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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第4章「少年期 ウールヴヘジン編」
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第43話「攻防」

 

 戦闘が始まってから、小一時間が経とうとしている。

 戦況ははっきり言って、互角だった。

 鬼は大勢で向かって来たが、防衛班で互いをフォローし、主力班で数を削ぐ形で動いているうちは、前線は崩壊しない。


「アラシ、俺達はまだ動かないのか?」

「まだ、動く訳には行きません」


 急かす長谷に、俺は待ったをかける。

 まだだ、せめて能力持ちクラスが出現するまでは俺は待つ。


「ですが、こう膠着していては……」

「椋鳥、この場の指揮官はアラシ様だ」

「それはわかっていますが……」


 椋鳥も焦っているのか、口数が増えてくる。

 それもそうだろう、あの場で持ちこたえているメンバーの中には、彼らの同僚もいる。


「まだです、まだ……」


 だが、まだだ。

 俺はまだ、動かない。

 そう考えていると、その時は来る。


(アラシ、アイツだ)


 ……来たか。

 ふいに聞こえた、そして感じた。

 そして、俺は立ち上がる。


「どうした、アラシ?」

「風が、聞こえました」

「天城様、何を言って……!?」


 不安がる二人に対し、俺は短く話を伝える。


「出ます、僕らも戦場に向かいます」

「承知致しました、アラシ様」

「はああっ?」


 ヒバリだけが、理解したように笑っていた。



 ---



 戦場で、無数の鬼に囲まれている男女の集団がいた。

 その場には、怪我の深い者もうずくまっている。


「ポポポ、これは厳しい」

「鳩山殿、私は置いて行きなさい!!」

「それは出来ませんよ、ポー!」


 うずくまっている者の中に、防衛一班のリーダー、金森の姿もあった。

 傷ついたその足からは、骨が見え隠れしている。


「死角で見えなかった……不覚!!」

「私からも、見えませんでしたぞ」


 彼らは、ある一体の能力持ちの鬼に襲われていた。

 その鬼の能力は、周り人間の目から逃れるように、透明になる。

 その能力を、彼らは把握していない。


「くそっ、どこだ、何処にいる!?」

「そう声を荒げるな、金森殿!」


 それに気づかない限り、その鬼に対抗する術はない。

 今も一人一人と、傷ついていく。


「クソおおっ!」


 その鬼が次に狙ったのは、傷ついた金森。

 おそらく、傷が深かったのもそうだが、声がうるさかったからでもあろうか。

 狙われたのに気付かない金森には、その牙はなす術は無かった。


 ---はずだった。


「なっ!?」

「大丈夫かい、お嬢さん」


 その見えない鬼を斬って捨てたのは、主力班のサブリーダーである、飛鳥だった。

 彼は、姿の見えないはずの鬼を、一刀両断したのである。


「大丈夫かな、えっと、金森さん?」

「ポッポ、助かったが……よく分かったですな、飛鳥殿」

「うーん、なんとなく?」


 そう、冗談交じりに飛鳥は笑う。

 遅れてその場に、宇羅がやって来た。


「おい、飛鳥!」

「ああ、宇羅殿。 すまないな、勝手に走り出して」

「いや、遠くから見えた。 すまない、俺からも礼を言おう」

「ハハ、そんなのはいいですよ」


 同僚を助けられ、頭を下げる宇羅に対して、飛鳥は飄々と笑っていた。

 そして、鳩山達に向かって話す。


「鳩山殿達は、金森さんと傷ついた人たちを砦に。

 僕たちがここは保たせます」

「ポッポ、頼みましたよ、飛鳥殿」

「ええ」


 そう言って、飛鳥と宇羅は構える。

 その後ろに、金森は消え入りそうな声で叫ぶ。


「あ、飛鳥殿!!」

「なんです、金森さん?」

