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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第4章「少年期 ウールヴヘジン編」
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幕間「炎の道は」

今回は幕間です。

 

 ああ、寒いなあ。

 何故だろう、こんなに熱いのに、心は冷え切ったままだ。

 私は知っている、心がなぜこんなにも冷たいのか。

 ああ、今日も()が笑っている。

 私に全て燃やせと、笑っている。



 ---



「ハア、こんな田舎になんで支部があるんだ……」


 私は小林(コバヤシ)

 しがない社会の歯車の一人だ。

 私は皇家の命によって、神奈川の辺境にある一つの支部をこうして視察することになったのである。


「くそっ、馬車も通れないような森でどうやって鬼を抑えることができるんだ!!」


 ぶつぶつと愚痴をつぶやきながら、私は森を進む。

 すると、一軒の家が見えてきた。


「コレが、件の支部か……?」


 それらしい建物には、ハッキリ言って見えない。

 が、この建物以外には、存在しないのは分かっていることだ。


「鬼とか、出てこないよな?」


 支部のメンバーが全員鬼に殺されているなんて事は、ありえない事では無い。

 現に最近、ある一つの支部が壊滅寸前にまで、追い込まれた話を聞く。

 うう、お腹が痛くなってきた。


「ええい、悩んでいても仕方がない! ごめん下さい、誰かいらっしゃいますかー!?」


 私は玄関のドア越しに、声を掛ける。

 ヨシ、返事がない。

 私は回れ右をして、来た道を戻ろうと振り返った。


「あれ、アンタ誰?」

「うおあっ!!?」


 不意に声をかけられ、心臓がなる。

 とっさに、その場で飛び上がってしまった。


「うわあっ、私は美味しくないですよ!?」

「何言ってンだ、アンタ」

「………えっ?」


 おかしい、鬼のような殺意の篭った声ではない。

 それどころか、まるで私と離れて内地で暮らす、娘が大きくなったような声がする。


「変なヤツだな、アンタ?」

「た、助かった……!」


 そこには赤い髪を後ろに縛った、キツイ目をした少女がホウキとチリトリを持って立っていた。


 ---


「あはっ、それは災難だったね〜コバヤシ君」

「災難なんてもんじゃないですよ、円さん!!」


 あれから、少女に家に入れてもらった私は、かつての同僚である、円と呼ばれる女性と再会を果たしていた。


「それにしても、アナタこんな所にいたんですね?」

「まあねー、今の私は烈火ちゃんのお目付け役だから」

「烈火……彼女は、帯刀の?」

「うん、その話はあの子の前では言わないでね」


 そう、彼女に言われたので、私は軽くうなずく。

 釘を刺さなければならないほど、少女にとっては禁句らしい。

 そういえば、数年前に訃報が各地に届いたことがある。

 内容は確か、帯刀家当主の死亡だった。

 そうか、彼女は……。


「私が何かしたかよ?」

「あっ、烈火ちゃん……!」


 マズイな、彼女には聞こえないように小さな声で喋っていたのだが、聞こえていたらしい。

 舌打ち混じりに、顔を歪めている。


「悪気は無かったのよ、コバヤシ君も」

「円さん、安心してよ。 人には手ェ出さないから」


 駄目だ、今謝っておかないと。

 こんな小さな子供が、こんな暗い顔をする事はおかしいのだ。

 だから、私は彼女に謝罪をする。


「すまない、気分を悪くしたなら謝ろう」

「クク、アンタ……やっぱ変わってんな」


 素直に謝罪をしたのに、彼女は私を変わり者呼ばわりした挙句、笑い出してしまった。

 むう、よく見ると円まで笑っている。


「あはは、昔のまんまだね、コバヤシ君は?」

「どういう事ですか、それは……?」


 私は昔から、変わっているなんて思った事はない。

 私は至極マジメに生きてきただけなのだ。

 むしろ、円の方こそ変わっている。

