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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第4章「少年期 ウールヴヘジン編」
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第45話「人狼の力・嵐の力」

 

 戦場の真ん中で、人と鬼が向き合っている。

 鬼の一歩、あるいは人の一太刀で届きそうな距離に、俺たちは立っていた。


「おいおい、そいつはオレの聞き間違いかァ?」


 その片側、狼男のガルが首をかしげる。


「オレの聞き間違いじゃなければ、オレを殺すって言ったか?」

「そう言ったんだよ、このケモノ野郎」


 それに対し、俺は嘲笑するように答える。

 少し時間を稼ぐために、イラつきを隠しながら。


「ケモノ……その言葉はこの、ガル様に対してか?」

「そう聞こえなかったら、かなり都合のいい耳をしてるな」

「このガキ……!!」


 さてと、もうそろそろいいだろう。

 俺は、イラつきを隠さずに、言葉を吐く。


「俺の仲間を、よくも傷つけたな……」

「なんだァ、あんな弱ェ仲間がそんなに大事か?」

「当たり前だ、このクソ野郎が」


 そう言って、俺は腰の刀に手を伸ばす。

 それを見てから、ガルはケタケタと笑う。


「何がおかしい?」

「いやァ、それなら言葉を選べよ、ギャハハ!!」


 手を広げ、奴は周りを見回す。

 そして声を荒げて叫んだ。


「動いたら、周りの雑魚どもの命がねェぜ!!」

「はあ……」


 奴の言葉に、俺はため息をつく。

 馬鹿か、こいつは?


