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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第1章 「幼年期」
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第4話 「出陣と二人の友」

 

 屋敷の門の前で剣士風の格好をした、男女が十数名ほど集まっている。

 軍服を着て、帽子を被り、腰には刀を携えている。

 その中には、俺の見知った人も何人かいた。

 従者の鷲宮(わしみや) 雲雀(ひばり)もまた、軍服を着て帽子を被っている。

 その腰には、愛刀の金糸雀を携えている。


「ヒバリ、体には気をつけて下さいね」


 そんな彼女に俺は、心配の言葉をかける。

 彼女は強い、俺では相手にならないくらいに。

 ハッキリ言って父さんの部下の中では一二を争うくらいの剣術の腕なのだ。

 心配した所で、正直俺にはどうする事も出来ないのだが…。


「大丈夫ですよアラシ様、今回の任務は近隣の鬼を退治するだけですので…それに、今回は他の五家とも協力体制ですので」


 そう言って彼女は俺に心配は要らないとばかりに、ドンと胸を叩く。

 他の分家と協力体制を図る、故にそれだけの人数ならほとんど危険の無い任務らしい。


「ですが、油断はしないで下さいね」


 だが、油断は命取りだ。

 この世界の鬼というのはまだ見たことは無い。

 だが、弱いということは無いはずだ。


「ええ、もちろんです…時にアラシ様」


 彼女が俺に真面目な顔で話しかける。

 一瞬ドキッとする。

 なんだ、俺がなにかしただろうか。


「えっと、なにか?」

「この戦に参加している間に、分家の者が何人か身を寄せにくるはずです、その者たちは天城家のこれからを担う者たちなので、アラシ様にはその者達をお任せしたいと当主様は言っていました」

「父さんがそんな事を?」

「ええまあ、ほとんどが非戦闘員なのでその者達の人心掌握ですかな」


 そう言って彼女は俺に笑いかける。

 ああ、寂しくないように手配してくれていたのだろう。

 本当に彼女には、頭が上がらないな。


「分かりました、お受けしましょう」

「ふふ、頼みましたよ?」


 彼女とそんな話をしていると、心が落ち着いてくる。


「集合!!」


 そんな話をしていると突然、大声が聞こえてくる。

 俺は、声がした方向に注目する。


「皆の者、よく集まってくれた」


 そこにいたのは、父さんだった。

 俺はその声を聞いて、少し後ろに下がる。

 それを見た父さんが話を続ける。


「俺は天城家第9代当主、天城(あまぎ) 総一郎(そういちろう)だ」


 そう言って父さんが周りの者達を見回す。

 十数名の軍服達、みんな天城家の分家なんだろう。


「今回の任務は、東京周辺の鬼の討伐。

 我々は帯刀(たてわき)家との合同任務となる」


 帯刀家…おそらく他の五家の事だろう。

 2つの一族が協力しあう、そうする事で被害を抑えたりするんだろうか。

 他の一族ってのはどんな人たちなんだろうか、

 もしかしたら、天城家は剣士っぽいけど他の一族は魔法使いだったりするのかもしれない。


「皆の活躍と一族の繁栄を祈り、刀よ」


 そう言って父さんは、刀を天に掲げる。


「我々は国を護るために存在する王の城!」

「我らが剣は王の、国の、民の剣!」

「風の精霊の加護をその身に、鬼人達の滅殺を!」


 父さんは口上を話している。

 もしかして、あれが天城家に伝わる宣誓の儀だったりするんだろうか。

 けっこう恥ずかしそうだが、父さんや周りのみんなは誇らしげに聞いている。

 この世界に、中二病とかないんだろうか。


「出陣する!」


 ウオォォォと皆が時の声を上げた。

 出陣だ。

 おそらく任務が終わるまでは戻ってこないだろう。

 そう思って父さんを見ていると、俺の元にやってきた。


「アラシ、少しだが留守にするぞ」

「はい、父さん」


 俺たちは、あまり多くを話さなかった。

 大丈夫だ、父さん達は犠牲なしで帰ってくるだろう。

 不思議とそんな気がした。



 ---



 父さん達が任務に行ってから3日が経った。

 その間に、少し俺の日常に変化があった。


「天城様は、もう真剣を触らせてもらえるのですか?」

「ええ、でも僕もつい最近触らせてもらえるようになったんですけどね」

「僕なんて、最近木剣で練習を始めたのに…」


 同年代の友人が出来たのだ。

 2人の男女。

 それぞれ天城家の分家の子供達。

 男の子の名は霧隠(きりがくれ) 直人(なおと)、霧隠家の次男。

 実に賢そうな顔をしている。

 女の子の名は鷲宮(わしみや) (にお)、鷲宮家の次女。

 あのヒバリの妹らしい。

 ヒバリに似て、キリッとした顔をしている。


 どちらも将来美形に育つであろうことは、容易に想像できる。

 現在、俺はこの2人と屋敷で暮らしている。

 と言っても、父さん達や彼女達の家族が任務から帰ってくるまでだ。


「せあっ!」

「くっ!」


 最初は、1人で訓練をしていたのだが途中から2人が入りたそうにしていたので誘ったら、2人とも参加して来たのだ。

 今日も、2人と訓練を続けている。

 と言っても、木剣の寸止めの試合だ。


 2人の実力は同じくらいなので、はっきりいって危ない時がある。

 寸止めが、止まらない時があるのだ。

 ほら、今も鳰が勢い余って木剣をナオトに振り下ろしそうになっている。


 俺はそんな2人の間に入ってそれを止める役なのだ。

 俺は、地面を蹴って間に入る。

 そして木剣で鳰の剣を止める。

 カッと、音を立てて2人は動きを止める。

 その動きを見て、俺は終わりを告げる。


「それまでです、今日は終了しましょう」


 動きをコントロールできないなら、訓練の意味はない。

 そう言った俺に、2人は驚いた顔をしている。

 どうしたのかと2人を見ていると……。


「アラシ様、すっごーい!」

「今の動き、古武術か何かですか?」


 うん、今の動きの事を言っているのだろうか。

 あんなのは父さんやヒバリ達は簡単にやってのける。

 俺なんかより素早くムダのない、反応の余地を残さない動きだ。


「もうアラシ様は、そこいらの剣士よりも実力は上かも知れませんね!」


 そんな事は無いだろう。

 俺は、まだヒバリに一太刀も入れる事が出来ていないのだから。

 あれ、でもヒバリって父さんの部下の中で1番強いって話だし…もしかして俺ってけっこう…。


「いやいや、そんな事はありませんよ」


 いやいや、そんな事はない。

 そうやって油断しているといつか足下をすくわれかねない。

 俺はまだまだだ。

 まだ何も成し遂げていない。

 そんな奴が、デカイ顔をしてはならないのだ。


「とりあえず、今日はもう休みましょう」


 そんな声をかけて、今日も訓練を終了させる。

 さて、2人が休んだら自分の修行もちゃんとしておかないとな。

 そんな事を考えながら2人と別れた。

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