早く話してくれよ。
「くく、その態度、僕はきらいじゃないなあ」
そう言って少女は笑いながらも、少し真面目に見える顔をしている。
「さて…天城 嵐よ、よく聞きなさい」
その少女は、俺が驚いた表情をしているのに気づいているが気にもせずに話を続ける。
「近いうちに、君は何かを失うかも知れない。
だが、それは君次第でどうにかなるかもしれない」
何かを失う?
もしや、父さん達に何か起こるのか。
いや、俺次第だと目の前の少女は言っている。
と言うことは、俺の近くで起こるんだ。
どう言うことだ、教えてくれ。
「悪いけど、詳しいことは言えないんだ…でも君なら何とかなるかも知れない」
「君には…君の体にはそれだけの器が眠っている」
何を言ってるんだよ、お前は。
俺は全然強くもないだろう、父さんはおろか、ヒバリの足下にも及ばないんだぞ。
「では最後に、天城 嵐よ…そなたに風神の加護があらんことを」
少女がそう言った後、俺の意識は途絶えていった。
---
声が聞こえる。
女の子の声だ。
「…………様」
何だろう、心配そうな声だ。
「………シ様!」
うん、悲痛そうな声だな。
だけど聞いたことのある声で、聞いたことのある言葉だ。
「………アラシ様!!」
俺の名前だ…そう思った瞬間、俺の目が覚めた。
瞳が開く。
目の前には、鳰の顔があった。
あ、目があった。 その瞬間彼女は泣き出した。
「うわああ、アラシ様ー!」
ギョッとする。
なぜ彼女は泣いているのだ。
そう思い、周りを見渡す。
俺の部屋だ、そして俺の布団で俺が寝ている。
あっ、直人もいる。
彼は俺を見て…鳰と同じように涙ぐんでいる。
とりあえず、泣いてる鳰は話が通じなさそうなので直人に尋ねる。
「直人、どういう状況ですかこれは?」
「えっと、天城様が、蔵で倒れて、それで、えっと…」
泣きそうな顔をしている直人が話を続けてくれる。
なるほど、蔵で倒れた俺を心配して2人は布団に連れてきてくれたようだ。
そんな2人に、俺はもう心配はいらないと声をかける。
「2人とも、もう心配いりませんよ、僕は全然ピンピンしていますよ」
「だって、アラシ様、気を失って、死んだみたいに…」
「鳰、心配ありがとうごさいます、でも泣いてる鳰より笑っている鳰の方が僕は好きですよ?」
俺がそう言うと、鳰は少し固まったが、すぐに泣き止んで笑顔を作った。
そうそう、そっちの方が子どもはいい。
「はい、アラシ様!」
2人ともに気を使わせないように、俺は話をしながら考えていた。
あの白い着物の少女は一体何なのか。
天城の守り神と、少女自身はそう言っていた。
だが、そんな風には見えなかった。
それに、話をあまり思い出せない。
気になったので、もう一度蔵に後で行ってみたがあの鞘は消えていた。
聞いてみると、直人と鳰の2人も知らないようだった。
だけど、少女が言った一言だけは覚えている。
俺が…何かを失うかもしれない。
それは何なのか、考えても思いつかなかった。
なので、次の日から素振りの数を増やすことにした。
少女のことはまた、父さんが帰ってきたら聞いてみることにしよう。
俺はそう思いながら、その日は眠りについた。