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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第1章 「幼年期」
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第5話 「蔵の中」

 

 直人なおとにおと暮らしてから、2週間が経とうとしていた。

 父さん達はまだ帰ってくる気配はない。

 なので、今日も2人と訓練を行っている。

 そんなある日、鳰が突然こう言い放った。


「ねえアラシ様、天城家には業物の刀があるって本当ですか?」


 業物の刀…ああ、天城七本剣のことだろうか。


「天城七本剣のことですかね?」

「そう、それです!」


 鳰と直人が目をキラキラさせながら興奮している。

 天城七本剣とは、ウチの家系に伝わる由緒正しき七本の名刀のことである。

 それぞれが初代当主から、父さんの代の9代目までの時間を掛けてコレクションされた天城家の家宝。


 と言っても、戦場で失われたり増えたりしているので、現在の父さんの代では五本しか天城七本剣は存在しない。

 五本しかないのに七本剣って名乗ってもいいんだろうか?

 いやまあ、そんなのは関係ないだろう。

 七本剣って言い方、カッコイイしな。


「七本剣ってどんなのがあるのか教えて下さい!」


 直人はキラキラした目で俺に詰め寄ってくる。

 うむ、そんなに嬉しそうなら語ってやるか。

 全て、父さんから聞いた受け売りだが。


「分かりました、現在残っている五本の刀のことなら僕でもお話できるので話しましょう」

「わーい!」


 2人ともすごく嬉しそうだ。

 うむうむ、では話を始めよう。


「まず1本目、七本剣の中でもっとも美しい刀とされる名刀『金糸雀』」

「ヒバリお姉ちゃんが持ってる奴ね!」

「ええ、その通りです」

「ええっ、鳰さんのお姉さんはそんなにすごい人なんですか!?」


 そう、ヒバリはすごいのだ。

 父さんの右腕で、実力もあるし、頭もキレる。

 金糸雀を持つに実にふさわしい人物だ。

 おっといかん、話が逸れてしまう。


「金糸雀は、初代当主様の頃から存在していたとされる名刀ですね」

「そんな名刀を使えるなんて、やっぱりお姉ちゃんはすごいなあ…」


 鳰が何やらうっとりとした顔をしているが、次の話に俺は移る。

 迂闊に口を開くと、逆鱗に触れて日没になってしまうかもしれない。


「2本目が大刀『太刀風』、これを用いて二代目は竜巻を斬ったと言われているそうです」

「竜巻を!すごいですね!」


 まあ、本当なのかまでは分からないが。

 だけどバスタードソードみたいな見た目をしているからな、あながち間違いじゃないのかも知れない。

 2人に俺は説明を続けていく。


 3本目は銘刀『疾風』。

 この刀は七本剣で最も軽く、四代目当主が好んで使っていたらしい。

 4本目は静刀『静嵐刀』、その名の由来は鬼が斬られた事に気付かなかったとされる事かららしい。


 2人はもはや興奮しすぎて、口から声が出ていない。

 しょうがない、最後の刀の話はまた今度にしよう。


「まあ、今日はこれくらいにしましょうか」

「えー、まだ聞きたいです!」

「ええ、僕も聞きたいですね」


 そんな事を言ってもまだ今日の訓練は終わっていない。

 1日くらいなら息抜きもいいかなと考えていると、鳰がこう言った。


「アラシ様、蔵の中見せてもらってもいいですか!」


 鳰の希望で、今日は訓練を中止して宝探しをする事になった。



 ---



 俺達は昼ご飯を食べた後、離れた所にある建物の前に集まっていた。

 その建物とは、ウチの離れにある蔵だ。

 宝と言えば蔵だろう、ここなら珍しい物が眠っているはずだ。

 だが万が一、例えば血のついた碁盤とか…槍に刺さった妖怪とかいたらどうしようか。


「まあ、入ってみる事にしますか」

「あ、でも天城様」


 ふと、直人が不思議そうに口を開いた。


「蔵って、普通鍵掛かってるんじゃないですか?」

「あっ」


 そうだ、普通は扉には鍵が掛かっている。

 それも、普段使わない所なんかには、特に。

 しまったな、そんな事にも気付かなかったぞ。

 どうしようか、今から父さんの部屋でも漁りにいくか…。


 そんな事を考えていると、音がした。

 何やら、ガコッとした音が。

 その音の方を見てみると、扉が開いていた。

 そして、鳰が笑っている。


「開いてますよ!」

「ええ…」


 誰だ、大切な蔵を開けてる奴は。

 ヒバリでは無いだろう、彼女は大事な事を忘れる人ではない。

 案外、父さんかも知れない。

 あの人、けっこう脳筋な所が強いからな。

 後で簡単に鍵でも掛けておこう。


「中に入っていいですか!?」


 鳰が俺に、興奮しながら聞いてくる。

 勝手に中に入るのは、どうだろう。

 でも、鍵掛かってないしな……。

 ちょっとくらいならいいんじゃないかな?

 見るだけだし、父さんも許してくれるだろう。

 最悪、黙ってればいいのだ。

 例えば、父さんのエロ本が隠されてたりしてた時とかな。


「ええ、入ってみましょう」


 そう言って俺達は蔵の中に入る。

 前に鳰、真ん中に俺で後ろが直人だ。


「けほけほっ! なあにこれー!?」

「中はやはり、少し埃っぽいですね」


 蔵の中は少し埃っぽかった。

 まあ、あまり使ってないのだろう。

 あまり、大事そうには見えないな……これでは、掘り出し物とかは無いかもしれないな。

 まあ、2人が楽しそうにしているのだからいいか。


「これはなんだろ?」

「古い本とかありますね」


 そんな事を考えながらいると、鳰がハッとした顔でこっちを向いた。


「アラシ様、あの奥に何かありますよ?」

「えっ、なんですかね?」


 鳰が指を指したそこには、()が置いてあった。

 ぽつん、と鞘だけが置いてある。


 まるでそこだけが、別世界のように。

 俺は、その鞘に興味を持った。

 なんの変哲のない、鞘だろう。

 だけど、そこには不思議な魅力があった。

 その鞘に、俺は吸い込まれるように手を伸ばした。




 次の瞬間、俺の世界の、景色が飛んだ。

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