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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第4章「少年期 ウールヴヘジン編」
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第51話「後始末」

 

 先日の戦闘から、一週間が経とうとしていた。

 俺たちは未だに砦を拠点として、活動を続けていた。

 なんでも、ここでは砦が結界の役割を果たしているらしい。

 つまりはまだ様子を見てから、この砦を補強した後に天城家の任務は終わりらしい。


「アラシ様、お茶が入りましたよー」

「ありがとうございます、ヒバリ」


 まあ、俺は数日間寝込んでいたから、つい先程知ったんだけどな。

 そして、父さんからは休養を取れと、命令を受けている。

 なのでこうして、茶をすすっているわけだ。


「ところで、ヒバリは任務ではないのですか?」

「何をおっしゃいますか!? アラシ様が、お疲れになっているのに、この側近のヒバリが側を離れるなど、言語道断!!」


 つまり、ヒバリさんはサボりだと。

 はあ、父さんに怒られたら可哀想だし、一言言っておくか。


「あの、サボりは良くないですよ……()()さん」

「あ、アラシ様が……うわーん!!」


 よし、これでヒバリは24時間ほど帰ってこないだろう。

 俺は、病み上がりの身体を動かし、外に出かける事にした。



 ---



「うーん……」


 外の風を浴びながら、一伸びする。

 まだ体の節々は痛み、筋肉痛のような感覚がたびたび襲ってくる。

 なんでも父さんが言うには、この症状は呪力が枯渇したことによる現象らしい。


「でも、これはツライなあ」


 何をしてても痛いのだ。

 訓練はもちろん、着替えをする、風呂に入る、はてには食事をするだけでも全身が痛む。


「……ふう、ちょっと休憩」


 なので俺は、広場で休憩を行うことにした。

 何かは分からないが、何者かの銅像が立っている。

 もしかしたら、前の世界にもこんな銅像があったのかもしれない。

 それは、もはや確かめることは出来ないが。

 そんな事を考えていると、腹の虫がぐうと鳴く。


「むう、そういえば朝起きてから何も食ってないな……」


 くそ、こんななら何か食べてから出てくるべきだった。

 自慢じゃあないが、俺はこの世界のことを何も知らない。

 あの天城の屋敷で、鬼と戦う術しか、俺は教わっていないのだ。

 なので、俺はこの世界での通貨も知らないし、なんなら金さえ見たことがないのだ。


「いや、一度だけ見たことがあるな」


 そうだ、あれは。

 トドロキさんが宿に泊まる時に出していたっけな。

 あれはおそらく、この世界の通貨なのだろう。

 だけどそれも、今の俺は持っていない。


「さあ、一回戻るかな……」


 俺は立ち上がって、もと来た道を戻ろうと試みる。


「なあ、お前」

「……ん、何ですか?」


 ふと、後ろから声が聞こえる。

 おや?と、思い背後を振り返ってみると、そこには俺よりやや低い背丈の少年が立っていた。


「少年さん、何か用ですかね?」

「少年さんって、お前も少年だろうが!」


 そう言われると、そうだな。

 心はもう三十路なんだが、俺の体は13歳のそれだ。

 なので、その言葉に従っておく。


「まあそうですが……所で、何の用ですか?」

「ああ、そうだった」


 少年は、ふんと鼻を鳴らしてこう言った。


「腹へってんのか、お前」

「まあ、減ってないかと言われると、減っていますが」

「そ、そうか!」


 何だこいつ。

 そう疑問に思ったが、最後まで話を聞いてみることにした。


「じゃあさ、俺ん家にこいよ!」

「……嫌です」

「ハア? 何でだよ、腹へってんじゃねえのか!?」


 逆にコイツ、何故行くと思ったのか。

 怪しすぎるだろ、こんなヤツには着いていかない方が絶対にいい。

 そう思って、俺は言い訳を探す。


「いや、だって……迷惑でしょう?」

「大丈夫だって、母ちゃんと俺の二人だけなんだ」

「逆に気ィ使うヤツだよそれ!」


 二人暮らしって、その話聞いた方が断る率高くなると思うぞ、それ。

 本当に、何故その言葉を聞いて家に行くと思ったのか。


「一回でいいからさ、来てくれよ……!!」


 そう断り続けていると、泣きそうな顔を少年が見せていた。

 くそう、その顔は反則だぞ。

 しょうがない、俺が折れてやるとするか。


「分かりましたよ、行きますよ」

「本当か、本当に来るんだな!?」

「え、ええ……」


 何だコイツ、情緒不安定なのか?

 かくして俺は、得体の知れない少年に着いて行くことにした。


 ---


「もうすぐ着くから、もうちょい!」

「へえ、結構いいところに住んでるんですね」


 少年が案内してくれる方向には、造りがしっかりしてそうな感じの城下町だった。

 なんて言うか、得体の知れないヤツだから、てっきりスラム街にでも連れてかれるのかと思っていたが。


「父ちゃんは、国に仕えてるらしいからな!」

「へえ、そうなんですか」


 なるほど、国の兵士って事か。

 だから、こうやってなかなかいい場所に住んでいると言うことか。


「ココだよ俺の家、かあちゃーん!!」


 ある一軒家に着き、少年は勢いよく扉を開ける。

 その姿は、年相応の少年の姿だった。


「あら、今日は早かったのね」


 扉の先には、一人の女性がいた。

 おそらくは、少年の母親だろう。


「あらあら、その子は?」


 少年の隣にいる俺に気づいたのか、疑問を少年に投げかける。

 すると、少年はこう答えた。


「コイツはな、えっと……お前さ、名前聞いてないよな?」

「ええ、聞かれてないですからね……」

「ははっ、悪い悪い!」


 本当に、この少年は……。

 もしかして、アホなのだろうか。


「悪いって、俺は鉄国(テツクニ)。 お前の名前は?」


 満面の笑みを作って少年、いや鉄国は名前を言った。

 それに、俺はこう答えた。


「僕の名前は、アラシです、よろしく」



 まだ体の節々が、痛かった。

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