「ナニがおかしい、テメェ!?」

「いや、なんだ……その」


 何も分かっていないだろうガルに対し、俺は横をちらりと見た後、答える。


「俺が、何も考えずに飛び出したと思ったのか?」

「ああ? ……なァ!?」


 周りの鬼は、ケガ人の側からは引き剥がされていた。

 そして、その近くには彼らが立っていた。


「アラシ様、ご命令通りに」

「ご苦労、ヒバリ」

「アラシ、貸し一つな!」

「はあ、こんなのと同期って……」


 ヒバリに続き、長谷と椋鳥が報告をする。

 彼らは、俺が飛び出した時に出した指示を、忠実に遂行してくれた。


「ありがとうございます、二人とも」

「あ、天城さ、ま……!」


 後ろから呼ばれた俺は、鬼から目を切らさずに、そちらを見やる。

 その声の主は、金森さんだった。


「金森さん、その怪我は……」

「わ、私達を庇って……鳩山殿が……!」

「鳩山さんが?」


 俺は、金森が指を向けた方向を見る。

 そこには、気を失っているのだろうか、倒れ込んでいる鳩山の姿があった。


「鳩山さん……!」

「私に、もっと力があれば……」


 そう言った彼女は、涙を流していた。

 傷ついた仲間を思って、己の力不足を嘆いていた。


「ヒバリ……」

「はい、アラシ様」

「金森さんと、鳩山さん達を連れて、ココを離れろ」

「承知致しました」


 そう言った俺に、金森さんは声を荒げて反論する。


「無茶です、天城様!!」

「連れて行け、ヒバリ」


 ヒバリに連れて行かれる金森に頭を下げ、俺は周りを見回す。


「天城様、周りを片付けたら、加勢に向かいます」

「アラシ、無理はすんな」


 長谷と椋鳥、二人にもここまで道を開いてくれた礼を込めて、頭を下げる。

 そして、目の前の鬼に向かい合う。


「待たせたな、ケモノ野郎」

「クソガキ、お前はバラバラにして、食ってやる」

「……少し黙れ」


 そう告げて、俺は傷ついた彼らの姿を脳裏に浮かべる。

 気を失っていた、鳩山。

 防衛班のメンバーは、数名が欠けていた。

 おそらくは、もう。


「お前は……!」


 ボロボロになった、金森さん。

 傷ついた足からは血が止まらず、それでも武人としての最後を選ぼうとした、彼女。


「お前だけは、許さん」

「おもしれェ、やってみろや!!」


 腰の刀を抜き、下段よりもさらに低く、刀を構える。

 俺の最速の型、あの日初めて鬼と対峙した時から、ずっと訓練してきた型。


「へェ、おもしれェ……!!」

「はあっ!」


 最下段、そこから放つ最速の突き。

 三の型、波風。


「ウォッ、と!」


 ガルはサイドステップして、俺の突きをかわす。

 甘い、波風はそこから変化する二段構えの突き。

 俺の手元が風を包み、動きを変える。


「おおォっ!」

「ガ、アアアッ!」


 その波風を、ガルはつま先一本でムリヤリに地面を蹴る。

 その勢いのまま回転して、変化した突きを躱した。


「オラァッ!!」

「うおっ!」


 ガルが着地した場所は、俺の背後。

 そこから、前蹴りを繰り出して来る。

 それを、俺は刀で受け止めた。


「ぐうっ」


 それを受けて、後ろに俺は吹っ飛ぶ。

 背には、ガレキが転がっている。

 まずい、破片に刺されば負傷は免れない。


「風よ!」


 風をまき散らし、ガレキを吹き飛ばす。

 それを見て、ガルはノドを鳴らした。


「お前、精霊持ちか、ギャハ」

「一緒にするなって、言ってたぜ?」


 アイツけっこう、そう言うとこうるさいんだよな。

 精霊なんて、僕のパシリだとか、言ってな。


「どっちでも、一緒だろォが!」

「結構、違うんだよ!」


 俺は地面を蹴り、もう一度攻勢に移る。

 今度は上段からの一撃。

 一の型、疾風斬。


「くらえっ!」

「ハッ」


 俺の上段の一撃を、奴は腕で防ごうとした。

 甘いぜ、俺の必殺の剣技はそんなのじゃ、防げない!


「甘い……、なっ!?」


 食い込んだ刃を、奴は筋肉で受け止めていた。

 そして、ニヤニヤと笑っている。


「終わりかァ?」

「チッ」


 俺は刀から手を離し、その場を離脱しようと試みる。

 だが、その直後、腹部に激痛が走る。

 殴り飛ばされ、俺は宙を舞う。


「ぐあっ!」


 落下して、俺は受け身も取れずに、背中から落ちる。

 ガレキにぶつかり、意識を失いかける。


「ぐおおお……!」


 俺は全身の痛みに耐え、意識を手放さずに持ちこたえる。

 強い、これが……人狼。


「ギャハハハ、だから言っただろーがよォ!!」

「はあっ、ハア……」

「人間は、オレ達鬼には勝てねえンだよォ!!」

「勝て、ない……!?」


 鬼には、勝てないのか……?

 俺は、奴には……。


 《弱い仲間なんて、いらない》


「あ……!?」


 《俺は、強くなるぞ》


「ああ、そうだな……!」

「ン、起きたか?」


 全身の痛みに耐え、俺は立ち上がる。

 そして、折れそうな心を震わすために、強そうな言葉を選んで、吐く。


「そこに勝機があるなら、手繰り寄せる、までだ……!!」

「それ、さっきのデブも言ってたなァ」

「力を貸せよ、なあ……」

「しゃーねえから、こいヤ?」


 俺は、全霊力を集中して、風を起こす。

 そして、風に命じる。


「風よ、吹き荒れろ」


 俺の全身に、風が集まって来る。


「ギャハハ、マジで精霊並みだナ!」

「余裕ねーから、ムダ口は減らすぞ?」

「安心しな、オレも結構ビビってんだぜ?」


 そう言う奴も、四つ足で地面に立っていた。

 なるほど、格好からするに、それなりに追い詰めていたんだな。


「この格好はケモノくせーから、嫌なんだけどよ……」

「俺はその姿、格好いいと思うぜ?」

「抜かせや、クソガキ……!」


 腰から、脇差を取り出す。

 命を任せるには、使い慣れた武器が一番だ。


「オレは狼の長、ルー=ガルー。 お前も名乗れや、チビガキ」


 その動きを止め、俺の答えを待つガル。

 それに対し、俺は最下段に構えて、奴の問いに答える。


「天城 嵐……さっき、名乗ったろ?」

「クク、すぐ忘れんだよ、オレ」

「では……参る!!」


 俺は地面を蹴って、奴の足を狙う。

 ガルは、俺を蹴り飛ばそうと、ローキックを繰り出す。


「遅い」


 風を使い、俺はガルよりも無理やりに速く動く。

 そしてヤツの足を、両断する。


「カカッ、ならもう一本よぉ!」


 そう叫び、中空にもかかわらず、ガルは残された足で俺を蹴り飛ばそうとする。

 だが、それも叶わない。

 ガルの両の豪脚はすでに、喪われているのだから。


「あー、そうか……」

「終わりだ、ルー=ガルー」


 その豪腕も、すでに無い。

 天城流、五の型『疾風怒濤』。

 八つの斬撃、それをほぼ同時に放つ、天城家最速の剣技。


「オレ様も、終わりか……」


 ―五つ。

 その鬼の名前は狼の長、ルー=ガルー。

 ―六つ、七つ。

 その身を、無数の斬撃に切り刻まれながらも、彼はなお。


「アラシ、か……あばよ」


 ―八つ。



 狼男の誇りを忘れず、命乞いを一切しなかった。

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