第51話「後始末」
先日の戦闘から、一週間が経とうとしていた。
俺たちは未だに砦を拠点として、活動を続けていた。
なんでも、ここでは砦が結界の役割を果たしているらしい。
つまりはまだ様子を見てから、この砦を補強した後に天城家の任務は終わりらしい。
「アラシ様、お茶が入りましたよー」
「ありがとうございます、ヒバリ」
まあ、俺は数日間寝込んでいたから、つい先程知ったんだけどな。
そして、父さんからは休養を取れと、命令を受けている。
なのでこうして、茶をすすっているわけだ。
「ところで、ヒバリは任務ではないのですか?」
「何をおっしゃいますか!? アラシ様が、お疲れになっているのに、この側近のヒバリが側を離れるなど、言語道断!!」
つまり、ヒバリさんはサボりだと。
はあ、父さんに怒られたら可哀想だし、一言言っておくか。
「あの、サボりは良くないですよ……鷲宮さん」
「あ、アラシ様が……うわーん!!」
よし、これでヒバリは24時間ほど帰ってこないだろう。
俺は、病み上がりの身体を動かし、外に出かける事にした。
---
「うーん……」
外の風を浴びながら、一伸びする。
まだ体の節々は痛み、筋肉痛のような感覚がたびたび襲ってくる。
なんでも父さんが言うには、この症状は呪力が枯渇したことによる現象らしい。
「でも、これはツライなあ」
何をしてても痛いのだ。
訓練はもちろん、着替えをする、風呂に入る、はてには食事をするだけでも全身が痛む。
「……ふう、ちょっと休憩」
なので俺は、広場で休憩を行うことにした。
何かは分からないが、何者かの銅像が立っている。
もしかしたら、前の世界にもこんな銅像があったのかもしれない。
それは、もはや確かめることは出来ないが。
そんな事を考えていると、腹の虫がぐうと鳴く。
「むう、そういえば朝起きてから何も食ってないな……」
くそ、こんななら何か食べてから出てくるべきだった。
自慢じゃあないが、俺はこの世界のことを何も知らない。
あの天城の屋敷で、鬼と戦う術しか、俺は教わっていないのだ。
なので、俺はこの世界での通貨も知らないし、なんなら金さえ見たことがないのだ。
「いや、一度だけ見たことがあるな」
そうだ、あれは。
トドロキさんが宿に泊まる時に出していたっけな。
あれはおそらく、この世界の通貨なのだろう。
だけどそれも、今の俺は持っていない。
「さあ、一回戻るかな……」
俺は立ち上がって、もと来た道を戻ろうと試みる。
「なあ、お前」
「……ん、何ですか?」
ふと、後ろから声が聞こえる。
おや?と、思い背後を振り返ってみると、そこには俺よりやや低い背丈の少年が立っていた。
「少年さん、何か用ですかね?」
「少年さんって、お前も少年だろうが!」
そう言われると、そうだな。
心はもう三十路なんだが、俺の体は13歳のそれだ。
なので、その言葉に従っておく。
「まあそうですが……所で、何の用ですか?」
「ああ、そうだった」
少年は、ふんと鼻を鳴らしてこう言った。
「腹へってんのか、お前」
「まあ、減ってないかと言われると、減っていますが」
「そ、そうか!」
何だこいつ。
そう疑問に思ったが、最後まで話を聞いてみることにした。
「じゃあさ、俺ん家にこいよ!」
「……嫌です」
「ハア? 何でだよ、腹へってんじゃねえのか!?」
逆にコイツ、何故行くと思ったのか。
怪しすぎるだろ、こんなヤツには着いていかない方が絶対にいい。
そう思って、俺は言い訳を探す。
「いや、だって……迷惑でしょう?」
「大丈夫だって、母ちゃんと俺の二人だけなんだ」
「逆に気ィ使うヤツだよそれ!」
二人暮らしって、その話聞いた方が断る率高くなると思うぞ、それ。
本当に、何故その言葉を聞いて家に行くと思ったのか。
「一回でいいからさ、来てくれよ……!!」
そう断り続けていると、泣きそうな顔を少年が見せていた。
くそう、その顔は反則だぞ。
しょうがない、俺が折れてやるとするか。
「分かりましたよ、行きますよ」
「本当か、本当に来るんだな!?」
「え、ええ……」
何だコイツ、情緒不安定なのか?
かくして俺は、得体の知れない少年に着いて行くことにした。
---
「もうすぐ着くから、もうちょい!」
「へえ、結構いいところに住んでるんですね」
少年が案内してくれる方向には、造りがしっかりしてそうな感じの城下町だった。
なんて言うか、得体の知れないヤツだから、てっきりスラム街にでも連れてかれるのかと思っていたが。
「父ちゃんは、国に仕えてるらしいからな!」
「へえ、そうなんですか」
なるほど、国の兵士って事か。
だから、こうやってなかなかいい場所に住んでいると言うことか。
「ココだよ俺の家、かあちゃーん!!」
ある一軒家に着き、少年は勢いよく扉を開ける。
その姿は、年相応の少年の姿だった。
「あら、今日は早かったのね」
扉の先には、一人の女性がいた。
おそらくは、少年の母親だろう。
「あらあら、その子は?」
少年の隣にいる俺に気づいたのか、疑問を少年に投げかける。
すると、少年はこう答えた。
「コイツはな、えっと……お前さ、名前聞いてないよな?」
「ええ、聞かれてないですからね……」
「ははっ、悪い悪い!」
本当に、この少年は……。
もしかして、アホなのだろうか。
「悪いって、俺は鉄国。 お前の名前は?」
満面の笑みを作って少年、いや鉄国は名前を言った。
それに、俺はこう答えた。
「僕の名前は、アラシです、よろしく」
まだ体の節々が、痛かった。