「本当に、すみません……私が、もっと強ければ!」


 泣きそうな嗚咽交じりの声で、彼女は叫ぶ。

 そんな彼女に対して、飛鳥は振り返って答える。


「君の頑張りのお陰で、大勢が助かったんだ。 君は、胸を張っていい」

「あ、飛鳥殿……!」

「それに君が助かって、僕は嬉しいから」


 そう言って、飛鳥は微笑む。

 その顔とその言葉に、金森は顔から火が出そうになった。


「では、任せたましたぞ〜」

「あああ、飛鳥どのー!!」


 金森と傷ついたメンバーを連れ、去って行く鳩山。

 笑ってそれを見送る飛鳥に、宇羅は声を掛ける。


「おい、お前……責任取れよ。 金森はあの通り、初心なんだ」

「ハハ、ご冗談を」

「やっぱ、女たらしだな」

「僕は、いつも本心からの言葉しか言ったことはありませんよ?」


 二人は顔を合わして笑った後、その背中を向けた。


「さて、ここは持ち堪えて見せましょう」

「ああ、何処まで行けるか」

「無論、最後まで!」


 鬼の群れがその場にいた、彼らに襲いかかった。


 ---


 血溜まりの上に一人の男が立っている。

 その全身に、返り血を浴び、その周りには数多の鬼の亡骸が転がっていた。


「ふう、こんなもんかな?」


 その中心に、佐伯 春馬は立っていた。

 わざと鬼に見せつけるように、その力を誇示するかのように。


「お前、ふざけてるだろう?」

「……ん?」


 やがて、そんな彼の前に、一人の鬼が姿を現す。

 体を毛皮に包まれ、口元には鋭い牙を生やしている。

 その手足には、触れるだけで肉を切り裂くような爪が備わっていた。


「匂いでバレバレなんだよ、お前。 狼男、舐めてんのか?」

「お前が散々、血の匂い撒き散らすからよ、ウチの大将がお怒りなんだわ」

「ふう〜、やれやれ」

「そうやって殺すなら、もっと上手くやれや」


 仲間の死体を弄ばれ、鬼は苛立ち交じりに佐伯に鬱憤をぶつける。


「……ぷっ、くくく」


 そんな鬼を見て、佐伯は鼻で笑った。


「おいおい、何がおかしいんだよ? やっぱ舐めてんだろが、お前よォ」

「いや、こんな簡単に引っかかってくれるのかと思ってな?」


 苛立つ目の前の鬼に、そう彼はさも当然のように答える。

 その態度に、鬼はさらにイライラを募らせた。


「テメエ、何が言いたい!?」

「コレ、わざとやってんだわ?」

「……ハァ?」


 鬼は、呆気に取られて、声を上げる。

 仲間の死体を弄び、辺りに臭気をまき散らした、行為。

 その行為を、コイツはわざとやっている?

 そう言われ、彼の全身の毛が逆立つ。


「テメエ、覚悟できてんだろうなあ……!!」

「そう、ワザとだよ」


 鬼は彼に飛びかかろうと、全身を震わせた。

 その時に、体に悪寒が走る。


「チイッ!」


 後ろに跳びのき、佐伯と距離を取る。

 鬼のさっきいた場所は、地面がえぐり取られていた。


「チェッ、おしい!」

「て、テメエ……!?」


 彼の右腕には、鞭が握られていた。

 その鞭で、地面をえぐり取って見せたというのだ。


「お前みたいな奴をおびき出す為に、ワザとやったんだよ」


 彼は、鞭を宙に動かし、鬼を近づかせない。

 近づくことが出来ずに、鬼はノドを鳴らす。


「俺の仲間達を、お前みたいな奴に傷つけさせないためにな」

「クク、カカカ!」


 佐伯が振るう鞭を、鬼はかわす。

 それを、彼らは繰り返し続ける。

 そんな事を繰り返すうちに、鬼は彼を認めて笑いを上げる。


「上質なエサに、ありつけたなあ……」

「誰がエサだ、誰が」

「ククク、俺の名前はコートード、覚えとけよ!」

「ああ、そういうのいいから。 どうせ死んだら覚えてないしな」



 砦から少し離れた所で、もう一つの決死の攻防が行われていた。

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