第46話「好機」
ガルとの戦闘を終えた俺は、その場で息を吐く。
あの少女から借りた力を、使い過ぎた。
マズいな、少し頭がフラフラしている。
だが、ここで俺が戦場から離れるわけにはいかない。
「ヒバリ、いるんだろう?」
俺はヒバリがいると何故か確信していた。
彼女なら、そこにいると。
「はっ、私ならここに!」
「やっぱりいたか」
「申し訳ございません、アラシ様を疑ったわけではでは無いのですが……」
「いや、構わない」
途中、完全に諦めかけたしな。
今までの経験がなければ、俺は死んでいただろう。
それにしても、やはり名前持ちは強力だな……。
「ヒバリ、戦況は?」
「ハッ、防衛班はアテラが率いて、三班と合同になっています。 シコロ殿達のおかけで、こちらがやや優勢かと」
「そうか、それなら……どうした?」
ヒバリが、何やら変な表情をしている。
まるで、初めて見る生物を見るような……。
「何か、俺がおかしいか?」
「いや、その、アラシ様の話し方が随分変わったような……」
「えっ!?」
そうだ、アドレナリンが出すぎたのか、つい口調が荒くなっている。
まずいな、素が出てしまっていたか。
「いやいや、つい声を荒げてしまいましたね、僕としたことが」
「私はそのままでも、よろしかったのですが……」
勘弁してくれ、お前らにあんな偉そうに喋れないよ。
それに、そんなキャラじゃない。
「それにしても、あの鬼は強敵でしたな」
「ああ、ガル、いやルー=ガルーだったな。 奴は、強者でしたよ」
「あれほどの鬼、そうそうおりませぬ」
おっと、そんな話をペラペラ喋っている場合じゃない。
俺は、消え入りそうな意識を集中させる。
「見つけたか?」
「え、どういう事でしょうか……?」
フラフラの頭に、声が鳴り響く。
(大将が居なくなった今なら、行けるよアラシ)
「そうか、見つかったか」
「あの〜、アラシ様?」
よし、この場はヒバリに任せよう。
そう思い、俺は彼女に向かって指示を出す。
彼女なら、この一言で理解できるはずだ。
「ヒバリ、この場は任せました」
「……! 承知、このヒバリが全身全霊をかけて、承りました!!」
その言葉を受け、俺は足に風を起こす。
このまま、突っ切る。
「はあっ!」
「お気をつけて、アラシ様!!」
目指すは、奴らの総大将。
ここで、叩かなくては、終わりはない。
「さて、どうすっかな……」
ただ真っ直ぐに、走って考える。
おそらくこのまま行けば、この場にいる最強の鬼にぶつかるだろう。
「おそらく、ガル以上……」
最低でも、ガルクラスの鬼人。
一騎討ちなら、勝ち目はあるだろうか。
だがそれにプラス、名前持ちがいる場合は、かなり厳しいだろう。
「だけど、やるしか……!!」
そんな事を考えていると。
やはり、来た。
「名前持ちを一体、まあ合格点だな」
彼なら、このタイミングを逃すわけがないと、思っていた。
俺の父さん、天城 総一郎なら。
「アラシ、お前も風を読んだか」
「ええ、教えてくれました」
「そうか、よく理解した……流石は俺の息子だ」
彼に言われ、俺は顔のニヤけが収まりそうにない。
それを見抜かれ、父さんは俺をこづく。
「いってぇ!」
「油断するな、アラシ」
「殴ることないじゃないですかあ!」
「任務が無事終わったら、いくらでも褒めてやる。
それまで、気は抜くな」
「……分かりましたよ」
そう答える俺に、彼は満足そうに頷く。
そして、俺に尋ねる。
「アラシ、この先にいるのはなんだ?」
「おそらく、今回の鬼で一番強いかと」
「ああ、おそらくこの先にいるのがウールヴヘジンだろうな」
やはり、父さんもこの先にいる鬼が、ウールヴヘジンだと判断している。
なら、やはりガルよりも強敵だろう。
「だがアラシ、その場にいる鬼は分かるか?」
「いえ、一人しか……」
「もう一体いる、それも最低でも能力持ちクラスだ」
「やはり……!?」
やっぱり、もう一人いる。
それも、能力持ちクラスか。
「お前は、そっちを相手しろ。 ……時間稼ぎで構わん」
「はい、なら父さんは……」
「俺は、ウールヴヘジンをやる」
そう話していると、ついに辿り着く。
砦からは遠く、先の戦場からも離れた場所に、ヤツらはいた。
「……!? ウル様、ニンゲンが!?」
「大丈夫よ、ライカ」
そこには、二人の鬼。
一人は、人間に近い見た目をした、女。
鋭い爪と、牙以外には、特に狼のような要素は見当たらない。
「アラシ、ヤツだ」
「ええ、分かりますよ……」
だが、その体からは力を抑えられていない。
見ただけで分かる、他の強者と同じ物を持っていた。
「ライカ、大きい人間は私がやるわ。 あなたは、小さい方をお願い」
「はい、分かりました」
ライカ、と呼ばれる鬼がおそらくもう一体の鬼だろう。
ウルと呼ばれる鬼の力に隠れて、気づかなかった。
それに、名前持ちのような力は見た目からは感じられない。
見た目は人に近く、彼女のように爪などが生えているだけだ。
「アラシ、手はず通りにやる」
「ええ、任せて下さい」
俺は父さんに言われ、ライカと呼ばれる鬼を相手する。
「カァッ!」
「ふっ!」
鬼の攻撃をかわし、その場から離れる。
なんだかコイツ、変だな。
そう思いながら、俺は父さん達から距離を取る。
「逃げるな、卑怯者!!」
「何言ってんだ、お前は!?」
ライカと呼ばれる鬼は、どこか今までの鬼とは別の印象を受けた。