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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第3章「少年期 館編」
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第35話「御館様」


「よく来たね、総一郎」

「ハッ、……御館様こそ、お久しぶりでございます」


 現在俺たちは、父さんと共に御館様の部屋にまで通されていた。

 今俺の目の前にいるのは、この国で最も権力を持った人物。

 不思議なのは、それだけの人物に、護衛の一人も付いていないのだ。


「私の側近の一人、鷲宮 雲雀と息子の嵐です」

「はっ、鷲宮 雲雀と申します。 お会いできて、光栄でございます」


 ヒバリは跪いた体勢から、頭を下げる。

 俺も同じように、頭を下げて口を開く。


「天城 嵐と申します」

「ああ、君達の事は手紙でよく知っている。 これからも、総一郎のことを頼むよ」

「はっ、全身全霊をかけて、望みます」


 御館様の声は、透き通るように聴こえてくる。

 何だろう、心に響くような不思議な声だ。

 それに、見た目も相当若く見える。

 着物を着て、肩くらいまでの長さの黒い髪が特徴的だ。

 もしかすると、父さんと同じくらいの歳だろうか。


「ふふ、アラシ。 気になるかい、私が」

「えっ、ああ、いやその……」


 顔に出てたか?

 いや、そんな事は無いと思うんだが……。


「総一郎の息子と言うことは、私の子供と同じようなものさ……ゆえに、君の考えくらいは分かる」

「そ、そうなんですか?」


 なんて人だ、御館様は。

 流石、鬼狩りの一族の長。


「冗談だぞ、アラシ」

「ハハハ、冗談だ」

「あえっ?」


 どうやら冗談だったらしい。

 なんて人だ、この人。


「フフ、総一郎の息子だって言うからね、どんな悪ガキかと思いきや。 なかなか素直な子じゃあないか」

「私をどんなヤツだと思っているんですか、あなたは」

「ゴメンゴメン、ついね」


 二人は笑いながら話をする。

 彼らにつられて、俺も顔がつい緩んでしまう。

 そんな俺を見て、笑っていた二人だったが。


「さて、早速だが……総一郎」

「はい……御館様、私を呼んだ理由とは?」

「ああ、そうだな……アラシ」

「はい、なんでしょう」


 ふいに、御館様が俺に話しかけてくる。

 なんだろうか。


「屋敷の中を見て回って来るといい」

「えっ、いいんですか?」


 暗に、話の邪魔だと言われてるので、それに従っておく。

 俺は空気の読める子供なのだ。


「ああ、こんな年寄りと話をしていても暇だろうしね」

「御館様、申し訳ありません」


 父さんが、頭を下げたので俺も似たように下げておく。


「では、僕はこれで失礼します」

「ああ、また大きくなったら此処に来なさい」


 俺は、父さんとヒバリと離れ、その場を後にした。


 ---


「坊主、これ分かるか?」

「えっと、何ですかね……」


 御館様の部屋から連れ出された俺は、その後別の部屋に通された。

 そして、さっき門の所で会ったチャラ男こと、長谷と何故か話をしている。


「ハハ、俺も分かんないわ!」

「ええ……」

「でも何か高そうだぜ!!」

「それは僕でも分かりますよ……」


 何やら高価そうな壺を片手で持ちながら、長谷は軽薄そうな笑みを浮かべる。

 だけど不思議と、その笑みを胡散臭いとかは感じない。

 何だろうか、そうそう憎めない奴って感じだ。


「鷲宮センパイに剣術、教えて貰ってんのか?」

「ええ、最近は機会が減りましたけど、昔はしごかれましたね」

「ハハハ、俺も昔はよくセンパイにボコボコにされたよ」


 そういえば、ヒバリの昔を知っているのかこの男は。

 いい機会だから、ヒバリの昔を聞いてみようか。


「ヒバリは、昔からあんな感じだったんですか?」

「え、どんな感じ?」

「えっと……今みたいに真面目だったのかなと」

「ああ、どうだったかな?」


 俺の質問に、適当な返事を返す長谷。

 だけど少し考えるそぶりを見せた後に、ああ、と口を開く。


「知る限りは、途中からじゃねーかな……。 俺が入学した時は最初はあんまりやる気無さそうだったぜ?」

「へえ、あのヒバリが……!」


