第42話「開戦」
荒野の真ん中に、四人の鬼、狼男の姿があった。
その後ろには、大勢の鬼の群れ。
その場にいる鬼の全てが、この四人の狼男に従っているのだ。
「本当に、オレが大将でいいんだな、ウル?」
「ええ、私はそれで構わないわ、ガル」
その中でも特に目立つ、艶やかな毛並みの二人の鬼。
一人は体躯の大きな、いかにもな狼男。
もう一人は、人と比べてもあまり変わらない大きさの見た目をしている。
その姿は、普通の大人の女性とあまり変わらない。
だが、その端々には、狼の特徴が見え隠れしている。
「貴様、ウル様にそんな口を……!」
ガルと呼ばれた大きな狼男に、残りの二人のうち、一人が口を挟む。
彼もまた、およそ狼男には見えづらい見た目をしている。
「黙ってろ、ザコが」
「なんだと?」
「いいから、ライカ」
そうウルと呼ばれる鬼に言われ、彼は口をつぐむ。
それを見て、最後の一人は鼻をふんと鳴らした。
「おーし、よく聞けお前ら!」
そうして、ガルと呼ばれる鬼が立ち上がる。
そして、後ろの鬼の集団に向かって、声を荒げて言った。
「もうすぐしたら、言ってた場所に乗り込む!!
中の奴らは、殴って、引き裂いて、殺せや!」
下品な笑いをあげる彼に、鬼達は声を上げる。
「オレ達の本能のままに、蹂躙しろ!
人間共は、オレ達の食料なんだからよ!」
彼が叫んでいる横で、ウルと呼ばれる狼女は笑っていた。
これから、どんな事が起こるのか、彼は知らないのだと。
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「眠いっスね……」
「静かにしろ、長谷」
「しょうがないですよ、この夜中じゃあ」
俺達は、寝ていた所を叩き起こされたのだ。
その理由は、すぐに判明したが。
「どうやら、鬼が近づいて来たみたいですね」
「ようやくですな」
「ええ、砦からは三人とも、まだ出ないように」
俺がそう言うと、三人は頷き、息を殺す。
まずいな、まだ夜明け前だ。
こう暗いと、鬼の場所が特定できないかもしれない。
「鬼の方が、夜目が効きますからね、マズイかもしれませんよ」
「かなり、慎重な奴がリーダーみたいだな」
「とはいえ、皆さんまずは手はず通りに行きます」
「ああ、まずは待機、だよな?」
そう長谷に言われ、俺は頷く。
まずは戦況を読みつつ、不利な場所に動く。
そうしながら、鬼のリーダーを探すのだ。
「よし、じゃあ……」
「静かに、アラシ様」
ヒバリに言われ、俺は口を閉じる。
そして、耳をすまして気づいた。
「どうやら、始まったようですね」
「……ええ」
鬼が、動き始めた。
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動きを開始した鬼を迎え撃つように、立ちはだかる二つの班。
「ポポポ、よろしく」
「ええ、油断なされぬように」
防衛一班のリーダーは、鳩山。
隣に立つは、防衛二班リーダーの金森。
彼らの役割は、鬼を抑えつつ主力班に隙を突かせる。
「数だけの鬼、大したことはありませんよ」
金森は、そう軽く口にする。
そんな彼女に、鳩山は微笑みながら忠告する。
「ポ、やはり若いですなあ」
「年は関係ないでしょう」
「ポッポッポ、それは戦場で分かるでしょうぞ」
「ふん、減らず口を」
鳩山と金森は、その場で振り向く。
そして、やがて口にする。
「来ましたな」
「ええ、人にあだなす悪鬼共が」
その数分後、戦場は動き出す。
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「隊長、俺達はどうするんで?」
「どうもこうも、防衛班次第だね」
主力第一班、リーダーはシコロ。
サブリーダーに、板東。
「ああ、持ち堪えれますかねえ」
「彼次第だね」
「彼って、あのデカイ体の変な喋り方の?」
「ああ、金森だけでは厳しいね」
そう言って、シコロは苦笑する。
やはり、と板東もそれに続く。
「やっぱ、金森にリーダーは荷が重いですよ」
「それが総一郎の命だ、仕方ない」
そう言って、二人はその時を待ち続ける。
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「よろしくな、えっと、飛鳥だったか?」
「ええ、こちらこそ」
主力第二班、リーダーは宇羅。
サブリーダーに、飛鳥が続く。
「おお……」
「何だ、俺に何か付いてるか?」
ジロジロと宇羅を見る飛鳥に、彼は疑問をぶつける。
そう言われ、彼は笑って口を開く。
「いや、八咫鴉は噂通り持っているんだなあ、と思いまして」
「ああ、コレか」
そう言って、宇羅は背中からある物を取り出す。
「鴉は、刀以外を扱うっていうあれ、本当だったんですね〜」
「俺の相棒はコイツ、ヌンチャクって言うんだ」
「これで、鬼を?」
「ああ、手っ取り早くぶん殴る!」
「あはは、それは凄いですね!」
そう言って、二人は笑いを上げる。
まるでこれから、戦場に向かうようには、見えなかった。
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「さーて、俺はどうすっかなぁ」
砦から少し離れた所で、一人の男が言葉をこぼす。
その身には、すでに返り血がついていた。
「てか隠密班俺一人だけって、おかしくね?」
佐伯はそう言って、鬼の死体を弄んでいた。
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「そうか、奴ら動き出したか」
「ええ、そういえば天城様はどう動くんですか?」
「ん、俺か」
現在砦に残っているのは、当主の総一郎。
アラシの班、そして防衛三班のリーダーのアテラとそのメンバー達。
「俺は、基本動かん」
「ええ……」
「当たり前だ、俺は総大将だぞ、まあ戦況次第だな」
「そう言うものですか?」
軽々しくそう呟く総一郎に、アテラは苦笑交じりに答える。
「ああ、本当は俺が出ないなら、それに越したことはないんだが……」
「まあ、そうですよねえ……」
そう二人は、顔を合わせて語っていた。