 今も、こうして関わりもなかったであろう烈火の面倒を見ているのだから。


「それより、コバヤシ君は何をしにきたのかな?」

「あ、ああ、そうですね」


 おっといかん、任務を忘れてしまっていた。

 私は、考えていた文章を頭の引き出しから出して、話し始める。


「私は本家から、視察という名目でこの支部に参りました」

「それって、つまり?」

「まあ要は、応援要員ですよ」

「へえ、珍しいこともあるんだね……」


 二人と話をしていると、ふと後ろから声がした。

 振り返ると、そこには二人組みの女が立っていた。

 体と変わらないサイズの大刀を担いだ女。

 もう一人は、煙草を咥えている短髪の女がいた。

 その二人に、私は頭を下げて挨拶を交わす。


「どうも、コバヤシと申します。 本日より、お世話になりますのでよろしくお願いします」

「へえ、礼儀正しいじゃないか。 本家お抱えにもアンタみたいなのがいるんだな」

「まあ、本家も一枚岩では無いですがね」


 あっ、つい本音が出てしまった。


「ハハッ、面白いなアンタ。 私はカリン、この支部のリーダーを任されている、今日からは本部筋のアンタに従った方がいいのか?」

「いえいえ、私はカリンさんに従います。 私は命令するよりも、される方が向いているようなのでね」

「ハッ、ますます気に入ったよ。 今日からよろしくな、コバヤシ」

「何か分からんが、オレも別に気にせんぞ! よろしくな、コバヤシ!!」


 おお、結果として上手くいったようだ。

 やっぱり、第一印象は大事だな。

 これで、誰にも警戒されることなく任務を遂行する事ができる。


「ちょっと、カリン!?」

「あ? あんだよ、烈火」

「床に煙草の灰を捨てるの、やめてって言ったじゃない!!」

「こまけー事気にするなよ、烈火。 アンタも吸うか?」

「吸わないよ! せっかく掃除したのに、もう……」


 プンプンと、烈火はカリンに対して怒っている。

 こうして見ると、やはり幼い少女なのだと安心する。


「むっ……!」


 そんなことを考えていると、ふと気配がした。

 とても小さな、呪力の気配。

 この気配は、この支部の向こうにある無人の砦の先から漂ってくる。


「流石に本家筋だね、分かるかい?」

「カリンさんも、気づきましたか?」

「まあね、と言っても一番最初に気づいたのは私じゃないけどね」


 どういう事だ?

 ちらりとカヤを見ると、何の話だと言わんばかりに聞き耳を立てていた。

 じゃあ、円か?

 いや、彼女は鈍感だ。

 小さな呪力は昔から感じ取りにくいと話していたのを覚えている。


「砦の向こうよ。 数は全部で、六体かしら?」

「……!?」


 彼女、か。

 帯刀 烈火、やはり彼女は帯刀の血筋。

 それも、鬼の数まで把握するとは。

 末恐ろしい存在である。


「私も行くよ、カリン」

「準備しな、烈火」

「……ん」


 そう言われると、烈火は立ち上がって小走りでこの場を去って行く。

 おいおい、彼女はまだ子どもだぞ。


「カリンさん、これは意見ではなく、質問です。 彼女は、まだ子どもでは?」


 私の発言に対し、彼女は頷きながら答えた。


「確かにね、あの子はこの中で一番年下だよ。 でもね、今戦える中で烈火が一番強い」


 ………!!?

 あろうにもリーダーのカリンが、烈火が一番強いと言い切ったのだ。

 驚くと同時に、戦慄する。

 そして、気づいてしまった。


「準備できたわ、カリン」

「ちょうどいいね、コバヤシ。 今からアンタもついてきな」


 扉越しに声をかける烈火の身から、とてつもない呪力が滲み出ていることに。

 ソレは、人の身からは感じたことがない異様な呪力。

 だが、ソレは指摘してはならないような気がした。


「はい、分かりました」


 だから本能のままに、私はその事実を受け流す。

 ああ、コレが()()か。

おそらくは、次の章から彼女達も登場する予定です。

次からも見てくれたら、とても嬉しいです。

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