 ヒバリのやる気なさそうな顔……一度でいいから見てみたい気もする。


「センパイの昔なら、ハルさんの方が知ってるんじゃないかな、ほら……門の前で居たもう一人の男の人だよ」


 ああ、あの癖っ毛の男か。


「ハルさんは鷲宮センパイと同期だし、色々知ってると思うぜ」

「ありがとうございます、また聞いてみます」

「いいってことよ、お前は将来の上官かもしれないからな!」


 そう言って、長谷は笑っている。

 中々、話すと面白い奴だな。


「あー!? 何サボってんのよ、アホ涼!!」


 長谷と話をしていると、後ろで叫び声がした。

 驚いて後ろを振り向くと、軍服を着た小柄な女性が立っている。

 この女性も、門の前で会った人だ。

 たしか、名前は……。


椋鳥(むくどり)さん、でしたか?」

「えっ、あっ、天城様?」


 俺がいることに驚いたのか、すっとんきょうな声を上げる彼女。


「申し訳ありません、彼に屋敷を案内してもらっていたんです」

「いえっ! いえいえ、そういう事なら問題ありませんよ!」

「アラシ、もっと言ってやって!」


 調子に乗った長谷に対して、ムクドリは長谷に睨みを効かせる。

 その視線を受けた長谷は、とっさに目をそらす。


「そっ、それより何の用だよ百舌(もず)?」

「えっ、えーと……用は無いわよ」

「どういう事だよ、それ?」

「そ、そんな事より天城様、何か質問はありませんか?」


 ああ、おそらく彼女も暇だったから彼に絡みに来ただけなんだろう。

 まあいいか、ちょうどいいから気になった事を聞いてみよう。


「ムクドリさんや、長谷さんはこの屋敷の護衛なんですか?」


 俺がそう言うと、彼らは困ったように顔を見合わせている。

 何だろうか、また何かマズイことを聞いたか?

 そうしていると、やがて口を開き始めた。


「えっと……私達は唯一、上の許可が無くても国境の外に出る事が可能な部隊に所属しているのです」

「えっ、そんな部隊があるんですか!?」


 そんなのは初耳だ。

 許可なく国境を越えることは厳重注意、場合によってはペナルティを受けるらしい事は、勉強で習っている。

 それなのに、それが許されているのか。


「俺達は、情報収集の為の遠征部隊に配属されているんだよ」

「へえ、そんな部隊に……」

「ええ、私たちを含めて、現在メンバーは八名しかいませんけどね」

「上からは、『八咫鴉(ヤタガラス)』って呼ばれてる」


 八咫鴉、か。

 外の世界は、鬼が徘徊しているような所だ。

 そんな中を、生身の体一つで生き抜いて来た八人。

 間違いなく、精鋭揃いなのは聞いただけで分かる。


「まあ、他の奴らからはカラス呼ばわりされるけどな」

「鬼の死体漁って、食いぶち稼ぐハイエナ呼ばわりもか、ね」

「そんなこと、ないですよ」


 彼らが何故、外に行くのかは分からない。

 だけど、そんな危険な場所に向かう彼らがハイエナなんて呼ばれていいわけがない。

 クソッ、なんだかイライラしてきた。


「ハハハ、アラシ、お前はいい男になるぜ!」

「その気持ちだけで、我々は救われます」

「二人とも……」

「そうだ百舌、ハルさんが菓子持ってたろ?」

「ああ、あったわね」

「アラシ、ちょっと待ってろよ? ウマい菓子持って来てやるから」

「えっ、ちょっと……」


 そう言うと、二人で部屋から出て行ってしまった。


「どうしようかな……」


 なんだか手持ち無沙汰になってしまった。

 まあ、大人しく待っておくか。


「…………」


 今、何か声がしたか?


「………………ウウ」


 やっぱり、声がする。

 誰かが、すすり泣くような声だ。

 俺は、その声の方に向かって行った。


「これ、ヤバいかな?」


 札が貼られている、いかにも何か封印されてそうな部屋が目に入った。

 恐らく、この中の人物の声だろう。


「…………あ、うう!!」


 部屋の中から、やはり声が聞こえる。

 もしかしたら、苦しんでいるのかもしれない。

 マズい事になるかもしれない、が意を決して俺は扉の前で口を開いた。


「大丈夫か?」


 やがて、扉の向こうから声が聞こえた。


「……あなた、誰?」


 

 なぜだろうか……やけに、懐かしい声だった。

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